中国お笑い探訪

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伝統演芸・相声の発展

日本に漫才とコントがあるように、中国でも固有の芸能を持つ。中でも代表的なのが「相声xiang4sheng1」と「小品xiao3pin3」。相声は、日本の演芸で例えると「漫才」に相当し、ボケとツッコミの2人から成る。一方の小品は「コント」に当たり、舞台上で役割の決まった芸人たちが寸劇を繰り広げるという構成だ。今日では、どちらも春節に放送される中国中央テレビ(CCTV)の番組「春節聯歓晩会」に欠かせない出し物として、庶民に親しまれている。これらを深く紹介する前に、まずは成り立ちから迫ってみたい。

相声は、語りものと歌ものから成る伝統芸能「曲芸」のひとつで、北京や天津など、河北地域を中心に、清代(1636~1932年)に成立した。中でも北京天橋、天津勧業場、南京夫子廟は、相声の三大発祥地として栄え、相声はこれらの劇場や茶館でしばしば披露された。

成立初期は「像声」と呼ばれ、物や人の声を真似る声帯模写芸であったが、後にボケとツッコミによる滑稽な掛け合いで、観客に笑いを提供する現在のスタイルになった。その形式も豊富で、漫談や落語のように1人だけで話す「単口相声」や、3人以上で話す「群口相声」などがある。創始者についてははっきりしないが、文献によると、清代に存在した張三禄(ちょうさんろく)なる人物が、最も早期の相声芸人とされる。中国の芸人は彼を初代の師として崇め、正式に入門し、弟子として認定される師弟関係を、また代々受け継いでゆく伝統を重んじてきた。そして相声芸人はすべて、張三禄から数えて○代目「第○代相声演員」と称し、複数の芸人を世代別に分けている。

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茶館の舞台で行われる相声

小品と娯楽番組の台頭

小品は伝統芸能には属さず、成立年代も比較的新しい演芸。もともと、演劇学校の実技試験の項目に「寸劇」があり、これがもととなった。1983年に、北京中央戯劇学院の生徒による作品が、春節聯歓晩会で披露されたのが最初という。

上演時間は1作品約20分。学校や会社など、身近で親しみやすい舞台設定の中、芸人が家族や友人などをユーモラスに演じる。近頃は、専門の「小品演員(小品俳優)」も増え、相声に並ぶ娯楽として、益々発展していっている。

また、最近は春節聯歓晩会の人気や、海外バラエティ番組が影響し、中国のテレビでもお笑い番組が増えてきている。『笑星大聯盟』や『超級笑星』のように、プロの相声や小品の芸人のほか、素人が登場し、ネタを披露するのが最近の風潮のようだ。

それでは、中国のお笑いについて理解したところで、1つずつ演芸を紹介していこう。

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「春節聯歓晩会」の小品

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郭徳網の相声ブーム

茶館や劇場などでお目にかかれる相声。漫才同様に役割があり、ボケ役を「逗哏dou4gen2」、ツッコミ役を「捧哏peng3gen2」と呼ぶ。相方が途中で変わることがあるため、日本のようにコンビ名を持たず、逗哏も捧哏もそれぞれ、個人名で活動していることが多い。

そして中国を代表する相声芸人と言えば、まず挙げられるのがジャン・クン(姜昆)だ。社会の風潮を鋭く風刺するユーモラスな漫才作品を特徴としている。また最近では郭徳綱(グオ・ドーガン)が人気。2000年以降、人気が下火になった相声中興の祖として知られ、今やテレビや舞台で彼を見ない日はないほど。このほか、相声芸人は全国に計100万人以上いるという。

言葉遊びを楽しむ

さて、相声のネタについて言えば、漫才と同じく世間の流行、話題の出来事を扱ったものが多い。上海の相声集団・金岩一門のネタにこんな一節がある。

A:你們看看。他長得怎麼様?(見てください、彼の外見をどう思います?)
B:這個還用問大家嗎?(これみんなに聞く必要ある?)
A:那我来説説(私に言わせてもらうと)
B:你説(どうぞ)
A:可以説是好看和難看的中間、所以…(カッコいいと不細工の間ですね、だからええと…)
A:就是〝好難看〟嘛!(ちょうど「とても不細工」です)
B:你説什麼呀!(何だそれ!)

