世界はシネマの舞台

剣と魔法の冒険の国

世界を冥王の手から救うため、8人の仲間と共に冒険の旅に出たフロド――。恐怖に満ちたモリアの鉱山をくぐり抜けた一行は、緑が輝き、せせらぎが流れる森へと辿り着いた。
 「この森には、恐ろしい力を持った魔女がいるそうだ……」
 そんな話をしていた一行を出迎えたのは、神々しい気高さと美しさを持った、エルフ族の王妃・ガラドリエルだった。この地こそ、世界で最も美しい森と呼ばれるロスロリアンだったのだ。神秘とやすらぎに満ちたその森の美しさに、フロドたちは息を呑む――。
◇ ◇ ◇
 最高峰のファンタジーと呼ばれる『指輪物語』を原作に制作された映画『ロード・オブ・ザ・リング』は、2001年に公開されるや、その素晴らしい映像で世界を驚かせた。この剣と魔法が飛び交う冒険の舞台「中つ国」を撮影するため、制作チームは1年以上世界中を探し回ったという。最終的に選ばれたのは、監督ピーター・ジャクソンの出身地でもあるニュージーランドだった。
 太平洋に浮かぶニュージーランドは、非常に特異な地形を持った島だ。大地を削る氷河、緑が生い茂る原生林、煙を吐く火山……。その現実離れした光景は、制作チームの目に、まさに別世界として映ったに違いない。
 こうして、氷河湖を抱える神秘的なサザンアルプスは「霧ふり山脈」、溶岩が作った岩場や火口湖が広がるトンガリロ国立公園は「暗黒の大地モルドール」、渓流と湖の間を白い山脈が縫うグレノーキー地方は「城塞アイゼンガルド」として、中つ国の一部となった。マウント・アスパイアリング国立公園の渓谷では、先のシーンに描かれたロスロリアンを観ることもできるだろう。
 さて、ニュージーランドが特異なのは地形だけではない。一億年前に大陸から分断されて以来、隔絶された環境の中で独自に進化した動植物も、信じられないほどユニークだ。キーウィ、ウェカ、カカポなどの飛べない鳥たち。恐竜の生き残りと言われるトゥアタラ。原始的な大型昆虫ウェタ。巨大なシダが繁るジャングルでは、世界最大級の樹木カウリなど、特有の植物も数多い。
 この生態系を、自然学者デヴィッド・ベラミーは「モアの箱舟」と呼んだ。そう、絶滅した伝説の巨鳥モアは、数百年前までニュージーランドに生きていたのである。
 見たことのないものが息づく島・ニュージーランド。訪れれば、きっと現実を忘れる体験ができることだろう。
◇ ◇ ◇
 王妃ガラドリエルから贈り物を受け取り、ロスロリアンを離れたフロドたち。その旅は、さらに多くの山、森、砦を超えて続く。その壮大な光景は、フロドの心に深い印象を残したに違いない。

ニュージーランド
ニュージーランドは、北島と南島の2つの大きな島から成り、国土面積は日本の4分の3ほど。14の国立公園があり、原生林、渓谷、氷河、湖などの大自然の中で、カヤック、釣り、トレッキングなど様々なアクティビティが楽しめる。南半球にあるため、10月は春で、ラフティングにも最適。上海からは、直行のフライトを利用した場合、所要15時間程度。往復チケット価格は7000元ほど。

『ロード・オブ・ザ・リング』
(2001年/アメリカ・ニュージーランド)
監督:ピーター・ジャクソン、俳優:イライジャ・ウッドほか、原作:J・R・R・トールキン『指輪物語』
架空の世界「中つ国」を舞台に、光と闇の勢力の闘いを描くファンタジー。続編の『二つの塔』『王の帰還』を含め3部作として制作され、03年に公開された完結編はアカデミー賞11部門を受賞した。ニュージーランドでは、ロケ地を巡るファンがなお絶えない。

