小小説 第10話 天使の背中 前編


 生い茂った花や緑に囲まれた大きな池には、白鳥の親子が2人で暮らしていた。
 毎日、白鳥母さんは食べ物を探しに出かけた。
小白鳥はこの格好の遊び場で、母さんの心配をよそに泳ぎまわったり石の上から飛び込んだりと元気いっぱい。
「安全第一、油断大敵だよ!」という母さんの話を馬耳東風していた。
夕方になると、白鳥母さんは豊かな食料を持ち帰り、小白鳥はその美味しい食事を思い切り楽しんできた。
一番幸せなことは、晩ご飯が終わってから母さんの胸に横になって、いろいろな物語を聞くことだ。
白鳥母さんは素晴らしく、身体にいくつもの物語が押し込まれていたらしい。
そして、その中でも小白鳥の一番好きなのは、天使についての物語だ。
「天使は世の中で一番美しく、善良な人よ。いつでも他人を喜んで助けてくれる」
「天使ってどんな様子なの?」
「いつも白くてきれいな服を着ていて、話す時の声もとても優しいし…。そう、一番目立つ特徴は、私たちと同じように背中に白い翼があるということよ」
と、母さんはにっこり答えた。
それを聞くたびに、小白鳥はいつかその美しい天使と出会えることへの憧れが膨らんでいった。
 生活はこのように無事に日々過ぎていった。
 ある日、白鳥母さんはいつもと同じように食べ物を探すために朝早く出かけた。
離れる前に再び小白鳥に、
「ここで待ちなさい。すぐ帰るからね」
と注意した。
小白鳥も通常通り「は~い」と頷いたが、母さんが出かけたかと思うと伸び伸び遊び始めた。
 いつの間にか、太陽が西の山の向こうへ沈んでいた。
「遅いぜ、母さんは」
遊びで疲れてしまった小白鳥は母さんのことを思って、
「どうしたんだろう?いつもならとっくに帰るのに…。
たぶん今日の収穫が多すぎて母さん一人には重いんだろう。
仕方ないね、もうちょっと待つほかない」
お腹がすいてはいるものの、小白鳥は今日のご飯が日頃より豪華だと思い、独り言を言って自分を慰めた。
 しかし、どんなに待っても母さんの影さえ見えないまま。
あたりはだんだん暗くなっていった。
小白鳥はますます不安に感じて、飢えと恐れにさいなまれていった。
そうして、ついに決めた。
「ここで待ち続けるよりむしろ自分で母さんを迎えに行ったほうがいいかも!」
 しかし、空腹のせいでほんの少し飛んだだけで力がなくなって道沿いの芝生に落ちてしまった。
「どうしよう…母さんはどこに…どうしたらいいんだろう……」
大声で叫ぶに叫べずに不案内な周囲を見渡すと、思わず瞳から涙がこぼれた。
途方にくれていると、向こうからちらちらと人影が近づいてきた。(続く)

作者:ちょうてつ

~上海ジャピオン3月20日発行号より

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