このように、内容の滑稽さや話し手の言葉遊びを楽しむものが「相声」と言えよう。会話の内容すべてを理解するには、それ相当の中国語聞き取り力を要するが、部分的には容易な箇所もあるので、芸人の動きや表情を参考にしながら、中国漫才を楽しもう。

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わかりやすい短編コント

芸人のセリフとともに舞台上での動作があり、さらにセットや役柄などが設定され、内容が明確でわかりやすいショートコント「小品」。学校や会社の宴会の席での出し物として披露されるなど、大人から子どもまで幅広く愛されている。

この小品をメジャーにさせたのが、〝中国の喜劇王〟と呼ばれる、ジャオ・ベンシャン(趙本山)だ。中国東北の農民を演じるシリーズが有名で、農村での生活をテーマにネタを繰り広げ、観客を笑いの渦に巻き込む。「春節聯歓晩会」の小品が名物だったが、残念ながら2013年を最後に出演を辞退、今後は制作に没頭するという。

趙本山の東北農民シリーズ

そんな彼の東北農民シリーズ作品の1つ『火炬手(聖火ランナー)』の一部を紹介したい。北京オリンピックの年、東北地方の農村で農民聖火リレーが行われ、ランナー選出をかけて、趙本山とソン・ダンダン(宋丹丹)演じる夫婦がクイズで競い合う、という設定だ。

司会者:下一道是基礎知識題、一点一横一批一撇念什麼字?(続いては基本問題です。点が1つ、横線が1本、左払い1本で何の字になる?)
夫:广(「広」)
司会者:里辺加一個木頭的木?(中に1つ木を加えると?)
妻:床!(「床(ベッド)」!)
司会者:再加一個木呢?(もう1つ加えると?)
夫:双人床!(ダブルベッド!)
妻:你説你怎麼這麼没文化(あなたって人はどうしてこんなに教養がないの!)

こちらは、宋丹丹による地元民さながらの東北語も笑いどころのようだ。このほか、「優酷ネット」や「土豆ネット」などの動画サイトで、多数の小品の動画がアップされているので、字幕付きで見てみよう。

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歌あり、踊りあり

黒龍江省や吉林省などで発祥し、300年の歴史を持つ二人転。東方地方の田植え歌「大秧歌」と華北地方の曲芸「蓮花落」を融合させたものだ。

銅鑼や竹板(竹製カスタネットの)の伴奏に合わせ、歌いながら掛け合う漫才、ハンカチ回しや踊りを展開するなど、バラエティ豊かな演芸だ。小品俳優の趙本山も、二人転の出身で、彼の活躍により広く知られるようになった。ちなみに、上海市昭化路の「氷花東北菜」では、二人転ショーを披露。東北料理の美味とともに、この歌あり踊りありの演芸を楽しもう。

上海語で演じる小品

上海滑稽戯は、かつて上海市及び江蘇省一帯で盛んであった、「独脚戯」という相声のような曲芸に、江南地方や外国の喜劇要素を加えたものだ。

配役やセットがあり、一見小品と似て見える。異なるのはすべて上海語を使っている点。演目は、もともと独脚戯の作品であったものや映画の脚本に手を加え喜劇化したものが多い。国家重要無形文化財に指定された独脚戯とともに、今後も継承が期待される喜劇だ。

新スタイルの1人芸

海派清口は、上海のコメディアン・周立波(ジョウ・リーボー)が確立したお笑いのスタイル。トークがメインだが、途中で流行曲の替え歌や有名人の物真似が入ることも。演技はすべて1人で行う〝ワンマンショー〟形式で行われる。

オールバックに黒のタキシードというのが彼のトレードマーク。〝ツカミ〟として、観客に10秒以上頭を下げ、笑いが起こってから、本編が始まる。時事問題をテーマに、風刺や批判を取り入れてぼやく。海派清口とともに彼の名も、中国全土に知れ渡っている。

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~上海ジャピオン2014年8月15日号

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