未来への出発点

「照準……OK!」
 帝国軍の宇宙要塞デス・スターが、銀河の闇の中にきらきらと散った。反乱同盟軍を率いるルークたちが、苦戦の末に帝国軍に打ち勝った瞬間だった――。
◇ ◇ ◇
 『スターウォーズ エピソード4―新たなる希望―』は、1977年に公開されるやいなや、「SFはB級」という当時のイメージを覆し、瞬く間に話題を博した。
 グアテマラ北部の世界遺産「ティカル国立公園」。ここにある神殿こそが、反乱同盟軍の秘密基地のロケ地となった場所だ。遠い昔、この地はマヤ文明の中心地として最盛期を迎えた。高さ30㍍の樹木が密生する熱帯雨林に、何千もの巨大な神殿が建てられ、数万人が暮らしていたという。
 そして現在、多くの人が古代文明の神秘を求め、ここを訪れる。
 神殿への道を、古代に思いをはせながら歩く。道の途中では、原色のオウムが木の上で歌い、アナグマの親子が目の前を通る。
 高さ71㍍の4号神殿の階段を登る。じっとりとした熱帯の空気が肌を湿らす。視界を埋める樹海。神聖な空気。Xウィングが飛び立った地は、生命に溢れている。
◇ ◇ ◇
 仲間が待つ基地へと凱旋するルークの目にも、地のはてまで広がる緑の森が映っていた。

ティカル国立公園
グアテマラはメキシコの南に位置する。北部にある「ティカル国立公園」は、1979年に、マヤ文明と熱帯雨林という文化・自然の両面から、世界複合遺産に登録された。上海からは、ヒューストンを経由して、首都グアテマラシティまで飛行機で約17時間(乗り換え待ち時間を含まず)。往復チケット価格は11000元程度。

『スターウォーズ エピソード4―新たなる希望―』(1977年/アメリカ)
 監督:ジョージ・ルーカス、出演者:マーク・ハミルほか、原作・脚本:ジョージ・ルーカス
 宇宙を支配する帝国軍と、打倒帝国軍を目指す反乱軍の宇宙戦争を描くSF大作。1977年に公開されたエピソード4を皮切りに、以後シリーズ第6作まで制作された。同作品は1977年のアカデミー賞で7部門受賞という快挙を成し遂げた。

別の惑星の景観

宇宙探索に旅立ったテイラー達の宇宙船は、1年半の航海の末、ついに未知の惑星に到着する。
 だが、湖に着水した衝撃で船は破損。乗組員たちは、周囲に広がる砂漠へと足を踏み出した――。
◇ ◇ ◇
 1968年に公開され、その斬新なストーリー展開により、SF映画界に一大センセーションをもたらした『猿の惑星』。その主人公たちが、未知の惑星へ足を踏み出す印象的なシーンの撮影に、アメリカのアリゾナ州にある、レイク・パウエル、グランド・キャニオンが使われている。
 レイク・パウエルは、全長300㌔、湖岸線は3000㌔を越える巨大な人工湖。湖を水で満たすのに17年を費やしたというから、地球規模とは思えない。
 一方のグランド・キャニオンの景観は、地上に隆起した太古の海底の堆積物が、コロラド川によって数千万年に渡り、削られてできたもの。今もなお、最古で20億年前の地層が侵食されていると言われ、地上では目にすることのない奇怪な岩肌が続いている。それはまさに、別の惑星の光景だ。
◇ ◇ ◇
 荒涼とした砂漠をさまよい歩いたテイラー達は、ついに緑豊かな土地へ辿り着く。そこで彼らが目にしたのは、人類を奴隷に従えた「猿」が支配する世界だった。

グランド・キャニオン
アリゾナ州はアメリカ合衆国南西部、メキシコ合衆国との国境に位置する。州面積は約30万平方㌔に及び、日本国土の約8割に相当する。グランド・キャニオンは、1979年に世界遺産に登録されており、観光地としても有名。上海からは、飛行機でニューヨークを経由してフェニックス空港まで。所要時間は約15時間、往復チケット代は5500元程度。

『猿の惑星』(1968年/アメリカ)
 監督:フランクリン・J・シャフナー、キャスト:チャールトン・へストンほか、原作:ピエール・プール著『猿の惑星』。
 驚愕のシナリオと深遠なテーマで全世界に衝撃を与えた古典SF映画。相次いで続編とTVシリーズが制作され、2001年にはティム・バートンがリメイクして話題に。精巧な特殊メイクは、その後アカデミー賞にメイクアップ部門を設立させたと言われる。

