エビを入れたらうまいよ
最初にカレー作りに挑戦してくれたのは、上海人の顧智超(通称Che)くん。23歳になったばかりという彼の日常は、昼間は日本語の専門学校で学び、夜は日系カフェバーで仕事をしている。
そんな親日家の彼が使うルーは、ハウス食品(中国)投資社の「好侍咖王咖喱」だ。上海人の男性は女性よりもマメに厨房に立つと言われるが、Cheくんも例外ではないようだ。「料理を始めたのは去年くらいから。最近は居酒屋でも日式カレーが食べられるでしょ。それでおいしかったから作るように。」やはり身近な居酒屋などから、こうして日本の食文化が広がっていくようだ。「最初は炊飯器で作った。牛肉、タマネギ、ニンジンとセロリを入れたかな? レシピが悪かったのか、まずかった。」箱裏のレシピ読みましたか(笑)? 確かにおいしくなさそう…。
上海流ってこんな感じ?
「食材は、野菜は近所の八百屋で、ルーはスーパーで買うよ。スパイスも手軽に買えるから、一から作ってもいいんだけどちょっと面倒だな。今は手軽なデリバリーもあるしね。」彼はおもむろに中華鍋を取り出し、具材を炒め始めた。やがて大きな鍋の中でグツグツと音を立てる具材は、日本のものとそう変わらない。が、鉄製鍋にルーを割らずに入れるとか、ワイルドな飯合炊飯を思い出す。「海鮮が好きだから、エビやカニもたまに入れるよ。身が硬くなるから煮込まずに、最後に加える感じっすね。」
えっと、変わったカレーを作る企画なのですが、ザリガニなどを入れたらどうでしょう? 「いやいや、何でザリガニ! 好きだけどさ、そんなのカレーに入れないよ、初めて聞いたよ。」むむ。ザリガニ料理はよく見かけるのに、上海人のこの拒絶反応。やはり、スタンダードなカレーが一番と言うことか。
カレールーをジャケ買い
お次の挑戦者は、虹橋地区にお住まいで、今年ご結婚されたばかりの新婚ほやほや♡白木綾音さん。綾音さんは、2016年6月、上海で子燕文化芸術(上海)有限公司を設立。同年9月から〝つばめMusic Studio〟を開校し、教室主宰として、中日の子供たちを中心に音楽教育に尽力している。音楽家としても活躍する一方、彼女が愛する夫のために選んだルーは、Q&Sの「清水牌経典咖喱・微辛」と大連天鵬食品有限公司鵬の「懐石カレー」であった。「結婚してから料理を作る毎日が続いています。やはり愛情を込めて作る手料理が一番おいしいですよね。」激しく同感、おっしゃる通り。「今回企画のお話をいただいて、私が前から気になっていたルーで二種類作ってみることにしました。」お仕事をされている中での家事はとにかく時短重視、手軽なルーを活用しましょう。Q&Sに懐石? こ、これは変わったタイトルだがはたして…。
甘めのルーはとことん甘い
「スーパーや知人宅で見かけて、前から気になっていた不思議なカレールー。日本のカレー文化が中国の家庭にも浸透して久しいですが、今回は好奇心から特に謎めいたパッケージの二種類をセレクト。主人に食べてもらいました! 具材を大きく切るのが我が家流です。」栄養バランスが考えられたカレーは、ライスに少量の玄米を混ぜるなどヘルシー志向。ルーには、皮を剥いてつぶしたトマトも溶け込んでいるそう。肝心のお味は…ご主人いかがですか? 「Q&Sは、八角のような香りがほのかにしますね。このスパイスが、牛バラ肉やジャガイモとよく合っておいしいです。懐石カレーは、日本で食べていたルーの味に非常に近いです。ほんのりとした甘味があるし、チキンカレーにして食べるのがオススメです。」微辛だが、二種類ともかなり〝甘め〟のルーだそう(新婚さんだけに)。普段の味に飽きたら、チャレンジしてみよう!
二日目以降に味わいたい
最後にご登場いただくのは料理歴30年、カレーを作り続けて十数年というカレーのプロフェッショナルで、日系カレー店「HTO」オーナーでもある月野さん。カレー好きが高じて上海に店を構え、長い間上海のカレー事情を見つめてきた。ここ数年は、日本食ブームもあって居酒屋の開店が相次ぎ、そこで日式カレーを知り、同店へ流れてくる中国人客も少なくないと言う。なるほど、店内は中国人の若者や仕事帰りの日本人でいっぱいだ。
ところで多めに余ってしまったカレーって、さてどうしたら?一日目はカレーライス、二日目もカレーだとちょっと飽きてしまう。鍋を基準にするとどうしても作りすぎてしまうことがあるので、手軽にできる余りカレーのレシピ〝鶏胸肉のソテー〟を伝授してもらうことに。
見た目もキレイなレシピ
「作り方は簡単。開いた鶏胸肉に軽く塩コショウをして両面を焼き、二日目のカレーを掛けるだけ。タバスコを入れて、ホットチリソース風にしても味の変化が楽しめますよ。今回は添え付けに、冷蔵庫にあったシメジとニンジンを使いましたが、余りものの野菜なら揚げナスやオクラ、蒸したカボチャなど、だいたい何でも合いますね。メインの肉は豚肉に変えても、一晩寝かせたカレーソースはよく合います。」これならリーズナブルだし気軽に挑戦できそう! あなただけのアレンジレシピを見つけてみては? 次ページでは、月野さんオススメの〝変わったカレー〟を見ていこう。
突如注目を集めたカレー
ここからは〝珍しいカレー〟を見ていこう。この「マッサマンカレー」は、鶏肉とジャガイモを煮込んだタイカレーの一種だ。タイカレーはスープ状で激辛というイメージがあるが、これはクローブやカルダモン、シナモンなどのスパイスを入れるため、上品な甘みが感じられる。具材にはココナッツの薄切りやピーナッツが入り、牛乳やクリーム、ココナッツミルクで煮込むので、濃厚なコクと芳醇な香りが楽しめると言う。
マッサマンとは「イスラムの」の意で、もともとはタイ南部でイスラム民族が食べていたハラル料理であったが、2011年にCNNインターナショナル〝CNN Go〟で「世界で最もおいしい料理ランキング50」の1位に選出されたことで、一気に世界中から注目を集めた。
魚の頬肉とカレーの融合
「フィッシュヘッドカレー」はシンガポールが発祥。同国とマレーシアのインド料理店でよく見られ、ヤシの実ジュースで炊いたごはんに掛けたり、極薄のナンのようなロティ・チャナイに付けて食べたり、麺を入れたりする。
白身の魚が丸ごと入っているため、骨や頭から出るダシと野菜の甘味、そして多様なスパイスが織り成す絶妙な味わいが楽しめる。見た目ほど辛くはなく、どちらかと言えばトマトの酸味が利いたさっぱりカレーの部類と言えよう。前ヒレの下や頬にはたくさんの身が詰まっていて食べ応えもある。特に頬周りの肉厚でトロトロな脂と、ゼラチンたっぷりの目周りは忘れずに。このプルプルとした身がピリ辛スープにピッタリで、美容にもよいだろう。
~上海ジャピオン2018年12月21日発行号