上海で、スヌーカーにハマれ!

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発祥にまつわる物語

「スヌーカー」は中国語で「斯諾克(si1nuo4ke4)」と言い、キューを使ってテーブル上のボールを突いて順に落とす、いわゆる「キュースポーツ」の1種だ。日本ではあまり知られていないが、イギリスを本場としながら、タイやオーストラリア、カナダ、そしてここ中国ではプロ選手やファンも多く、盛んに行われている。

スヌーカーの起源については諸説あるが、現在最も有力とされているのは、1875年にインドで発祥し、後にイギリスに持ち込まれ広がった、というもの。キュースポーツの代表格とされるビリヤードが、数世紀の歴史を持つのに対し、スヌーカーはまだ130年余りと、比較的新しい。またこの名前の由来について、面白い説が残されている。

「スヌーカー」とは、当時イギリス軍内部で用いられていた俗語で「士官候補1年生」を指し、ネビル・フランシス・フィッツジェラルド・チェンバレンという軍人が、自ら考案したこのゲームを仲間と楽しんでいた。そのうちの1人が簡単なポット(ボールをポケットに落とすこと)に失敗した際、チェンバレンは「おいおい、お前のプレーはスヌーカー並みだな」とからかった。しかし彼はすぐに、これがまだ生まれたばかりのゲームであり、ルールも極めて困難だったことから、誰もが初心者との意を込めて、「スヌーカー」と呼ぶことにしようと呼びかけたという。そしてその年、ビリヤード世界チャンピオンのジョン・ロバーツがインドを訪れた際、チェンバレンからこのゲームを紹介され、持ち帰ったのだった。

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一見ビリヤードによく似ている

最も難しいキュースポーツ

ウンチクはさておき、このゲームの説明に入ろう。スヌーカーで使用するテーブルの高さは、ビリヤードのそれよりも高く、ビリヤードが75~80㌢なのに対し、スヌーカーは約85~87・5㌢と、最大10㌢の差がある。また大きさはというと、約357㌢×187㌢で、こちらもビリヤードの290㌢×160㌢に比べ、1・5倍近くもある。一方、ボールの大きさは、ビリヤードが5・7㌢で、スヌーカーが5・1㌢。もちろん、重さもサイズに準ずる。さらに、テーブルの四隅と長辺の中央に1つずつ、計6つ設けられたポケット(ボールを落とす穴)は、ビリヤードではボールの2倍以上あるのに対し、スヌーカーでは何と1・4倍しかないのだ。

ここまでで、勘の良い人はおわかりだろう。要するにスヌーカーとは、ビリヤードよりも大きく高さのあるテーブルで、より小さなボールを突き、それよりももっと小さなポケットに落とすという、非常に悪い条件のもとに行われる競技なのである。

では、基礎知識が頭に入ったところで、ルールの説明とともに、体験の風景を紹介しよう。

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大きなテーブルに、小さなボール

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ルールの難しさに泣く

今回、取材班(という名の素人集団)がお邪魔したのは、上海体育館近くの「101卓球倶楽部」。「吉泰連鎖精品酒店」の5階にあり、中には数えきれないほどのテーブルがズラリ。奥にはもちろん、スヌーカー専用のテーブルも3台備えている。にこやかに出迎えてくれたスタッフに料金を尋ねたところ、1時間当たり1卓45元とのこと。こちらは総勢11人なので、とりあえず2台を借りることにする。

まずは持参のウィキペディアをプリントしたもので、基本ルールを確認。なぜかこういう場になると、しゃしゃり出る癖のあるヨウヘイが、やはり偉そうに説明を始める。そんな彼の話もそこそこに、ビリヤード経験者たちはキューを手にすると、早速プレーをスタートした

同店のスタッフは、全員が大のビリヤード/スヌーカー好き。取材班を取り囲み、ボールの並べ方から手取り足取り教えてくれる。しかし、何せ前述の通り〝難しいビリヤード〟とも言えるスヌーカー。ボールが小さい=打点の面積も狭い、テーブルが広いので、手球と赤球の距離が遠くなり、狙ったコースを外れる…とまるでお話にならない。動画サイトで見たプロ選手は、こんなプレーじゃなかった、せめて1球くらいは…と一生懸命続けるが、1時間が経っても誰一人としてまともなショットが打てない状態に、次々とメンバーが興味を失ってゆき…いつのまにやらテーブルはカオス状態に。と、そこへマッチョな男性が、颯爽と現れた

