大臣から偉い隠居の話を聞いた王様は、人柄を疑ったものの、隠居を誘い、王宮で宴会を行うことにした。
宴会の日、王宮には人が大勢おり、たいへん賑やかだった。
テーブルの上には、色んな美味しい料理が山のように並べられ、官員も貴族も、皆きれいな礼服を着て、お互いに挨拶を交わした。
だが、その中で1人、素朴な服を着て、相当に目立った男がいた。
目立つと言うよりむしろ、へんちくりんだと言ったほうがいい。白い布の服、古いわらじ、間違いない、そちらこそ隠居だった。
「久しぶりだなあ。隠居さん。お元気か?」
隠居は、背中で熟知した声を聞いた。
振り返ると、立っているのは大臣だった。
大臣はわざわざ彼の持っている中で一番な豪華な礼服を着ている。
ボタンは宝石で作られており、その豪華さたるや、周りの官員や貴族の服を見劣りさせるには十分過ぎた。
「久しぶり。おかげ様で元気だよ」
「今日は遠慮しなくて楽しんでくれ」
大臣はそう言いながら手を伸ばした。
隠居は友好の表現だと思って、手を伸ばして相手と握手した。
しかし、2人の手が分かれるとすぐ、大臣は上着のポケットからハンカチを取り出し、自分の手を拭き拭き、ハンカチをポケットに戻した。
目のある者なら、誰でもその意思が分かった。
それは隠居に対する侮辱と挑発だ。
普通の人であれば、そんな場合に必ず怒髪天を衝き、声を荒げるわけだ。
それこそ大臣が一番望むことだ。
しかし残念ながら、隠居は普通の人ではないものだ。
隠居は何事もなかったかのように平気で上着のポケットからのハンカチを取り出し、同様に自分の手を拭いた。
でも大臣と違い、そのハンカチをポケットに入れず、ご丁寧に直接にごみ箱の中に捨てた。
それを見た大臣は一時に手足が硬直しようになってしまった。
だが、大臣はそれに甘んじていなかった。
宴会も終盤、王様は外国から贈られたスイカでお客をもてなした。
大臣は一気にスイカを何枚も食べて、他人が気にしていないのをいいことに、そっとスイカの皮と種を全て隠居の前に押しやった。
そして嘲笑し始めた。
「皆様、見て見て。行儀が悪いな! そいつの前がスイカの皮でいっぱいだよ。
偉い隠居だというのに、それほど口卑しいなんておかしいじゃないか」
それを聞いた隠居は動揺せずに悠々と答えた。
「確かに私は口卑しい。
けれど、今日この場にいる人々の中の1人は私より口卑しい」
「誰だ?」
大臣は好奇心にそそられた。
「それは、あなたですよ」
「ふざけんな! 私の前には皮は1枚もないぞ」
「だからこそ一番口卑しい人だ。口卑し過ぎて皮と種までも全部食べてしまった。
道理で前には何もない」
これを聞いて、天に唾した大臣は一時何も言えずに作り笑いをするしかなかった。
~上海ジャピオン2月27日発行号より