上海で音楽に生きる

 上海で音楽に生きる


上海の地で音楽に生きる外国人たち
彼ら彼女らは何を思いこの地にやってきたのだろう
音楽バーで活躍するミュージシャンの素顔に迫った


ピアニスト
【YUKO】

上海でジャズピアニストとして活躍する日本人女性がいる。それが「YUKO」の名で知られる新井裕子さんだ。
彼女をこの道に導いたのは、幸運や運命など大げさなものではなく、日常に潜んでいるチャンスを見出し、着実に次のステップへと進むという、彼女の生きるスタンスそのものだった。
 彼女がジャズの世界に足を踏み入れる最初のキッカケは、大学の頃に訪れた。
「カリフォルニアの大学に留学していたのですが、その当時、ジャズを聞く機会がとにかく多かったんです。ラジオなんかは24時間ジャズだけを流す局がありましたし、留学先の大学では頻繁にジャズコンサートが開かれていました。それも大物を招いたりして」
気が付くと、まわりはジャズで溢れ、友人もジャズ好きばかりだった。そんな彼女がジャズに興味を持つのは自然な流れと言えるのだろう。そして、興味は次第に聞くだけに止まらず、大学に設けられていたジャズクラスを受講し、歴史やセオリーなどを学ぶまでに至った。
こうしてジャズと出会った彼女に第2の転機が訪れた。それは、大学卒業後に結婚したフランス人のご主人と共にパリに渡ったこと。そこで、ジャズバーに頻繁に通うようになる。
「バーでの距離感というのは、それこそミュージシャンの汗が飛んでくるくらい近くて、そんな空間だからこそ感じられる気迫がある。そのインパクトがただ強烈で、さらにジャズの世界にのめり込んでいきました」
 パリで暮らした5年半の間に、本格的にジャズピアノのレッスンを始め、やがて小さなレストランで演奏するチャンスを手にした。その後バンコクに渡り、ホテルなどで演奏する日々が続く。そして2002年、夫とともに上海の地にやってきた。
今後の目標は? との問いに「ピアノソロだけのステージででも、観客を最後まで魅了できる演奏がしたい」と答えてくれた。
ジャズピアニスト「YUKO」は、今もステップを上り続けている。


新井裕子さん
埼玉県出身。パワフルで歯切れの良い演奏に定評がある。目下の目標は、静かで流れるような旋律を弾きこなすこと。
「Jz Club」で毎週月曜日に出演中。

言葉を音楽に変えて


サックス
【アレック・ハーヴィック】

「様々な吹き方を駆使して、曲に併せて音でたくさんのキャラクターを作るんだ。まるで映画を見ているような気分になると思うよ」。サックスプレイヤーのアレック・ハーヴィックさんは、自身の演奏をこう語る。
以前はトロンボーンに打ち込んでいたハーヴィックさん。その実力は、16歳のときに大きなコンクールに出場するほどの腕前だった。そんな彼に、ターニングポイントが訪れたのは19歳のときだ。
ふと気が付くと、ジョン・コルトレーンをはじめ、好きなミュージシャンはサックスプレーヤーばかりだった。19歳の彼をサックスに向かわせるには、それだけで充分だった。
かくして、トロンボーンからサックスへと転身を遂げたハーヴィックさん。しかし、トロンボーンで培った自信と、その一方で19歳という年齢でゼロから楽器を教わることへの抵抗から、あくまでも独学に徹した。しかしそれから約2年後に、彼をプロのサックス奏者へと導くある人物に出会うことになる。
それが、当時ボストンでサックスの教鞭を執っていたケネス・ラドノフスキー氏だ。師を仰ぎ、改めて基礎から学び直す。そして音楽学校へ入学。ジャズマスターの学位までも手にした。そして、自分のバンドを結成し、各地で演奏を行うようになる。
そんな折、ふらりと立ち寄った中国台湾で、もともと大学で中国語を学んでいた彼の中国語熱が再燃。そして留学を決意する。それが、さらなるチャンスへと繋がった。学業の傍ら演奏する日々が続いてたある日、上海で音楽バーを経営している人物に、上海に来ないか? と誘われたのだ。そして2005年、上海の地を踏んだ。
以来、市内はもちろん、北京や南京など各都市にも足を運ぶ多忙な毎日を送っている。
様々な地を渡り、チャンスに繋げて来た彼。次に目指す新天地はどこになるのだろう。

◇ ◇ ◇

Alec Haavikさん
アメリカ・インディアナ州で生まれ、幼少期にカナディキットへ転居。バンド結成後に作曲した数々のオリジナル楽曲が評判となる。今後は、中国に生きる今を音楽に表現していきたいと語る。