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スヌーカーに魅せられる

男性は、この近くで働きながら、週に4日ほど同店へ通う、常連のL氏。スヌーカー歴10年以上と、セミプロ級の腕前を持っているそうだ。そんな彼が我々に指摘するのは、キューを持つ手のフォーム。ほぼ全員が、ビリヤードの様にキューに人差し指をかけて持っていたが、実はこれが間違いだという。「スヌーカーでは、手のひらをテーブルに付け、親指を持ち上げてそこにキューを置くんだ」⑧。

 また気さくなL氏は、スヌーカーの歴史から好きな選手、オーダーメイドのマイキューまでと、語りに語る。「ビリヤードは勢いで突っ走る感じで、ウェアもラフだけど、スヌーカーのプロゲームでは、みんなシャツを着てるんだ。動きもスマートで、観ていてため息が出るよ」。これには、事前にビデオを見て勉強してきた取材班も納得。ビリヤードは、1961年のアメリカ映画『ハスラー』で、ビール片手に行う賑やかなバーゲームのイメージが強くなったが、一方のスヌーカーは駆け引きが命。セーフティ(手球と的球の間にほかの球を配置すること)で相手のファウルを誘うなど、頭脳プレーが続出するのだ。

 一方、熱心に聞き入るヨウヘイが、その肉体美に惚れたのかL氏を「アニキ」と慕ってしまった。「スヌーカーのプロの試合を観るのは楽しいけど、友人たちとワイワイやるなら、ビリヤードのほうがいいかもね」。だんだんアニキの話に耳を傾ける人数が増え、全員がスヌーカーの面白さに馴染んでゆく…というところで、今日の体験は終了。記念にと全員で撮影をし、店を後にしたのだった。

今回プレーしたお店
101卓球倶楽部(徐匯店)
住:文定路218号吉泰連鎖精品酒店5階
電:6468-1773
営:10時~翌1時半

アニキオススメのスヌーカー用品店
善吉進口斯諾克球杆専売
住:長寿路97号世紀商務大厦1106室
電:6301-3606
営:不定(要事前電話連絡)

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①ロニー・オサリバン

次のショットを計算し尽くしたプレーも見事だが、構えからショットまでの速さは、早送りしているのでは? と思えるほど。

利き腕は右だが、左だけでの「ブレーク」達成や「センチュリー(100点以上のブレーク)」を叩き出したことも。また、マキシマム・ブレークを5分20秒で成功させ、ギネスに登録された。

②丁俊暉

8歳でビリヤードを始め、15歳でチャンピオンの座を獲得。

冷静沈着なプレーをする熟考型。07年のオサリバンとの試合では、痛恨のミスと観衆のブーイングで涙を流すという繊細な一面も。中国スヌーカー界の若きプリンス。

③ポール・ハンター

甘いルックスとまたそれ以上の実力、気さくな性格で、解説者に「やってられない」と言わしめた大スター。

絶好調だった05年、ガンを発病。世界プロ連盟は彼の復活を信じランキングを34位のまま1年間凍結させたが、翌年10月、この世を去る。彼のプレーに魅せられたファンは多く、今でも動画が再生回数を伸ばしている。

④ジョン・ヒギンズ

巧みな戦術を使い分ける、頭脳派プレーヤー。目標の手前にほかの球を置き「スヌーカー状態」にするなど、相手に苦戦を強いる。

際どい山場でも果敢に攻め、観る者をハラハラさせるが、しっかりと勝ちを取ることで根強い人気がある。

⑤スティーブ・デイビス

世界選手権制覇を6回成し遂げた、伝説のプレーヤー。

年配ながら美しい立ち姿、緊張感のある場面でのスマートなプレー、そして敗戦後の紳士的な言動、そして正確なショットと、マイナスポイントなしの大御所だ。

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~上海ジャピオン2013年9月6日号

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