中国の現代演劇 〝話劇〟入門ガイド

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 中国人に愛される話劇

「話劇」とは読んで字のごとく、演者/役者の対話を中心に展開する舞台演劇のこと。日本では一部のファンを除くと、演劇はちょっと特別なイベントといった位置づけで、観劇の経験がない人も珍しくない。しかしながら中国では、友人同士や若い恋人たちが連れ立って出かけるなど、老いも若きも気軽に観劇を楽しんでいる。特に上海市は、2013度の総上演数が前年に比べ、14%増加したとの調査結果も出ている、話劇ファンの多い都市なのだ。ちなみに、話劇の歴史は日本との関係が深く、その始まりは1907年、中国人留学生が東京で結成した劇団「春柳社」による、アレクサンドル・デュマ・フィス脚本『椿姫』の脚色公演と言われている。

現在、話劇の役者や脚本家、演出家は、大きな劇場や劇団に属していることが多い。またこうした大劇場では、老舎や曹禺といった、60年代以前の脚本家による古典名作を繰り返し上演している。老舎の作品では、ある茶館を舞台に、清朝末から戦後に渡る中国の歴史の変動を描いた『茶館』、曹禺作の『雷雨』では、ある資産家一族の複雑な人間模様を悲劇的に表しており、これらは名作と名高く、国外での上演も度々行われている。

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封建制の影響が色濃く残る資産家一族の悲劇『雷雨』

観劇がステータスに

しかし、こういった作品は、壮・老年者層の支持は厚いものの、若者の間での人気は今ひとつで、一時は若者の話劇離れが深刻であったという。それが好転したのは、90年代半ば頃、各地で実験的な演出や現代的な脚本を使った公演が行われるようになり、新しいものに惹かれる若者たちの注目を集め始めたのだ。そして99年、孟京輝演出『恋愛的犀牛』の上演で、爆発的な大ブームが巻き起こる。ストーリーは、サイの飼育員として働く青年が、ある女性に恋をするも、どんなアプローチを繰り返しても女性はなびかず、思い詰めた青年は、驚きの決断をする…という内容。2012年には上演数1000回を超え、37万人を動員した大ヒット作品で、これを観賞することがひとつのステータスとなるほど、若者の熱狂を煽ったのだとか。この流れに乗り、若手演出家たちが次々と意欲的な作品を発表し始め、現在の流れを作った。

さて、ここまで読んできて、話劇に興味が出てきた人もいるのでは? そんなアナタに向けて、次ページからは、同じく1000回以上の上演を誇る、孟京輝の超人気作『两只狗的生活意見』の公演をリポートする。
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『恋愛的犀牛』の一幕

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孟京輝の作品を常に上演

中国の超人気演出家・孟京輝。国内最高の劇団とされる「中国国家話劇院」の演出家を務める傍ら、北京の「蜂巣劇場」、杭州の「孟京輝戯劇工作室」、そして上海の「上海芸海劇場」と、3都市の劇場を運営している。これらの劇場では、ほぼ1年中孟京輝の作品を楽しむことができる。

今回取材班が観てきたのは、大ヒット喜劇『两只狗的生活意見』。出演は2人の役者のみ、ストーリーは2匹の犬が〝幸福な生活〟と〝偉大なる理想〟を追い求めて田舎から都会へ出ていき、ある時は食べるために路上で芸をし、ある時は芸能界入りをし、またある時は金持ちの家で飼われ…など、様々な経験をするというもの。イタリアの即興演劇や中国の伝統喜劇などの手法が取り入れられ、爆笑必至の喜劇として知られる。

〝前説〟でツカミはOK

では、いよいよ観劇リポートといこう。実はこれが初の観劇となる取材班。興奮しながら開幕を待っていると、ベース、ギターの奏者が1人ずつ舞台に上がり、チューニングを始める。何と、BGMは生演奏らしい。ロックな雰囲気にうっとりするうち、役者コンビが登場。さあ始まるぞ! …と思いきや、2人は観客に向かい、観劇マナーについて説明を始めた。

「上演中は撮影禁止だから、僕らを撮るなら今だよ」とお茶目に呼びかけたり、タバコの火を借りたい男と奇妙な?男のコントが始まったりと、まるで日本のお笑いの前説のようだが、これもれっきとした劇の一部。たっぷり時間をかけ、会場を温めてから、いよいよ2匹の犬の物語がスタートする。

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横暴な兄におバカな弟

大きな犬が1匹、大きな理想を胸に都会を目指して走ってゆく。犬の名前は通称〝来福〟。彼は道中、ちょっとおバカな犬・旺財と出会う。旺財は母親から兄を待つよう言いつけられ、母の手紙を胸に、じっとうずくまっていた。そして旺財は来福を兄と思い込み、付いていくことに…。

来福を演じるのは、現在26才の韓鵬翼。彼は孟京輝によるほかの作品『一個無政府主義者的意外死亡』でも主演を務める実力者。少々自分勝手なところもあるが、憎めないキャラである来福を豪快に演じる。そして旺財役は、初演からずっと演じ続けている劉暁曄。母親の手紙を読むたびに「ママ~」と泣き崩れ、〝兄貴〟の言うことは何でも聞く、情けなくも愛嬌たっぷりなキャラは、彼以外が演じることを想像しにくいほどのハマリ役。そして物語が進むにつれ、2人はプロ顔負けの歌声に本物そっくりのモノマネ、楽器演奏までを披露。また上演中は、遅れて入場してきた観客がいると、会話をピタッと止め「どこの席に座るのかな~」と凝視したり、途中で劇場の外へ行く観客がいれば銃を構えて撃つ仕草をしたりと、ユーモアたっぷり。最初から最後まで笑いが包み込む、楽しい舞台であった。