魔女が見下ろした街

魔女になるために、13歳の少女キキは旅立った。そして、新しく暮らす街の条件に「海の見える街」を挙げたキキがたどり着いたのは、海辺の街コリコだった。
 この街で自分に何が出来るのか。そんなことを考えていたとき、誰にも真似の出来ない「飛ぶこと」を生かした仕事へ導くある出来事に遭遇する。忘れ物のおしゃぶりを届けるため、ほうきに跨りふわりと飛び立ったのだ。
 誰かの役に立ちたい。生きる力に溢れたその目には、オレンジ色の屋根に、白い壁の家々、そして青く輝く海が映っていた――。
◇ ◇ ◇
 1987年7月に公開された、宮崎駿監督手掛けるスタジオジブリ作品『魔女の宅急便』。主人公のキキが暮らすことを決意したコリコの街のモデルには諸説あるが、クロアチアのドブロヴニク旧市街もそのひとつだ。
 中世ヨーロッパの街並みを思わせるドブロヴニクは、「アドリア海の真珠」と称えられるほど美しい。オレンジ色のレンガ屋根、白い壁、石畳の道。さらにアドリア海と空の青さまで、その全てがコリコの街を連想させる。
 全長約2㌔の城壁は、高さ25㍍にも達し、旧市街を文字通り見下ろすことができる。ここに立つと、お届け物を携えて飛ぶキキが、すぐ横を通り抜けるような気さえしてくる。ドブロヴニクではこのように、キキが見たであろう景色を目にすることができるのだ。
 しかし、そんな麗しいドブロヴニクもかつて壊滅的なダメージを受けたことがあった。1度目は17世紀に発生した大地震。そして2度目は90年代のユーゴスラビア内戦だ。
 そんな痛ましい歴史に屈せず現在の姿を取り戻したのは、そこに暮らす市民たちの復興運動があったからだ。要塞都市としての強さと、アドリア海の真珠と称えられた美しさを取り戻さなくてはいけない。市民は立ち上がり、膨大な量の古書を調べて当時と同じ建材をかき集め、専門家を国外から数多く呼び寄せた。地元を愛する市民の心。それが、一時は「危機遺産リスト」に指定されたドブロヴニクを、98年に再び「世界遺産」へと復活させた。
 今では、レストランやホテルも続々と登場し、対岸のイタリアを始め各国からの観光客で賑わう観光都市として名を馳せている。
◇ ◇ ◇
 「決めた! 私お届け物をする」
 13歳の少女がひとり立ちのために見つけたのは、飛ぶことを活かしたお届け物の仕事だった。
 そして、初めての仕事の日。荷物を持ったキキは、颯爽とほうきに跨り、うんと高く飛び上がった。そして、上空で目の前に広げた地図をふっと視界から外したキキの目に、地図に描かれたものと同じ、レンガ屋根に石畳のコリコの街並みが広がった。

ドブロヴニク
クロアチアの旧市街で、15~16世紀にはアドリア海最大の城塞都市として繁栄を極めた。1979年に世界遺産に登録。クロアチアは東ヨーロッパにあり、1991年に旧ユーゴスラビアから独立している。上海からは、飛行機でクロアチアの首都ザグレブへ行き(所要時間約17時間、往復チケット代は約7000元)、そこで乗り換えてドブロヴニク国際空港まで(所要時間約50分)。空港から旧市街までは車で約20分程度。

『魔女の宅急便』(1989年/日本)
 監督:宮崎駿、声優:高山みなみほか、原作:角野栄子『魔女の宅急便』
 13歳の少女キキが、魔女になるためにたくましく生きていく姿を描いた物語。街の風景を描き起こすため、制作スタッフはスウェーデン、ポルトガルなど、ヨーロッパ各地を取材に訪れたという。

