小小説 第11話 天使の背中 後編


 周りは暗くなってしまった。
風がますます厳しく吹いてきた。
風は身の毛をよだたせる化け物の声のように吼えたけり、暗い空に響いた。 
母さんを探している小白鳥は道に迷い、寒さに飢えていた。
不案内な所で一夜を明かすしかないと思うと、その心細さといったら言いようがない。
そのうちに、向こうから、ちらちらと人影が近づいてきた。
「誰?」
小白鳥は湿っぽい目を拭き拭き、いまにも何か怖いことが起きるのではないかと生きた心地がしないで、そちらをしっかりと見た。
 近づいてくるにつれて、その姿もいよいよはっきりしてきた。
その人は白くきれいな服を着ていて、とくに背中には白い翼があったのだ。
「天使!?」
小白鳥はさっと母さんの話を思い出し、
「天使は世の中で一番美しく善良で、いつでも他人を喜んで助けるそうだから、もしや助けてくれるのでは…」
と勇気を出してみた。
「すいません。あの…貴方は天使ですか」
「…はっ、はい、私こそ天使です」
相手は小白鳥に尋ねられるやいなや、先にぽかんとしていたが、すぐ目を細めてほほえみ答えた。
声も非常に優しかった。
「まさかこんな困っている時に天使に出会えるとは思わなかった。
よかった、よかったね」
小白鳥は希望の光を見るようだった。
「天使さん、私をお助けください。
母さんを見つけていただけませんか。お願いいたします」
小白鳥は今にも泣き出しそうに頼み込んでいた。
「わかった。
可哀想な子、おいで、君を連れてお母さんを探しに行こう」
天使はそう言いながら手を伸ばして、小白鳥の頬を撫でようとした。
小白鳥もそれにおとなしくしたがって、自分の頬を先方にされるままにした。
「やはり天使だね。手もつるつるしていて温かい…」
小白鳥はそんな感じが大好きだ。
「いい子ね。
安心しなさい、まもなく君をお母さんと出会わせよう…」
と、その時。突然小白鳥は息苦しさを感じた。
さっきの優しい手が彼の首をぴんと締めつけていたからだ。
「なぜ…」
小白鳥は言い終わらないまま首が折られてしまった。
「今日はタイミングがいいね、2羽」
その人は片手で死んだ小白鳥を持ち上げ、引き返して行った。
その背中には白鳥母さんの屍があったのだ。
 この世界は広い。背中に翼のある人が必ずしも天使ではない。

作者:ちょうてつ

~上海ジャピオン3月27日発行号より

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