いま食べたい冷えた夏の麺

手打ちうどんで味わうツルリとしたのどごし

東京育ちのぼくは、うどんは腰が命だとばかり思い込んでいた。蕎麦はのどごし、うどんは腰。「てやんでえ、アルデンテじゃなきゃうどんじゃないぜ。やっぱ腰よコシ!」と、こんな感じであった。まあ、一般的に江戸っ子は蕎麦ですが。よく家で食べている冷凍うどんは腰もあってシコシコしてるし、あれはあれでうまいからしかたがないのね。
ところが、そんなふうに少し安易に考えていたうどんも、実は立派にツルツルとしたのどごしが楽しめるのというのである。
長年の思い込みを、あっさりと払拭してくれたのが、前月オープンしたばかりの「温や」だ。なんとこの店、上海でもお馴染みのシュークリーム専門店「ビアード・パパ」と同じ会社が経営している。

日本から特注の小麦を持ってきて作る讃岐うどんは、店先で手打ちにして、そのまま大釜でぐらぐら茹でる。
この店の「ざるうどん」には、すりおろしたショウガと青ネギがつき、コンブとカツオ節にウルメイワシからとったつけダシはほのかに香り、きざみ海苔がのった麺はツルンとしたのどごしを与えてくれる。もちろんモチモチとした腰もある。夏らしい清涼感もある。
美味しく味わうコツは、啜るときは豪快で上品に。周りを気にせず、ズルッっといやらしく食べるとうまい。魚介ベースのつけダシに、シアワセになること間違いなしだ。
店の場所は浦東新区のヤオハン近く。日本から仕入れる小麦粉の都合で、7月上旬までは一日30玉限定。昼はどんぶりとのセットメニューがあるのでそちらを。なんにせよ、浦西からでもタクシーを飛ばして来る価値大である。

温や
張楊路601号
華誠大厦国際食品城2階(×ラオ山西路)
TEL:5835-8762
営業時間:10時~22時(ラスト21時)
写真上:ざるうどん18元
その他の冷えた麺:ぶっかけ21元 天ざる33元

 

透きとおる細麺・稲庭うどんうまさのひみつはつけダシにあり

ヒヤムギより太く、通常のうどんより細いのが秋田生まれの「稲庭(いなにわ)うどん」だ。釜揚げにしても、かけうどんにしてもうまいこの麺は、讃岐うどんと名古屋のきしめんに並ぶ日本三大麺のひとつである。
この麺を、生まれて初めてぼくは、上海で味わった。場所は、虹橋にある串揚げとうどんの店「大陸浪人」だ。同店の「冷やし稲庭」は、水で冷やしながら表面のぬめりを丁寧に洗い、水気をよく切って、つけダシで食べる。
ざるにあがった麺は、表面がツルツルしていて半透明で、いかにも清涼感がある。薬味にゴマ、ショウガ、青ネギがつく。
そして、漆黒のダシ鉢に負けないほど艶やかな黒い光をはなつ同店特製のつけダシは、〝この麺にこのつけダシあり〟といわんばかりにそのうまさを上手に引き立てる。
ダシ鉢を持ち上げて、そっと匂いを嗅ぐと、甘さの中にある爽やかで夏らしい不思議な香りが、鼻腔をやさしくくすぐってくる。麺を箸でしっかりと掴んで口へ運ぶと、シイタケをベースにしたつけダシはとろりと甘く、細い麺をしっかりとくわえこんでいるのが分かる。そして、最後にまた、先ほど嗅いだ不思議な香りが、喉の奥から鼻の頭にかけてスッと通り抜ける。思わず一人でにたりとなる。
ただぼくは、何度食べても、この爽やかな香りとあと味の正体だけが分からなかった。取材中も、そのひみつの正体を知るために、ねばりにねばって、大将の川上さんに再三尋ねてみたが、上手く煙に巻かれてしまった。我こそはと思う美食家の皆さん。つけダシの正体が分かったら、編集部までご一報を!

大陸浪人
水城路519号乙
(×茅台路)
TEL:6259-8679
営業時間:17時半~翌2時
写真:冷やし稲庭52元
その他の冷えた麺:ざるうどん28元、冷やしたぬき35元
なめこおろし35元、ねばねばスタミナ45元、冷やしそうめん45元

