小小説 第8話 なめくじお嬢様のお見合い

 風の森には「幸せのスタート」という結婚仲介があります。
経営するインコおばさんは口が上手く、何組もの円満な家庭を作らせたものでした。
ところがある日、店が1人の手こずるお客さんを迎えていました…。
「いらっしゃいませ。何か御用でいらっしゃいますか」
「なめくじと申します。結婚したいので、優秀な男性を紹介していただきたい」。
 目の前のお嬢さんは少しも恥ずかしがっていないように言いました。
「はい、かしこまりました。
こちらには多くの優れた青年の資料があるので、ゆっくりご覧になってください」と言いながら、パソコンに向かいます。
「彼はどうですか。パンダさん、29才、個人情報は…」
「あきらめましょう」。なめくじお嬢様が口を出します。
「まだ29才なのに、その太鼓腹はどうしたの。
そして、その黒い目は睡眠不足かしら。
一目でいつも残業ばかりのサラリーマンだと分かったわ。だめよ」
「わかりました。
じゃ、次…トラさん、30才、名声もいいし、地位も高いし、額の『王』の文字こそ証拠。
ずっと『森の王者』とされてきました」
「名声と地位がいいけど…気立てが良くないと聞いたことがあるわ。乱暴な男と暮らすのは無理よ。
誰か優しい人がいないものかしら。
もっと資料を見せてちょうだい」
「すみません。少々お待ちください」
さすがはインコおばさん。
プロの仲人でなければ、そんなにすごい根気が絶対にありません。
「あっ、こちらはどうでしょ?
白鳥さん、25才…かっこいいし、名声もあるし、とても優しいですよ」
「優しくても転勤が日常茶飯事で、冬は南の方へ、春は北の方へ…。
そんな人と結婚したら年に何度も引っ越さなくてはいけない。
不安定な生活が一番いやね」
「そうですか。しょうがないですね。
じゃ、次…かたつむりさん、22才、経済情況が良い、生活も安定です。
生まれてすぐに両親のお宅を相続して…」
「彼こそ、彼こそ」。
おばさんが報告書を読み終えないうちに、なめくじお嬢様は興奮そうに叫び出しました。
「彼の好みや望みは何?」
「子供です。彼は子供が大好きということです」
「なに言ってんのよ? 気が早いわ。
当面子供を作るつもりがない。
赤ちゃんを生んで、身体付きが悪くなっちゃうだけでなく、子供の世話をするのも面倒ね」
「それなら、海馬さんはいかがですか?
男ですけど妊娠したり、育児したりすることを一人で担当できますよ。
でも住宅がありません。今、アパートに住んでいます」
「勘弁して。住宅なしで結婚したいなんて能天気よ」
「…では、お嬢様の望む相手は一体どんな方ですか?」
「まず、できあいの家は必須ですわよ。
それにトラさんの高い地位。白鳥さんの優しさ。
あとはええっと、海馬さんの家事能力。
それと仕事が忙しくても、私と一緒にショピングする時間を残すべきね。どう?」
「申しわけございません、お客様。
この地球にはあなたの話したとおりの生物が存在していないらしい」

~上海ジャピオン3月6日発行号より

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