そうだったのか! 中華料理 ―地名の付いた料理編―

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ロシア語が語源の魚料理

最初に紹介するのは、中国東北地方(黒龍江省、吉林省、遼寧省)を代表する魚料理「得莫利純魚」。こちらは黒龍江省ハルピン市の漁村得莫利村を発祥とし、古くから漁師たちに親しまれてきた。地名の得莫利とはロシア語での同村の呼称を音訳したものなのだとか。

味付けが濃く、具沢山なのが特徴の東北料理。得莫利純魚もご多分に漏れず、レンギョに豆腐、白菜などをふんだんに入れ、ボリューム満点だ。一度炙った魚にスープが染み込み、サクッとした身に具の旨味が走る。

高級中華の代表格

 日本でもメジャーな高級中華「北京烤鴨(北京ダック)」。明朝の皇帝・永楽帝が、野生のアヒルが多く生息していた南京から都を北京に移した時にこの料理の原型となる「叉焼烤鴨」が伝わり、宮廷料理に採用された。

一般的な食べ方としては、カリッと焼いたアヒルの皮を削ぎ切りにし、ネギや甜麺醤と一緒に、小麦粉で作った薄い皮に包んで食べるというもの。こちら「全聚徳」では、228元の「精品果木烤鴨」を頼めば、皮に背中や腹の肉も付けて削いでくれるので、各部位ごとの異なる味を楽しめる。歴代皇帝にも愛された高級中華を、存分に楽しもう。

宴席に欠かせない鶏料理

 中国8大料理の1つ「魯菜(山東料理)」。魯菜のコース料理で必ずと言っていいほどメニューに並ぶのが「徳州扒鶏」だ。山東省徳州市で生まれたこちらの料理は、200年以上の歴史を持ち、今や「中国4大鶏料理」に数えられる。

一見ただの鶏の丸焼きのようだが、実はとろ火で長いこと煮込んである。とても柔らかく、脂分も抜けあっさりとしているので、カロリーが気になる人でも安心。アツアツのできたても良いが、現地では一度冷まして食べるのが好まれるそう。

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湖北省で生まれた魚

湖北省、湖南省など、黄河と長江に挟まれた華中。水資源に恵まれたこの地域では、魚介類を使用した料理が多い。そのうちの1つ「清蒸武昌魚」は、かつて「武昌」と呼ばれた湖北省鄂州市一帯をルーツとする。

これは同市の梁子湖原産の淡水魚・武昌魚を蒸したもので、ネギとショウガをまぶした魚を、醤油ベースの出汁に浸し、蒸すこと約15分。湯気立つ白身は柔らかく、脂が適度に乗り、舌触りは絹のよう。

南京とアヒル肉との関わり

 北京の名物が「北京烤鴨」なら、南京は「南京塩水鴨」だ。南京とアヒル肉との関わりは深く、春秋戦国時代の歴史書には、当時の現地人がアヒルを飼育していたとの記録がある。明代に「南京塩水鴨」が料理として成立し、その後今日までずっと民間で親しまれてきた。

読んで字の如く、同料理はアヒル肉を塩水で煮込んだもの。火を通した後、冷ましたものをおつまみ、前菜としていただく。また、南京は「桂花(キンモクセイ)」の産地としても有名で、花が咲く秋季の塩水鴨が特に美味だとして「桂花鴨」と呼ばれている。キンモクセイの色香に酔いしれながら、この料理を粋に味わおう。

妻の想いが詰まった酢

 旅人の心を魅了してやまない杭州の西湖。この湖で生まれた「西湖醋魚」にはこんな伝説がある。西湖一帯を治めていた悪大官が美女に横恋慕し、その夫を殺してしまった。夫の弟と妻は悪大官を訴えたが、逆に追われる身となり、逃亡することに。村を離れる最後の夜は、妻は「今後の人生がいかに甘くとも、今度の辛酸を舐めた経験を忘れまい」として、砂糖と酢をかけた魚料理を作った。

肉厚でクセのない白身魚に、トロリとした甘酢あんがベストマッチ。一口食べると、上品な味が西湖の如く口に広がる。

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少数民族も愛する火鍋

続いては、貴州省、四川省などが属する西南地域を見ていこう。「烏江魚」は貴州省を流れる烏江で獲れたナマズを、スパイシーなスープで煮込んだ火鍋料理。同省に暮らす苗(ミャオ)族も、結婚式や成人式など祝事には、必ずこの料理を食す。

こちらの店ではトマトと自家製スパイスで作った、酸味の強いスープで煮込む。貴州では「三天不吃酸、走路打蹿蹿(3日酸っぱい物を食べなければ、足がおぼつかなくなる)」という民謡があるほど、酸っぱい料理が好まれる。この酸味と刺激のおかげで、魚の泥臭さが和らげられるが、一方の辛さに汗が止まらないこと必至。