脚本やDVDで予習を

ただし、彼らの話す言葉は北京訛りが強く、慣れない人にとっては聞き取りにくいかもしれない。また、字幕がないうえ、目まぐるしく場面が変わるので、正直なところ、かなりのリスニング力を要する。不安な場合は、前もって脚本に目を通しておくと良いだろう。

さて、芸海劇院の今後のスケジュールは、~6月15日(土)まで、ある女の一途な愛の話『一個陌生女人的来信』、18日(水)~29日(日)にはブラックコメディ『一個無政府主義者的意外死亡』が上演される。どちらも大人気なので、早めにチケットを予約しておこう。DVD化された作品も多いので、そちらも合わせてどうぞ。では次ページから、そのほかの人気演出家を一挙に紹介する。

 

中国実験演劇の祖
林兆華(リンジャオホア) 

林兆華は1978年に演劇演出を開始。高行健脚本の『絶対信号』を皮切りに、手掛けた作品が次々と評価され、中国の演劇界を代表する演出家となった。

彼の作品は、リアリズム演劇や抽象的な実験劇など、前衛的で芸術性の高い演出が特徴。中でも実験劇として有名なのが、未確認動物・野人が出没するという山村に調査にきた学者が主人公の『野人』だ。当時世間を騒がせていた野人探索ブームに、環境問題や恋愛要素を盛り込み、民謡や舞踏、影絵やパントマイムなど、様々な演出を取り入れた。また、人生を捧げていた囲碁を止めた老人と天才棋士の若者の対決を描く『棋人』では、物語と平行して、舞台後方で家が建築され、最後は燃えてしまう演出で人々を驚かせた。

抽象的で難解な林兆華の作品。20公演が入った『林兆華儀劇全集』が販売されているので、観劇前の予習もオススメだ。

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売れっ子女流演出家
田沁鑫(ティエンチンシン)

「中国話劇院」所属の女性演出家、田沁鑫。話劇のほか、京劇や昆劇といった伝統的なものに、ミュージカルやドラマの演出と幅広い活躍を見せる。1997年にデビューしてからわずか2年後、自萧紅の同名小説『生死場』を舞台化し、優秀脚本賞及び優秀演出賞を受賞。その後も数々の賞を受賞し、新進気鋭の売れっ子演出家として知られる。

留学経験により、国外の現代美術に感化されたという田沁鑫。その影響からか、彼女の舞台は中国と西洋の古典劇、さらに古典に対する現代的な視点、東洋美術と現代芸術など、異なる要素を融合させていると評される。

昨年公演された『青蛇』は、妖怪と人間の悲恋劇。中国の民間伝説『白蛇伝』をベースに禅思想を組み込み、愛情、そして信仰を描き出し、上演3時間にも及ぶ大作に仕上げた。昔の作品は、DVD化されている題目もあるので、チェックしよう。

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中国版〝吉本新喜劇〟
閆非(イエンフェイ)

舞台公演のほか、ネットドラマや春節の特別テレビ番組など、様々な方法で人々へ笑いを届ける喜劇団「開心麻花」。閆非は、その専属演出家だ。

同劇団は、作品によって演出家が変わることも少なくないが、その中でも閆非は、比較的多くの作品の演出を手掛けている。特に、劇団の代表作のひとつである『烏龍山伯爵』は、ポータルサイト 「新浪(シナ)」が「2011年度最も人気のある話劇」に認定。同作は6月18日(水)~22日(日)まで、「上海戯劇学院」での公演を予定しているので、お笑い好きはお見逃しなく。またお手軽に観られるものとしては、今年の春節にテレビ放映された小作品『扶不扶』がある。路上で倒れた老女に対する人々の反応をコミカルに描き、上演時間は15分程度。ネットにもアップされているので、劇場へ行く前のお試し観劇にオススメだ。

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話題作豊富な若手演出家
劉方棋(リュウファンチー)

劉方棋は、海外のミステリーを原作とした舞台を多く手掛ける、若手演出家。さらに近年では、中国の小説・映画の舞台版の仕事も増え、若者に圧倒的な人気を誇るネット小説『盗墓笔記』の話劇版の演出を務めたことで話題に上った。これは墓の盗掘をテーマにした冒険活劇で、最新の3D技術による神秘的な遺跡や、迫力ある化け物の描写が見どころ。また、主要男性キャストを演じる役者はイケメン揃い。観客の9割を、女性ファンが占めるのだとか。

ちなみに7月10日(木)~8月24日(日)には、舞台2作目となる『盗墓笔記弐―怒海潜沙』が「人民大舞台」で上映される。イケメン好きはぜひ観に行ってみよう。そのほか劉方棋は、微電影(ミニムービー)で大ヒットした、冴えない男たちの青春ドラマ『11度青春之―老男孩』の舞台版演出も担当。今後も目が離せない演出家のひとりだ。

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~上海ジャピオン2014年6月6日号

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