人生に足りないものはホテルにある

a life less ordinary at the hotel

人生に足りないものはホテルにある


スウェーデンの氷で作られたホテル、カラハリ砂漠の中に建てられたロッジ――
世界には、ありふれた日常を輝かせる強烈な印象を持ったホテルがある
そこで今回は〝人生に足りないものが見つかる場所〟として、魅惑的なホテルをご紹介
スペシャルな空間で食事や睡眠をとる非日常を味わおう

※記事内のチケットや宿泊価格は、国慶節期間におけるおおまかな目安です。詳しくは、旅行代理店やホテルまでお問い合わせ下さい。

ロマンス 島はふたりを抱きしめる


いくつになっても、大切な人と過ごす時間は贅沢だ。それは、大人になっても、親になっても変わらない。「ふたりの時間」を忘れたくはない。
もし、そんな時間をなくしてしまったなら、大切な人とふたりで一緒に旅に出よう。ぽかぽかした柔らかなスポットライトが照らす、ビンタン島へ。そこにあるホテルは、演出家のようにふたりの甘美な時間を脚色してくれる。
◇ ◇ ◇
インドネシア・ビンタン島の北西端、美しい湾のほとりに、インドネシア伝統の草屋根を配した約70のヴィラが点在する。この場所こそが大人のリゾート「バンヤンツリー ビンタン」。マングローブが茂る熱帯雨林が、ゲストを抱きしめるように歓迎する。ホテル自体がひとつのリゾート地といえるほど広く、蒼い海と白いビーチ、さらにトップ・ゴルファーのグレグ・ノーマンが設計したゴルフ場までもが揃っている。
各ヴィラの中は、白いレースの天蓋付きのダブルベッド、エキゾチックなインテリア、木漏れ日の差し込むテラス、海を望めるプールやジャグジー。片隅に置かれたアロマキャンドルからはレモングラスの香りがする。窓の外には蒼い水平線が広がり、石畳の道を歩くと、民族衣装のスタッフがすれ違うたびに微笑みをくれる。そんな極上のロケーションを前に、胸にいつかの高揚感が甦る。
太陽が覗けば、バギーに乗ってビーチに向かい、プライベートビーチに足跡を刻む。雨が降れば、その雨音を聴きながら部屋でふたりの時間を愉しむ。世界屈指のスパブランドとして知られる「バンヤンツリー・スパ」を体験するのもいい。ビンタン島という舞台では、与えられた環境に身をあずけるだけで、誰もがプリマドンナのように輝ける。
外出後ヴィラに戻ると、ベッドの上に写真立てと手紙が置かれている。ホテルからの贈り物だ。ふたりの顔が思わず顔がほころぶ。ふと気が付けば、アロマの香りも違う。こうしたほんの少しの変化、心憎い演出が嬉しい。
 ハネムーンで訪れるゲストも多いため、ディナーにはふたりを盛り上げる企画がたくさん。その代表が「ディナー・オン・ザ・ロック」。海岸の岩の上で、波の音をBGMにグラスを重ねる。満天の星空の下、キャンドルの灯火に照らされてのふたりだけのディナー。1日1組限定の特等席だ。このほか、ビーチで現地の語り部によるインドネシア民話の朗読を聴きながら食事する「ディナー・オブ・ザ・レジェンド」もある。
「Romance is no limit」
これは、次々とロマンス溢れる企画を提案する同ホテルのGM・フランソワ氏の言葉だ。ビンタン島を舞台に、ただ、ただふたりで過ごす休日。それは何ものにも代えがたい贅沢な時間となる。


素 無垢への還元


人生のステージを昇るにつれて、様々な価値観や人間関係が身に付くようになる。時に、重荷とも感じるそんな〝不純物〟を、身体から解き放ってくれる場所――それがサバンナだ。広大な大自然へ同化すれば、無垢な「素」の自分へ還ることができるだろう。
◇ ◇ ◇
 荒涼としたサバンナに、まるで大自然の一部のように建つ「アース・ロッジ」。オールインクルーシブのこのロッジへの宿泊は、ヨハネスブルグで専用セスナに乗り込むところから始まる。エントランスには、流木のレセプション。石造りのバスタブ。そして、インパラのステーキなどの、野趣とエレガンスを兼ね備えた食事。そのひとつひとつが、自然の一部だということを再認識する。
 「ゲーム・サファリ」で、その思いはさらに強くなるだろう。護衛用ライフルを持ったレンジャーと一緒に、オープンエアのランド・ローバーに乗って、道なき道を、サファリで生きる動物たちに出会いに行くのだ。
 サバンナを駆ける。ゾウの親子が草を食み、ヒョウが樹上に獲物を引き上げる。目の当たりにするのは、この地球に生きるのは人間だけではない、という事実。
 過去、現在、未来。その景色は、常に純粋だ。ここは、素の自分へと「還る」場所なのだ。


