女性にとって、出産にまつわる不安や悩みは尽きない。
それが「海外出産」ともなれば、なおさらのこと。
そこで今週は日本と上海の考え方の違いなど、出産に役立つ情報やヒントをお届けします。
上海? 日本?そのメリットは?
経験者の声
数年前までは、上海で妊娠した場合、帰国出産するのが一般的だった。しかし、現在は外国人向けの医療設備の充実などに伴い、上海での出産を選択する人が増えている。現状では、ちょうど半々程度だ。
中国と日本では、出産に対する考え方や費用、そして言葉の面など様々な違いがある。それでも、上海出産経験者がよく口にする最大のメリットは「産まれてからの数カ月、変化の大きい時期を主人と一緒に過ごせること」。帰国出産の場合は駐在中の旦那さんは上海に残って妊婦さんだけが日本に帰り、数カ月離れ離れというケースがほとんど。しかし上海で出産すれば、旦那さんも子どもの成長を間近で見守ることができ、それにより父親としての自覚がより強くなりやすいという。「旦那さんを育児に参加させる近道かも」なんて意見も。このほか「アイさんがいること。身の回りの事を手伝ってくれるだけで大助かり。日本でお手伝いさんは雇えません」との声も多い。普段は活用していなくても、産む前と産んだ後の数カ月だけ、お願いするだけで負担がだいぶ和らぐ。
一方、帰国出産という人は、出産に対するストレスを少しでも減らし、安心感を持って出産したいという人が多い。「通訳を通さず自分の言葉で医師と接することができるから相談しやすいし不安も解消しやすい。信頼関係も築きやすいと思う。いいお産には、医師との信頼関係も大切!」。また、「産院不足とはいえ、色んなスタイルの産院があるので医療処置的に安心なところ、自然分娩や母乳指導に力を入れているところなど自分に合うスタイルを選びやすいと思う。上海ではまだそれは難しそう」との指摘もあるようだ。
いつ決めるべき?
上海で産むか 日本で産むか
これは妊娠5カ月目までには、決めてしまいたい。というのは、日本は今、産婦人科や小児科の減少のため、お産出来ない病院が増え、出産間際まで各産院をたらいまわしにされることも。「お産難民」なんて言葉もあるほど。そんな中、地元住民の出産を優先させるため、「里帰り出産」を規制する病院も出現。5カ月以降だと、各県で人気の産院は予約が入れられないケースも多々あるので、帰国出産を決めたら、なるべく早めに病院を決め、連絡を取ろう。
ちなみに上海の場合は、現状なら、ほぼ希望する産院で出産できる。日本人の間で最も利用されているは国際和平病院のVIPフロア。次いでユナイテッドファミリーとなっている(詳細は下記参照)。
〝自然に自然に〟の日本、〝医学で引っ張る〟の中国
出産に対する考え方の違い
「じゃあ切ろうか?」
中国の出産は帝王切開に抵抗なし!?
日本では、十月十日自分のお腹の中で我が子の成長を感じ、産みの苦しみを経験して母親になる、という考え方が強い。できる限り帝王切開はせず、陣痛促進剤も使わず、自然分娩に任せましょう、となるべく本来の自然の営みに合わせていく。「健康な人ならちゃんと産む力は備わっている」ことを前提として、産院ではサポート&アドバイスをしながら、医療者と二人三脚で出産を進めていく形だ。
基本は自然分娩だが、痛みに弱いという人のために自然分娩の中でも局部麻酔を打って行う無痛分娩も行っている。ただし、痛いのイヤだからといって、帝王切開を希望すれば、「不要な傷を作る必要はない」と確実に止められるだろう。
対して中国は、医学でリードしていく印象が強い。大きな違いとしては、日本では自然に産めない場合の最終手段として使われる帝王切開が、中国では積極的に用いられる。病院によっては、自然分娩より帝王切開の方が多いところもあるほど。もちろん希望すれば自然分娩で産めるが、出産予定日から1週間も遅れれば、医師から「そろそろ切りましょうか」と提案されることも多々ある。