少女が迷い込んだ世界

10歳の少女千尋は、両親と一緒に八百万の神が集まる湯治場「油屋」に迷い込んでしまう。
 頼りの両親を豚にされ、不安でいっぱいの千尋。その頃、神を出迎える準備を整えた街に、ぽつぽつと明りが灯り始めた。
◇ ◇ ◇
 2001年7月に公開された、スタジオジブリ作品『千と千尋の神隠し』。中国台湾の北部にある山の上に佇む街「九?」は、この映画のモデルと言われている。
 この街は閑散とした山村だったが、19世紀末、金鉱の発見により繁栄が訪れる。しかし、その金脈もほどなく尽きてしまう。
 それから半世紀。街は現代的発展から取り残されてしまう。だが、それが逆に街にノスタルジックな雰囲気を生み、現代の人々の心を惹きつけることとなった。
 通りには、台湾名物「小吃」の店が所狭しと並ぶ。石畳の道を歩くと、「?一?!(味見してごらん)」と声がかかる。裏道を覗けば、駄菓子屋が目に入り、その脇を子どもたちが駈けて行く。
 日が沈む頃、提灯に火が灯る。石段に影が伸びる。その光景は、千尋が大人への一歩を踏み出した、まさにあの場所だった。
◇ ◇ ◇
 「私、ハクを助けたい」
 提灯の下で涙をためていた少女は、もういない。

台湾
中国台湾は九州ほどの大きさからなり、温泉が豊富。九?のある北部は亜熱帯気候に属す。10月の平均気温は約25度。付近には海鮮で有名な基隆夜市がある。上海から台北までは、飛行機でマカオを経由して約2時間半(乗り換え待ち時間を含まず)。往復チケット価格は3500元前後。台北から九?へは、バスで約1時間半。

『千と千尋の神隠し』(2001年/日本)
 監督:宮崎駿、声優:柊瑠美、入野自由、夏木マリ、菅原文太ほか
 小学4年生の千尋は、神々が暮らす別世界に、両親と一緒に迷い込んでしまう。千尋は、豚にされた両親を元に戻すために、「油屋」で働くことを決意。弱虫だった千尋が、「油屋」での様々な事件を通して成長していく姿を描く。 同作品は全世界約50カ国で公開され、数々の賞を受賞。国内では、映画興行収入歴代トップ。

剣士が舞った竹林

名剣「グリーン・デスティニー」を盗んで逃げる若き女剣士イェンと、それを追う英雄ムーバイ。彼らが対峙したのは、青々とした静かな竹の海だった。風が吹き、海が揺れる。湾曲する竹の上で、ふたりは幾度も剣を合わせた。
◇ ◇ ◇
『グリーン・デスティニー』は2000年に公開され、アカデミー賞ではアジア映画史上最高となる10部門にノミネート。絵巻物のような大自然と、武術のしなやかな動きを融合した優美なアクションが話題を呼んだ。そのロケ地となったのが、「天下第一の奇山」と称えられる黄山だ。
 72を数える峰々は常に雲海に覆われ、切れ間からは珍しい姿をした松や岩が浮かぶ。その光景は古来より多くの詩人、画家を魅了してきた。麓にはふたりが剣を交えた竹林や、イェンがムーバイの投げ捨てた剣を追って飛び込んだ滝があり、頂上からの眺め同様に、観光ポイントとなっている。
 石造りの登山道のほか、ロープウェイも整備され、これに乗れば「山水画の世界」を空中散歩することも可能。ふたりの目に映った景色が足元に広がる。
◇ ◇ ◇
戦いの果てに、生き残ったイェン。己の身の振り方を考え、雲海が棚引く「飛べば願いが叶う谷」へと足を進めるのだった。

黄山
中国十大名勝地のひとつ。1990年に世界複合遺産に登録。雲海に浮かぶ峰々が魅力で、秋には岩肌の植物が紅葉し、色を添える。ほど近い距離に2000年に世界文化遺産に登録された明・清時代の古民居村「宏村」もあり、こちらも同映画のロケ地となった。上海からは、飛行機で約1時間。チケット価格は片道580元ほど。

『グリーン・デスティニー』(2000年/中国・アメリカ)
監督:アン・リー 俳優:チョウ・ユンファ、ミシェル・ヨー、チャン・ツィイー
 伝説の剣「グリーン・デスティニー」を巡り、それを守る者と奪おうとする者との戦いを、2組の男女のロマンスを絡めて描く。アカデミー賞4部門受賞作品。ワイヤーアクションを駆使しながら、剣士たちが黄山の空を大地を水面を縦横無尽に駆け回る。



~上海ジャピオン8月17日発行号より

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