小小説 第4話 溺死した魚

 ある日、私は死んだ。
 死亡の原因がよくわからないので、たとえ魚でも安らかに眠れない。
そこで私は差し当たり天国へは行かずに、自分の死亡原因をじっくり調べてみることにした。

 物心がついたばかりの頃から、私はずっとこの金魚鉢の中で暮らしていて、ご主人様のお世話になった。
ご主人様は本当に善良で、私を自分の子どものように大切にして、すべての愛をくれた。
この金魚鉢も特注されたものだ。
温度が自由に調節できるおかげで、私は1年を通じて暖かい水に浸かり、ゆっくり朝寝できていた。
 日頃、天気がよければ、ご主人様は金魚鉢をベランダに置いて私に太陽の光を楽しませてくれた。
そして、天気が厳しくなれば、「もしも病気になったら困るからね」と言って、絶対に私を外に置かない。
 食事も当然心をこめて準備された。
エサ?
そんないやらしい呼び方を使わないでほしい。
食事はというと、毎朝ほかの人がまだ眠っているうちにご主人様はもう起きて、小さな缶を持って公園の池の畔へ行った。
帰って来たとき、缶の中にはいつも私の好物がいっぱいあった。
「新鮮な食べ物を食べた方がいいね。
店で買った人工食品は君の健康に悪い」
ご主人様の言うとおりだ。
毎日ご主人様の手作りの料理を食べることができて、こんな幸せなことはない。
 たまには悩みもあった。
隣に一匹の「クロ」という猫がいた。
そいつはある日、ご主人様が出かけている間に窓から入って私にちょっかいを出そうとした。
そこへご主人様がちょうど帰ってきて、そいつを追い出してくれた。
それから私の安全のために、周りの窓にすべて鉄の柵をつけて、しまいには、出勤中お手伝いさんを雇って私の世話をさせてくれた。
 至れり尽くせりの配慮を受けて、私はこんな生活が永久に続くことを望んだ。

 しかし、私は死んだ。
 わけもなく死んだ。静かに死んだ。
 ご主人様は悲しくてたまらなかった。
早速事件を警察に届け出た。残念ながら警察でもなすすべがなかった。
 温度も快適で、水も澄み切っていて、酸素も豊かで、食料も新鮮で足りている。また、柵にも壊された跡がないので、他殺の可能性は低い。
 では、自殺か? 私が? うそだ?
楽しく暮らしていて、自殺の理由は何なのか?
医者の解剖結果によると、体の表面には傷もなくて、中に毒もない。
魚の盛りなので、器官が衰弱するということもあり得ない。
そうだとすれば、死亡の原因はいったい何だろうか?

死亡の三日後、やっと警察署の死亡鑑定書が出てきた。
「死亡原因: 溺死。
原因説明: 両親の愛は子どもにとって欠かせないものだが、与え過ぎると、厳しい現実に生きる力を奪う。
それを奪われると、子どもは失敗した時、その原因さえわからない。それは魚も同じ」

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