ベース
【EJ・パーカー】

自分の身長よりも大きな楽器を操り、観客の体の芯に届く重低音を響かせる。そんなベースに魅了され、ベーシストの道を選んだEJ・パーカーさん。
彼がジャズに目覚めたのは14歳のときだ。きっかけは、モダンジャズ・ベーシストのレイ・ブラウンだった。
「それまでは、ニルバーナとかを良く聞いていて、ロックが大好きだったんだ。それが、14歳の時聞いたレイ・ブラウンで一遍したよ。ジャズに惚れ込んだと言っても良いかもしれない。聞けば聞くほどハマってね。どうしても自分で演奏したくなったんだ」
それまで8年に渡りトランペットを吹いていた彼が、ベースに転身するのは、決して簡単なことではなかった。
「とにかく指先が痛い。弦が硬くてどうしようもなかったよ。でも、それでもベースを弾きたい気持ちは全然変わらなくて、痛いのを我慢して練習に打ち込んだんだ」
当時を振り返り、指先をさすりながらそう話す。そのときから今も変わらずこだわっているのは、一定のリズムを正確に保つ技術「タイム・キープ」と、重低音でありながら重く感じさせない軽いリズム感だ。
いつしか仲間と共にバンドを組み、あちこちで演奏活動を展開するようになった。しばらくそんな日が続いたある日、上海から出演依頼が届いた。2004年のことだ。仲間4人と共に上海を訪れ、それから契約期間の3カ月間、上海でのミュージシャン活動を存分に楽しんだ。「南アフリカやヨーロッパなど各国からミュージシャンが集まっていて、その中で共に演奏出来ることが最高だった」と、上海の魅力を語る。
そして一度はアメリカに戻ったものの、2005年に再び上海の地に足を踏み入れた。
目下の目標は、「自分の名前でCDを出すこと」と話すパーカーさん。いつになるかは、まだわからないけどね、と肩をすくめて笑った。

◇ ◇ ◇

EJ・Parkerさん
アメリカ・オハイオ・クリーブランド州出身。現在もミシガン時代のバンドメンバー数人と上海で演奏する。「Jz Club」なら月・木・土・日に出演中。

私たちはこう楽しんでます!

外国人客も多く、ここが上海であることを忘れさせてくれるジャズバー。そんなジャズバーの楽しみ方や思い出のエピソードを、実際バーに通っているファンに直撃インタビューしてみた!


Stefania(25歳、無職、国籍イタリア)

ジャズバーには1カ月に1回くらいは行くわ。それも盛り上がる金曜・土曜に! ジャズバーの、エレガントだけどリラックスもできるところが気に入ってるの。上海でだったら「JZ CLUB」や「COTTON CLUB」が好きよ。


Oleg Roschin(31歳、小学校教師、国籍イスラエル)

ジャズにはセクシーな雰囲気を感じるよ。あと、即興でのセッションとか、そのとき1回きりしか聴けない演奏があるじゃない? だから聴き手ひとりひとりによって受ける印象も違うしさ。そういうとこが僕は大好きなんだ。


Elogie(24歳、会計、国籍フランス)

ジャズバーに初めて来たとき、「1920年代のニューヨークみたい!」って思ったの。そういうイメージを湧かさせるものが、ジャズバーの雰囲気にはあると思うわ。そこが好き。ここなら友達とリラックスして過ごせるの。


Larry(26歳、貿易業、国籍アメリカ)
Vastine(46歳、サックス奏者、国籍アメリカ)

正直昔はジャズなんて興味無かったんだけどさ、去年の誕生日に友達がジャズバーでパーティーを開いてくれたんだ! それからは毎週ジャズバーに通ってるよ。今日も友達と歌を聞きに来てるんだ。となりのこいつは聴くだけじゃなくって実際に舞台でサックスもやってるんだぜ。(Larry)

 ジャズバー基本のキ


ますます盛り上がる、上海のジャズミュージックシーン。未体験の人も、この秋はジャズバーに足を運んでみよう!

【行く前に…】

まず気になるのが服装。「JZ CLUB」や「Cotton CLUB」ならラフな格好でOK。「CJW」など新天地内にある場合は、デニムにTシャツよりもほんの少しだけドレスアップして出掛けよう。
【何時に出掛けよう?】

バンドの演奏開始時間は、市内のジャズバーの場合概ね21時半や22時。ただし、日によってゲストライブがあったりするため、演奏開始時間は事前に問い合わせるのが無難。

【到着】

入場料は基本的に必要ない(※)。ドリンクの価格相場は1杯40元~。ドリンク1杯で最後まで聞くことももちろん可能だ。
※有名バンドが出演する日など、特定の曜日に入場料が発生するケースも。
【演奏の合間に…】

さっきまでステージ上で演奏していたミュージシャンたちが、すぐ横に腰掛け来店客と雑談する姿も珍しくない。そんな気さくさがバーの醍醐味だ。お気に入りのミュージシャンがいたらぜひ声をかけてみよう。

 ジャピオンのおすすめジャズバー


【JZ Club】

復興西路46号(×永福路)
TEL: 6431-0269
営業時間:00時~翌0時(●曜休み)
演奏開始時間:00時~
予算:00元~
チャージ:なし
URL:www.jzclub.cn/
毎週土曜には、JZオールスターズとも言えるメンバーによる「Big Band」が演奏する。非常に込み合うが、それだけ活気ある雰囲気を味わえる。

【Cotton CLUB】

淮海中路1416号(×復興西路)
TEL: 6437-7110
営業時間:00時~翌0時(月曜休み)
演奏開始時間:(火~木)21時半~、(金土)22時~
予算:45元~
チャージ:なし
URL:www.jzclub.cn/
気さくでアットホームな印象のジャズバー。月曜日は定休日なので注意しよう。金曜と土曜の夜は、人気バンドが出演する。

【Cigar Jazz Wine】

興業路123弄新天地広場南里2号楼単元4
TEL: 6385-6677
営業時間:11時~翌2時
演奏開始:21時~
予算:(月~金)60元~、(土日)100元~
チャージ:なし
通称「CJW」。オープンカフェスタイルのジャズバー。タバコとワインにこだわった大人の粋な雰囲気が漂う。

~上海ジャピオン9月28日/10月5日発行号より

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