中国で農業と闘う日本人

中国で農業と闘う日本人


中国で美味しくて安全な野菜や果物を食べたい
その多くの人の願いが現実のものになろうとしている
中国農業を変えるために立ち上がった、3人の日本人に迫った

恩返し
「上海に来て19年になるけど、たくさんの中国人にお世話になってね。だから何か恩返しがしたかったんだよ」
工藤康則さん(54)は、有機野菜栽培農園「VE,GE,TA,BE」のオーナーだ。同農園は現在総面積約6万平方㍍。35名の中国人スタッフと共にベビーリーフを始めとした各種野菜を完全無農薬で栽培している。だが、元々農園経営を目指して上海に来たわけではない。実は、本業はアパレル工場の総経理だ。
 大きな農園とアパレル工場の総経理。輝かしい肩書きだが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。工藤さんは上海へ来て2年目、事業に1度失敗し、莫大な負債を抱えてしまう。そんな時助けてくれたのが、多くの中国の友人たちだった。彼らに助けられながら、工藤さんは負債を約7年で完済。苦しい時期を抜け、立て直しに成功した。
 事業も落ち着いた頃、周りでは、食の安全が心配されだしていた。そこで思いついたのが、完全無農薬のサラダ野菜栽培農園。中国には生野菜を食べる習慣がないため、工藤さんは上海へ来て以来ずっと家のベランダで自作していた。「いいものはどんどん分かち合わないと。日本も昔から恩恵を受けてきたんだから」。
 本格的な始動は2002年から。上海では初めてだったベビーリーフの栽培から始めた。その評判は口コミで広がり、現在市内の5つ星ホテルの9割が、ここで栽培された野菜を使用している。
 そして今、恩返しが新たな転機を向かえている。中国の真ん中にあたる、安徽省・鳳陽の町に未来循環型農村の建設を企画中なのだ。それは、農業だけでなく、街全体の活性化につながる一大プロジェクトだ。夢は同じ取組みを中国全土に広げること。工藤さんの恩返しは、中国の真ん真ん中から、未来に向けてさらに広がっていく。
VE,GE,TA,BE

【問い合わせ先】
5877-0097
【購入可能場所】
・ しんせん館
・ 美濃屋
・ ベジタベ本店(華山路)

 安全と美味しさを食卓に

2つの原点
古北の日系スーパー「美濃屋」に、こんな一言のついたかぼちゃが置かれている。
「私が作りました―」
 生産者は守田浩一さん(64)。市中心部から1時間半の浦東・川沙で、メロン、かぼちゃ、トマトの生産を手がける「光輪農芸」を営む。
 温室内には苗がずらりと茂り、そのひとつひとつに手書きの誕生日が記されている。「ここの野菜たちは、自分の子どもみたいなもんです」。こう話す顔は綻んでいるが、元々農業は嫌いだったという。
「実家は熊本の果樹園で、小さい頃は手伝うのが当たり前でした。でもいやでねぇ」
 それで実家を飛び出し、職を転々とした後、29歳の誕生日に再起をかけ上京。30歳で起業し、一財産を築くも、49歳の時に1度、全てを失う。
 どん底の中で迎えた50歳。守田さんは、海外で出直す決意をする。渡航先は中国。戦後の混乱期、満州に生まれ2歳までを過ごしたからだった。
 中国に来てからは合弁失敗など躓きながらも、事業を軌道にのせた。かつて離れた農業に再び携わるのは、8年後。
 「今一緒に農業やってる方さんと、日本の果物はおいしいよなぁって話しててね。2人で最高級のメロン作って、みんなをびっくりさせよう! って始めたんですよ」
 メロン栽培は素人だったが、地元熊本の農協や友人が協力してくれた。最初は毎日日本に電話をして相談したという。
 作り始めて3年目、ようやく納得のいくメロンができた。品評会にだしたところ、大好評。守田さんは、上海は高品質を求めていると確信する。
 かぼちゃの栽培を始めるのはここから。京都で農業を営む妹が送ってくれたかぼちゃの種を植えてみると、思った以上に上海の気候になじみ、たくさんの実がついた。熊本県人会の協力で、卸ろし先も見つかった。
 最初3本だったハウスは、6年目を迎えた今、8倍の24本だ。原点の中国で、原点の農業を。守田さんの農園は、今日も愛情に満ち満ちている。

光輪農芸
【問い合わせ先】
TEL: 137-6499-7437
【購入可能場所】
・ 美濃屋
・ シャロン(ガーデンプラザ店)
・ 友誼商城
※現在、各店とも好評につき品切れ中。11月末収穫分より販売再開。メロンは12月より販売開始。