サビサビ


南アフリカ共和国北部にある、私営の自然動物保護区。隣接したクルーガー国立公園とともに、自然のままのアフリカが最も残っているといわれ、約200種の野生動物が生息。BIG5と呼ばれる、ライオン、ヒョウ、サイ、バッファロー、ゾウが見られる数少ない地域でもある。また、2010年にはサッカーワールドカップの開催地となる予定。
上海からはモルディブ・モーレ経由で9時間ほどで。同国北東部の経済都市ヨハネスブルクへ。そこから飛行機でさらに1時間。チケットの相場は往復6000元前後

冒険 熱帯雨林の冒険


歓楽地、バー、クラブ、都会の様々な娯楽をどれだけ楽しんでも、そこには決められた平穏がある。もしそこに「退屈」を感じたなら、足りないものは未知の刺激ある「冒険」ではないだろうか。
◇ ◇ ◇
 オーストラリアの世界遺産指定区内に、原住民文化と華麗に融合した「デイントゥリーエコロッジ&スパ」がある。地球最古の熱帯雨林にその身を隠す、15棟のトゥリーハウスで、つかの間の冒険を味わってみよう。
 この深い森林では、クク・ヤランジ・アボリジニが生活を営んでいる。ゲストは、この太古の自然世界を熟知した彼ら自身に案内され、ボーイスカウト気分で森を散策できる。素晴らしいのは、森に生息する430種もの野鳥たちの息をのむ美しさ。その鳴き声に耳を傾けながら、未知の世界の探検を続けよう。運がよければ、アボリジニたちの精神文化が結晶した「スモーキング」の儀式を体験することもできるだろう。
 さらに、ホテルに隣接するデイントゥリー・リバーには、オーストラリアのポピュラーなフィッシング・ターゲットであるバラマンディを始め、200種類もの魚が生息している。魚との出会いもまた、心を躍らせるはずだ。
 子ども心をわくわくさせるような、冒険への扉はここにある。

デイントゥリーエコロッジ&スパ

住所: 20 Daintree Road Daintree QLD 4873 Australia、電話:61-7-4031-2600、URL: www.ats.co.jp/daintree/index.htm、客室数:15棟、価格:A$510~688(朝食、税込み)、設備:スパ、室内プール、サンデッキ。
ケアンズから北に110㌔メートル、ロッジまでは舗装道路を走る。道程にあるキャプテンクック・ハイウェイは、オーストラリアのドライブコーストップ10に選ばれている。ホテルまでの送迎サービスあり(価格は出発地点により異なる)。

デイントゥリー

デイントゥリーはオーストラリアのクイーンズランド州に位置する世界遺産指定区域。同州沿岸には、同じく世界遺産である世界最大の珊瑚礁・グレートバリアリーフもある。上海からケアンズ空港までは、メルボルン経由で約13時間、往復チケット代は14000元程度。ケアンズ空港からデイントゥリーエコロッジ&スパまでは車で90分。

癒し 無心の境地に浸る


ノートパソコン片手に、世界の各都市を駆け巡る多忙な商社マン。あるいは、チャンスを掴むため、大都会で活躍するビジネスマン。その暮らしの中で、ひとときの癒しを求めるとすれば、それは派手な娯楽や観光ではない。
 無心になる――それが苛烈なビジネスシーンに生きる人間にとっての最高の贅沢だ。そして、その贅沢を求めるには、何も国際線のシートに座って遥かな離島まで飛ぶ必要はない。求める「無心の境地」は、上海のすぐ隣に存在している。
◇ ◇ ◇
 水墨画を広げた空間――。杭州の富春江を見下ろす丘に広がる「富春山居」を眺めれば、誰もがそう思うのではないだろうか。
 それもそのはず、実はこのリゾート空間は、元代の画家・黄公望による水墨画の大作「富春山居図」をイメージして設計されている。黄公望は、公職を辞し、故郷で10年の歳月をかけてこの画を完成させた。彼はその景色に、都の喧騒から離れて煩悩を洗い落とす、静謐な心情を見出していたのかも知れない。
 そして、現代の富春山居を訪れるゲストは、まず約150㌶に及ぶその広大な敷地に言葉を失う。都会ではまず手に入らない、「広さ」という安らぎ。段段に重なる茶畑、丘の緑を映す湖、雲だけが漂う雄大な空。しん、と澄んだ空気に、心を洗われたい。
 その中に建つヴィラは、現代風にアレンジされた南宋建築様式。等間隔に柱と梁が並び、シンメトリーを基調としたスタイリッシュな雰囲気の奥に、12~13世紀、南宋の首都として栄えた杭州の歴史がゆったりと漂う。白壁と瓦屋根が連なるその眺めは、日本人にとっても心休まるものだ。
 また、湖に面したレイクラウンジからは、霧に包まれる朝焼けから、情緒的な陰影を生む夕暮れの光まで、一瞬ごとに表情を変える繊細な眺めを楽しめる。悟りにも似た静かな気持ちと共に、杭州の銘茶「龍井茶」の豊かな香りをたしなみたい。
 リラクゼーションを追求するなら、19㍍四方の大型インドアプールも魅力的だ。寺院を思わせる建築と、夜は緑に光る照明とが合わさって、瞑想するような神秘的な気分を演出してくれる。
 さらに、敷地内では、専門講師による太極拳やヒマラヤヨガのレッスンも受けられる。精神の集中と、肉体の鍛錬。俗世間への執着から自己を開放する条件は、これで全てそろった。
 ホテルのコンセプトは、名称にも使われている「居」の文字。その意味は「立ち止まり、ひと休みする場所」。豪華な空間でありながら、心落ち着ける静けさを保つ「富春山居」をまさに象徴している。この週末にでも、無心の境地に癒される贅沢を味わいに訪れたい。