しびれる辛さがクセになる 

お次は、貴州より北上した所にある重慶の「南山泉水鶏」。同市の南山にある泉から湧き出す泉水で煮込むことから、この名で呼ばれる。有名になったのは1980年代中頃と比較的新しいが、今では同じ重慶の名物「辣子鶏」、「口水鶏」と肩を並べるほどの人気。

四川料理らしく、たっぷりのトウガラシと山椒が効き、痺れる辛さが容赦なく襲い掛かる。鶏は骨付きだが、一度茹でてから鶏を炒めているので、柔らかく、骨から容易に外れる。中華料理の代名詞とも言える〝麻辣〟の醍醐味をとくと味わおう。

箸休めにスープ

 穀物や野菜、肉、魚など、食糧の生産が盛んなことから、「天府之国(肥沃で物産豊かな土地)」と呼ばれる四川省成都。「成都蛋湯」は、卵にホウレンソウ、トマトにキクラゲなど、天府之国を料理で再現したような、具沢山のスープだ。

豚油と塩で味付けてあり、とろみが強いのが特徴。刺激の強い四川料理にしてはマイルドな味なので、箸休めや食欲増進、水分補給に注文しておきたい。

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広東庶民の味

華南は、南シナ海に面しており、そのうちの広東省では「潮汕砂鍋粥」と呼ばれる料理が庶民に愛されている。潮汕とは、潮山市や汕頭(スワトウ)市など同省東部の街を指し、2000年以降カキや蟹、ホタテなど、同地近海で獲れる海の幸を取り入れた粥がブームとなっている。

海水域の蟹「ノコギリガザミ」を使った「膏蟹砂鍋粥」は、カニの味が存分に出汁に行き渡り、最後の米1粒まで残せない。このほか、鶏肉や豚肉、カエルなどを主材料とするものも人気だ。

広東×ポルトガル料理

 広東省珠江下流域に位置するマカオ特別行政区。この地域の食文化は、華南地方の料理と宗主国であったポルトガルの料理との融合で成り立つ。「澳門炒飯」もまた、広東料理に見られるように、海鮮を具材とし、さらに白ワインで風味付けている。

パラッとした食感の長粒米(インディカ米)に、エビや干し貝、イカのほか、ササミにレタス、タマネギ、卵など、豊かな具材が、これでもかというほどに混ざり合う。アツアツのままでかっ込もう。

東南アジアに羽ばたいた鶏

「海南鶏飯」はその名の通り、中国最南端の島・海南島に起源を持つ。こちらは、同省文昌市の民間料理であった鶏のぶつ切り「白切鶏」に、鶏の煮汁で炊いたご飯を添えたもの。20世紀初頭の移民ブームに伴い、華南、華東地区、ひいてはマレーシアやシンガポールなど、東南アジアにまで普及した。

味の方だが、鶏肉のあっさりとした上品な旨味が特徴的で、鶏肉の脂分が固まったゼラチン状の食感も楽しめる。チリソースorショウガのつけダレでどうぞ。

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春節に食べる湯圓

元宵節(旧暦1月15日の節句)に食べる「湯圓」。一説では、湯圓は浙江省寧波市が発祥とされ、現地の人は古来の風習に則り、元宵節ではなく、春節の早朝に食べる。

「寧波湯圓」は、すり潰した黒ゴマと砂糖を、豚油を混ぜて丸め、もち米で包む。ふわふわの団子の食感とゴマダレの濃厚な甘味を楽しもう。

中国台湾の代表的スイーツ

 「九份芋圓」は中国台湾の基隆市にある町、九份の名物デザートだ。現地で採れたタロイモの粉を原料とした団子で、タピオカや小豆と一緒に食べる。

弾力のある歯応えとほのかなイモの甘味、台湾料理を食べるなら、〆のデザートに頼みたい。

皇帝御用達の亀ゼリー

広西チワン族自治区梧州市に伝わる亀ゼリー「梧州亀苓膏」。「オオアタマガメ」という亀の甲羅のエキスと漢方薬を煮詰め、固めたものだ。かつては皇室の薬膳として供され、清朝皇帝・同治帝が愛したという。

薬膳と言うくらいなので全体的に苦みがあるが、美肌や便秘解消に効果的とされる。広東料理店ではデザートで出されているので、チェックしてみよう。

ウイグル族の日常飲料

「葉爾羌奶茶」は、新疆ウイグル自治区ヤルカンド県のミルクティーだ。ウイグル族を始め、辺境に住む少数民族の生活にとってミルクティーは欠かせない。「寧可一日無食、不可一日無茶(1日何も食べないより、1日お茶を飲まない方がいけない)」という諺があるほどだ。高地で気温が低く、野菜の収穫が少ない同地区では、これで栄養を補うと言ってもいい。

酪農が盛んな地域なので、最良は牛乳もしくはヤギのミルク。本場では、原味(プレーン)、甜味(甘い)のほか、咸味(塩味)まであるそうだ。

~上海ジャピオン2013年9月20日号

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