導き
 まるで、何かに導かれているようだ。
 2005年、若干34歳の兀下(はげした)敏幸さんは、アサヒビールなどが山東省に総工費15億円をかけて建設した農園「朝日緑源」の、部門責任者に抜擢された。「これほど大規模な農園を、自分が管理できるなんてまたとない経験だと思いますね。本当にありがたいですよ」
 普通のサラリーマン家庭に育った兀下さんが、農業への道を歩み始めたのは18歳のとき。将来は農業に携われればと漠然と考え、農学部へ進学するも、時代は就職氷河期真っ只中だった。そんな折、電車の中吊りで青年海外協力隊のポスターを見かけ、説明会に参加した。
 話はトントン拍子でまとまり、派遣された先はネパール。
地元にどっぷり溶け込み、果樹栽培の指導などで、派遣期間の3年はあっという間に過ぎた。そして2002年に帰国。農業法人に就職したが、また、ネパール行きの機会が巡ってきた。そして、再びネパールで3年。ネパール漬けの20代だった。
 再び農業法人に戻り、今後の人生を思案していたところ、現在のプロジェクトの話が舞い込む。チャンスがあればと応募してみたところ、運命は兀下さんに微笑んだ。
担当部署は苺部門。果樹栽培の経験はあったが、苺は初めて。渡航前の研修期間中、必死に勉強し、2006年、現地入りした。
 「びっくりしました。田舎だって聞いてたのに、電気も通ってて各家庭にテレビがあるんですよ。ネパールじゃ考えられない(笑)」。想像していた中国とは違う世界、それは嬉しい誤算だった。一緒に仕事をする現地スタッフにしても同じだ。「みんな思った以上に非常によく頑張ってくれるんです。僕がどうこうより、彼らの性格がいいんですよ」
 兀下さんの作った苺が、上海に到着するのも間もなくだ。今は、12月の出荷に向け、仲間とともに、毎日奮闘中だ。
 「当たり前なことをひとつずつ」。そうして、兀下さんの前には道ができていく。

朝日緑源
【問い合わせ先】
138-5329-9207(井筒)
【購入可能場所】
・ 久光百貨
・ ベジタベ本店(華山路)
※上記変更の可能性有り。苺の販売は12月を予定

土いじりのススメ


家庭菜園のススメ
家庭菜園は、案外気軽に始められる。以前はプランターや土という基本用品さえ手に入りにくかったようだが、最近はこうしたガーデニング用品の種類も増加傾向にあり、より始めやすい環境が整ってきた。ベランダや窓際で作った野菜が食卓にのぼる、その感動を味わおう!
 例えばハーブ。外資系スーパーなどで、1パック10元前後で販売されているが、1回の料理に使う量は少ない。家庭で栽培しておけば、必要な量を少し積むだけ。ハーブは比較的乾燥を好むため、上海での栽培に適している。室内が乾燥しがちなこれからの季節には育てやすい。
 こういったハーブなど、窓際菜園に必要なガーデニング用品は、市内各地の大きな花市場で手に入る。中山公園駅から徒歩15分ほどの場所にある「曹家渡花市場」なら、基本的な必要グッズは一通り揃う。特に、2番入り口から入って一番奥のG11号店はガーデニンググッズが充実。各種野菜の種や、野菜栽培専用の土、スコップにじょうろ、さらに鍬といった本格的な道具まで扱っている。ハーブなら、1番入り口から入って奥にあるG11号店の品揃えが豊富だ。ガーデニング経験者は、種から挑戦してみるのもいいだろう。
 また、変わったところでは、VE,GE,TA,BEの工藤さんが、現在家庭用水耕栽培機を試作中。上海でメジャー商品となる日が楽しみだ。
写真は窓際におけるサイズのハーブの鉢植え


農業体験のススメ
実は、今上海市民の間では、農業が密かに流行している。旅行社などは「田園生態日帰りツアー」、「特色農家1泊2日」などの農業体験ツアーを実施しており、奉賢区にある観光農園には、週末になると何台ものバスがやってくる。
 日本人向けのツアーは今のところないようだが、前述の工藤さんや守田さんも、今後農園体験を展開していく方針。 
 いつかは自分の農地を…。上海で、その夢が叶うかもしれない。
写真は工藤さんが開発した家庭用水耕栽培機(試作)

~上海ジャピオン10月26日発行号より

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