小小説 第6話 浮気な隠居 前編

 昔々、ある国の王様が国力を強めるために、全国から賢く良識のある人物を募集することにした。
役人に指示して、「賢く良識のある人、或いはそんな人を知っている百姓は役所まで申し出るように」という掲示を出した。
 掲示が出されてしばらくすると、ある人が、
「私たちの村に1人、かなり偉い隠居がいらっしゃる」
と申し出てきた。
その話を聞いた王様はとても嬉しくなり、早速一番信頼している大臣を呼んだ。
「噂によると、ある村に1人の偉い隠居がいらっしゃるということだ。
知恵も豊かだし良識もあるそうだ。その隠居に私の策士をさせたいが、君の考えはどうじゃ?」
 それを聞いて大臣は不安に駆られた。
実は、大臣はその隠居と知り合いだった。
知り合いどころか、書生時代の同士なのだった。
良識といい、知恵といい、大臣の方が見劣りした。
大臣はずっと、そのことに嫉妬し、それを根に持ってきたのだ。
「私はせっかく今の地位と権力を得た。
将来が楽しみなところなのに今更そいつの陰で生きるのはごめんだ!
絶対にそいつが王様の策士になるのは許せない!
いずれにしても何とかして止めなければならない」
と大臣は思った。

「王様、私はその隠居と知り合いです。彼には策士が務まらない恐れがあると思います」
大臣は深刻な様子で言った。
「なぜだ? 彼は賢くはないのか?」
「賢いことは賢いのですが、王様の策士になるには、人柄の欠点もばかにできません。その隠居はかなり浮気な人間です」
「本当か!?
そんな評判のいい人が浮気者であるとは…」
と王様は自分の耳を信じられない様子で聞き続けた。
「噂によると、その人は日頃からスキャンダルなんか全然ない。女をからかうというような話も一切ない。
君はどうしてその隠居を浮気な人間だときめつけるのか?」
「噂は所詮、噂にすぎません。
表面から見たことが必ずしも事実ではありません」
と大臣は作り声で言った。
「でも話によると、その隠居の妻はとても醜いが、彼は少しも嫌うことなく大事に見守ってきたそうだが…」
「だからこそ、そいつは浮気だと確信できます」
「どういうことだ…?」
王様は訳がわからなかった。
「そんなに醜い妻さえも放さないんです。
美人だったら言うまでもないと思います。
浮気者といったら、そいつをおいて他にいないでしょう」
 さすがに口のうまい大臣である。
「なるほど、一理ありそうだが、とりあえずその人物を招いてくれ。
私はこの目で見たいから」
 仕方がない。
大臣はしぶしぶ王様の言いつけに従い、隠居を招いてきた。
しかし大臣には策があった。

~上海ジャピオン2月20日発行号より

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