しょうゆのうまみ ぶっかけの不思議

日本一のうどんの名産地ともいえる香川の讃岐地方などでは、茹でたての麺に生じょうゆを〝ぶっかけ〟て食べることがある。そういえば子どもの頃、田舎のばあちゃんの家で食べたつきたての餅も、これまた豪快にしょうゆを〝ぶっかけ〟ていた。うまくてうまくて、手についたしょうゆをペロペロ舐めて、親父によく笑われた。
そういうわけで、ぼくなんか「日本人のDNAとしょうゆには深い関係があるんだ」などと聞くと、妙に納得させられてしまう。そしてもうひとつ忘れちゃいけないのが、ぼくら男の子にとって〝ぶっかけ〟というフレーズも、これまた不思議とDNAに響いてくることだ。
「生たまごのぶっかけご飯」に「とろろのぶっかけメシ」、「マグロのぶっかけ丼」と、飲食店のメニュー表で見つけたら、ぼくなぞついつい誘惑に負けて注文してしまう。どこか豪快な感じがして爽やかだし、なによりもうまそうだ。
話を本筋にもどすと、上海に3店舗を構える「サガミ」の「ぶっかけうどん」は、そんな〝しょうゆ〟と〝ぶっかけ〟2つのDNAを揺さぶるメニューである。麺はオーストラリア産の小麦粉を使った、打ち立て、湯掻き立て。つけは、カツオから取った白ダシを最小におさえたぶっかけうどん専用の濃い目のしょうゆ味。トッピングは、辛味おろし、すりゴマ、青ネギ、厚く削ったカツオ節。とりわけピリッと痺れる辛味おろしのアクセントが、冷えたしょうゆつゆと混ざって清涼感を生む。打ち立てのうどんだからこそできるシンプルな食べ方がある。
店に行くときは昼時の混雑時を狙って行くのがベスト。回転が速いから湯掻きたてモチモチの麺が食べられる。

サガミ虹橋店
水城路12-20号
和平広場1楼
(×虹橋路)
TEL:6278-8621
営業時間:11時~23時
写真:ぶっけけうどん28元
その他の冷えた麺:ざるうどん、梅ツナうどん28元、辛味おろしそば38元など。
冷たい麺は全15品。

冷たいパスタは日本の味!? バジルとトマトでサッパリ

これまでにぼくはパスタ発祥の地であるイタリアへ2回行ったことがあるが、そこでは一度も冷たいパスタを見なかった。まあ、一口にイタリアといっても広いわけで、地域によってはいろいろなパスタがあってそれぞれの食べ方があるのだけれども、だけどそれを差し引いても、日本の方が冷たいパスタに出会える確立は高いのではないか。そう思う。そう考えると、多くの冷たいパスタはすでに〝日本生まれ〟といっても過言ではない(イタリア人の皆さま読んでいたらごめんなさい)。
そして、そんな〝日本生まれ〟を上海で気軽に味わえるのが、日本製のドレッシングを使った洋麺屋「ピエトロ」だ。とりわけ、夏季限定メニューの「トマトとモッツァレラチーズのバジリコスパゲティ」は、それだけでも十分にうまいバジルソースとタマネギベースのフレンチドレッシングを絡めたスパゲティに、角切りのトマトとフレッシュモッツァレラがごろごろ乗っている。
上品にそれぞれの味を楽しんでも、豪快に混ぜ合わせて味のコラボレーションを楽しんでも良い。ただ、くれぐれもスパゲティは啜らぬようにしましょう。

ピエトロ
仙霞路299号
遠東国際大厦1階
(×古北路)
TEL:6235-1747
営業時間:7時半~23時
写真:トマトとモッツァレラチーズのバジリコスパゲティ28元
その他の冷えた麺:牛肉と緑野菜の和風スペゲティ30元、牛挽き肉とナストマトのサラダスペゲティ26元
海の幸の冷製クリームスープスパゲティ32元

会津喜多方の冷やし中華 ちぢれ麺に絡むあっさりダレ

初夏になると、ラーメン屋で見かける「冷やし中華始めました」の張り紙。もはや、夏の風物詩と言ってもよいだろう。もしかしたら、季語にも登録されているのかもしれないと思う。日本では、ラーメン屋どころかコンビニの前でも、ノボリが風になびいていたが、上海に来てからはめっきり見なくなった。

先日、ふらりと入った、虹橋駅近くにある「福島ラーメン」で、これを見つけ、早速注文した。見てみぬ振りは野暮ってもんだ。同店の「冷やし中華」は、清涼感のある透明な皿に盛り付けられて、あっさりした酢醤油ダレをかけて食べる。家でよく食べる、キュウリ、卵、ハムの三色盛りの冷やし中華と違い、チャーシュー、ワカメ、メンマなどの具材も、ラーメン屋らしくて良い。
この店、福島県の喜多方の味を謳っているだけあって、麺に独特のちぢれとコシがある。聞けば、麺を打った後はひと晩寝かせ、翌朝その日の天気、湿度に応じてゆで時間を変えていることで、腰を一定に保っているとか。味が変わってしまいがちな上海の日本料理店において、この管理能力は見上げたものだと思いながら、ズズっと麺を啜って後にした。

福島ラーメン
凱旋路1450号(×安順路)
TEL: 6281-5809
営業時間: 11時半~24時
冷やし中華28元

~上海ジャピオン7月7日発行号より

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