背景には、帝王切開なら産みの苦しみもなく、骨盤に負担もかからない、という考えの浸透があるようだ。加えて医師側からしても、陣痛促進剤を効果的に使って勤務時間内にお産を済ませるように調節し、帝王切開で取り出すのが効率的で良いという面もある。また中国人の中には、縁起のいい数字の日に産みたいと希望する人も多い。例えば、北京五輪開幕日は、中国では縁起のいいとされる「8」が並ぶことから、多くの妊婦が「開会式ベビー」を熱望し、帝王切開による出産を希望したというニュースも。「1人っ子政策」が影響しており、産まれてくる子には縁起の面からもベストを尽くそうとの想いがある。
こうした事情もあり、医師も帝王切開に馴れており、手術の技術は高い。そのため上海で出産した日本人の中には、帝王切開で産んだ人も多く、中には「局部麻酔なので、看護婦さんと談笑をしながら和やかに産みました」なんて人も。反対に帝王切開ではなく「自分の力で」と望む人は、考え方の違いで帰国出産を選択する場合もある。
どちらの考え方が良いとか悪いとかは、一概には言えない。大切なのは「産むのは自分だ」という意識で出産に対する知識を蓄えること。特に上海で産むなら、「帝王切開しなくちゃ」「陣痛促進剤打たなくちゃ」と言われた時、盲目的に「あ、ハイ」と言って受身で進め、後で後悔しないよう注意したい。
男女は絶対教えない!?
エコー検査も日本より少な目
中国では出産前に子どもの性別を教えてはいけないことになっている。これは「1人っ子政策」の影響もあり、女の子だと分かると中絶してしまうケースがあるため。日本の場合は希望すれば、簡単に教えてもらえる。平均で6カ月目頃になれば、エコー検査で分かる。
ちなみにこのエコー検査、日本なら2週に1回~月1回検診に行く度にあるが、経験者の話では、中国だとその半分程度しかないとか。ただし、専門家によるとエコー検査自体は、絶対必要というものではないので、これも考え方の違いの1つ。
入院日数が短い!?
自然分娩なら3泊4日が基本
日本では自然分娩の場合、病院によって多少の差はあるが、5泊6日~1週間が基本で、帝王切開ならさらに2日~3日プラス。中国なら自然分娩の場合、基本は3泊4日、体調が良ければ2泊3日で退院を勧められることもある。これもアイさんや月嫂(出産後専門の家政婦)の存在など、文化の違いが影響していると言えるだろう。
よく利用される病院
国際和平婦幼保健院
高水準なサービスを提供しており、上海で出産する日本人に最もよく利用されている産科専門病院。入院を希望する場合は医療アシスタンス会社「ウェルビー(TEL:6440-0055、会員登録が必要)」を通すと、通訳も手配でき便利。入院中の食事はあっさり中華が基本となる。
ユナイテッドファミリー病院
2004年開業のアメリカと中国の合弁病院。国際和平に次いで、日本人によく利用される。出産料金が決して安くないので、出産に対して会社が負担してくれる人の利用が多い。食事は中華のほか洋食もあり、また退院前はディナーのサービスも。
両親・母親学級でしっかり勉強
ママ友作りも
上海で実際に出産する病院は主に上の2つだが、出産前の勉強の場としては、古北にある上海南亜病院日本人診療部の母親学級や両親学級が活用され、多くの日本人妊婦さんが足を運んでいる。またプレママ友作りの場としても活躍している。参加希望者は医療コミュニティ「上海Medi(http://maruta.be/shanghai/)」に会員登録(無料)すれば、無料で受講できる。
母親学級は妊娠週によって、前期と後期に分かれる。前期の場合は、「妊娠中の栄養」や「妊娠体操」など。中国の病院では、指導することの少ない「母乳マッサージの方法」なども伝える。後期は「分娩各期の過ごし方」や「沐浴・おむつ交換」を教える。そして両親学級では、「産痛緩和・マッサージ法」などに加え、「赤ちゃんを迎えての生活」や「父親の役割」についても解説していく。
このほか市内の病院では、帰国出産までの検診や上海出産を決めた人がセカンドオピニオンを求める場合などに、淮海路の博愛病院に足を運ぶ人も多い。また不妊で悩む人には、華山路の永恵華(トワコ)クリニックが相談の場としてよく利用されている。
~ジャピオン9月19日発行号より