開放感 「青」の舞台への開放


大都会に暮らしていると、乱立するビル郡や人の波に圧倒され、時々息苦しくなる。
 もしも、このすべてから開放されたなら――。そんな願望を現実にした場所がある。舞台は、空と海の「青」が広がる孤島だ。
◇ ◇ ◇
 そこは、インド洋に浮かぶ珊瑚礁の島。歩いても20分足らずで1周できるその島にあるのは、ホテル「ココア・アイランド」ただひとつ。客室もわずかに23部屋を配すのみで、喧騒から完全に開放された空間が広がる。
 その客室は、島の景観を演出するかのような、モルディブの伝統的な漁船「ドーニ」を模した海上コテージ。窓の外には、水中を泳ぐ熱帯魚の姿もちらほら。
 このほか、島内にはバーラウンジデッキや壁を取り払った開放的な屋外ヨガパビリオンも完備。オプションには、ナイトフィッシングやダイビングなどがあり、海の遊びもカバーする。
 また、干潮時に姿を現す砂州にはぜひ足を運びたい。左右に引く潮が一時的にすーっと細い道を作り出し、波音が両側から同時に響き渡る。波の音と、見渡す限りの「青」に包まれていると、自分の存在すら空気に溶けてしまうかのような錯覚を覚える。
ここでは、自我をも抜け出せる究極の開放を味わえるのだ。


モルディブ


スリランカの南西に位置し、インド洋に浮かぶ珊瑚礁の島々からなる共和国。上空から見る島影は、まるで2連にしたネックレスのようにも見える。透明度の高い、冴え渡る青い海は、ダイバーたちからの評価も高い。上海からは飛行機で5時間ほど。往復チケットの相場は5500元ほど。

不思議 驚きの感性を刺激する


世界の観光地を巡っても、予定調和を抜け出せない……そんなマンネリを感じた時、訪れたいホテルがある。〝不思議なものに対する驚き〟もまた、ホテルが提供するバリューだと気付くはずだ。
◇ ◇ ◇
 現代アートのオブジェにしか見えない強烈な印象。ブラジルにあるそのホテルは、その名も「ユニーク」。ひと目で、不思議の国に引き込まれること請け合いだ。
 半円形のフォルムと、丸窓が並ぶ外観から、漫画的な船をイメージする人も多いだろう。銅版で覆われた壁は、まさに船の側面のような金属的な輝きを見せる。
 この地上の船、屋上はもちろん木製デッキだ。ただ、普通の船とは違い、フランス人シェフが腕を振るうレストランや、真紅のライトが照らす屋外プールがある。海原の代わりに眼下に広がるのは、大都市サンパウロの街並みだ。
 内部にも、常識を吹き飛ばす不思議なしかけが満ちている。冷えたシャンパンだけが置かれた小さなレセプション。船の形に合わせて曲がった床。青い窓ガラス越しに外に目をやれば、海底都市を眺めているような気分になれる。
 コンセプトは「他とは違うこと」。外観から内装まで、すべてがゲストを驚かせるために選ばれたこのホテルで、不思議を味わう感性を刺激してみたい。


サンパウロ


ブラジル南東部にある南半球最大の都市。人口は約1100万人。高層ビルが並ぶ経済都市だが、世界的に知られる美術展覧会「サンパウロ・ビエンナーレ」の開催地でもあり、サンパウロ美術館、ピナコテッカ美術館などのアート施設も楽しみどころ。移民の歴史から、日本風の街並みも見れる。上海からは、ミュンヘン経由で約13時間半。往復チケットの相場は12000元ほど。


~上海ジャピオン8月24日発行号より

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