小小説 第3話 巻貝と烏貝②

巻貝はとうとう海苔の谷でその変な奴に出会った。
「あいつが私の美しさにケチをつけたやつ! 絶対に許せない。
私の美しさを見せて、ぜひその大きな口が閉められないほど驚かせろう」
相手を見ると、やはり色も暗く模様もなくて、形も美しくない。
それに意外に大きな口がある。本当に醜い。
「おまえが烏貝か」
「…………」
相手は口をしっかり閉めて、巻貝に気がつかない。
「答えなさい! 口が利けないと偽るつもり?」
巻貝は自分の声を大きくした。
「…………」
烏貝は相変わらず何も言わなかった。
「なぜ、今何も言わないの。
そんなに大きな口を使わないなんて惜しいわね」
「…………」
烏貝は聞いて聞かぬふりをしていた。
「どういうつもり? 今さら猫をかぶるなんて。
わたしが思うに、おまえはわたしを妬んでいるに違いない。かわいそうな奴!
おまえのような奴はここで他人の悪口を話すより、むしろ早く美容院へ行くといい。
どう? 行きたければ、カニさんの美容院を勧めるわよ。
VIPカードがあったら3割引よ。おまえの様子では、2、3回では足りないと思う。
必要なら私のVIPカードでも差し上げようかしら?」
 と突然、巻貝は何も話せなくなり、目を丸くしてじっと相手を見つめた。
たった今、烏貝があくびをした時、口の中に目がくらむばかりに美しいものが一瞬現れたのだ。
一瞬だが、清らかな光を放つ。巻貝は今までそんなに美しいものを見たことがない。
「まさか、あれこそが真珠だろうか。
だとしたらすごいわ。この世界に何とこんなに美しいものがあるのね。
本当の宝だわ…ばかな!」
巻貝は頭を振り振り続ける。
「そんな醜いやつはこんな珍しい宝物があるはずはない。
きっとどこから盗んできたものでしょ。道理でさっきから口をしっかり閉めているわけだわ!
一旦、口をあけて話せば、犯罪証拠がすぐに、あますところなく晒されるのだから。
憎らしい泥棒め!」
すると、烏貝はとうとう話し始めた。
「盗んだものじゃなくて、もともと体の中にあるんだ」
「羨ましいわ……ふざけんな! なぜわたしの体の中にはそんな宝がないの!?」
「なぜなら、あなたのぐるぐる回る体のせいだ。
狭くて曲がった胸の中に、よいものが入れるものか」
それを聞いて、巻貝は顔から火が出た。
 確かに、この世界で、中の美しさは常に表の美しさよりまぶしいはずだ。
そして、中の美しさを守るには、まず広い胸がなければならないのだ。

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