小小説 第1話 Mr. バナナとマンゴーさん

八百屋の店先でバナナとマンゴーが雑談している。
「初めまして、マンゴーです。よろしく。お名前は?」
「バナナです」
「バナナさんですか、お目にかかれてうれしいです」
「バナナさんではない、Mr. バナナと呼びなさい」
「おや、何か区別がありますか?」
「もちろん。俺は欧米から輸入されてきた」
「はあ、しかし、だから何ですか? 輸入品でもバナナはバナナではありませんか」
マンゴーさんはたしなめるように言った。
「違う。俺の先祖はこの国で生まれたが、その後欧米へ移植された。俺はそこで生まれて成長した。あそこの発達したバイオテクノロジーから生まれた改良品種だよ」
Mr. バナナは得意げに言った。
「なるほど。でも顔を見る限り、私と同じように黄色いのですが…ところで、その欧米というところは、一体どんなところなんでしょうか?」
 マンゴーさんは興味深げに身を乗り出して聞いた。
「もちろんいい所だよ。太陽の光はここより暖かいし水はここより甘い。こやしもここより美味しい、さらに…」
「そうそう、きっと月さえここより丸いんだろうね」
マンゴーさんは皮肉げにつぶやいた。
しかし、Mr. バナナは気にもとめずに話し続ける。
「俺はなかなかここに慣れない。何日か前に俺がここに着いたばかりの時、あの八百屋はグローブもはめずに直接俺を店に並べたんだ。
不衛生な感じがたまらない。グローブもはめないなんて。
俺は外国にいる間はずっとグローブをはめた専門作業員に運ばれていたよ」
「郷に入っては郷に従え。ましてここは、君の故郷じゃないか」
Mr. バナナは、自分の体に付いたマークを指さしながら、声を荒げて答えた。
「だから、ほらほらよく見ろ、Made in ??。この意味がわからないものか?」
「勘弁してくれ…私は英語ができない」
「俺の国籍は欧米だという意味だぜ。なにしろ、俺は欧米で生まれて成長した。
俺の値段を見れば、お前と違って欧米からの輸入品だとわかるだろ。英語はできないにしても、アラビア数さえわからないもんか?
ずっと高いよ、俺は改良品種だから。俺は…」
 2人が話し合っているところへ、1人の客がふらりとやって来た。
「そのバナナはいくらですか?」
「1キロあたり8元でございます。ちょっと召し上がって下さいませ」
 店員はそういいながらバナナの皮をむいて、客に差し出した。
マンゴーはそれを見て目を丸くした。
「確かに私と違うんだなあ。皮は同じ黄色だけれど、その黄色い皮の下はすべて西洋人のように白いんだね」

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