小小説 第12話 藤蔓の日記

4月12日 日曜日 晴れ—-曇り

 向こうの奴を見ると、また高くなったみたいだ。
そいつの蔓はそろそろ三階の露台に這い上がる。
そのスピ―ドなら、すぐに屋根に這い上がるに違いない。
では、私は? 高さは相変わらずこの藤棚と同じ2㍍足らずぞ。
こうなると知っていたら、最初からと競争などしなければ…。
 私はこの小さい花園の左側にある藤棚の下で生まれたので、左藤さんといわれてきた。
そして、向こうの奴も藤蔓だけど、花園の右側にある三階建ての別荘の壁の下で生まれたので、右藤さんといわれてきた。
 最初、二人の高さはほとんど同じだった。
 「おい、左藤さん、競争をしないか? 君と俺、どちらがが高く成長できるか」
 ある日、向こうの奴は私にそう挑戦した。
 「よし。私は負けないよ」
 私は答えた。年齢も同じ、当面の高さも大抵同じ。
自分が充分に頑張ったら相手に負けるわけない、と能天気な私はそう思った。
始まったばかりの時、五分五分に争っていた。
だが今では、右藤さんの顔を見るには、私は首が痛くなるまで仰ぎ見るしかなくなった。
 自らの失敗に何か口実を捜すつもりはない。
ただし、私は除草剤に誓いを立てる。
私は本気で頑張り続けてきたし、手を抜いたことも一度もない。
 今から見ると、当時は本当に甘過ぎたんだね。
 確かに二人とも藤蔓で年齢も同じだ。
けれども、私は藤棚の下、そいつは三階建ての別荘の壁の下で生まれた。
出身っていうことは……あきらめよう、言わなくてもいい。
それでは今日ここまで、不悉だ。

4月12日 日曜日 晴れ—-曇り

 向こうの奴を見ると、高さは相変わらず2㍍ほどだ。
そいつの蔓はくるくる回り、藤棚に巻き付き、もう藤棚の頂上に達したのに、何かを掴みたがるように蔓を上に伸ばしていた。
だが、何回試すも、同じ所を回ったに過ぎない…。
端の蔓がしょんぼりと垂れ下がっている。
 どんなにかわいそうな奴だろう。
 認めざるを得ないのは、左藤は力を尽くしたということだ。今、そいつはどんな目付きで俺を見ているか。
妬んでいるか、或いは仕事をしないくせに贅沢な生活を楽しむ富豪の息子として、見下しつつあるかもな。
 でも、俺はそいつの目付きを気にしない。
 なぜ俺は今日の高さまで登ったかというと、やはりこの高い壁の七光りだ。大船に乗った感じが多分これかな。
しかし、恥ずかしいことかい?
三階建ての別荘の壁の下で生まれたからには、この後盾をしっかり利用すべきではないだろうか。
相手より素晴らしい出身を利用するのは、そんなに恥ずかしいことか?
 「他人に頼るな。
真の賢い人ならば、自分の力に頼り問題を解決すべきだ」。
ある人はそう教えてくれた。
 ただし、十分に他人の力に頼り、自分の問題を解決できる人は一番賢いと思う。
俺と左藤は努力した。
一つだけの差は、俺が三階建ての別荘の壁の下で生まれたことだけ。
自身の力が少しも要らないとは言えないものの、できるだけ頼れる人を頼るし、利用できる条件を利用する。
これこそ当分の世界に一番頓智な生き道だと思う。
王様は生まれた時必ずしも王様ではないけど、王子は生まれた時から王子だ。
それでは今日ここまで、不悉だ。

作者:ちょうてつ

~上海ジャピオン4月3日発行号より

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