国慶節は旅に出よう!-後編-

 上海から日本へ。実家に帰るのもいいけれど、たまにはその軌道をちょっとだけずらして違う町へ…。今回旅の目的地となったのは、いずれも上海から直行便で行ける場所。初めてでもなぜか懐かしさを覚える、そんなノスタルジックな風景を尋ねて上海を後にした。たどり着いた先には、知らなかった〝日本″の風景が広がっていた――

坂道と文学の街

尾道市

 

 広島空港に降り立つと、澄んだ夜空に星が燦々と輝いている。バスでその日の内に尾道に行くこともできたが、僕はあえて広島市に向かった。翌日列車で尾道に行きたかったからだ。かつて作家・林芙美子が見て感じたモノを追体験するために――。

翌日、日本に着いた安心感から朝寝坊し、昼前に何とか広島駅から尾道行き列車に飛び乗った。列車で揺られること80分、海が見えてきた。「海が見えた。海が見える。五年振りに見る尾道の海はなつかしい」と林芙美子が『放浪記』の中で記した、まさにその風景を見ているのだ。陽光が海面を照らし、キラキラと輝く。窓を開けると、ザラリとした潮風が肌をぶち、潮騒と礒の香りが体を包み込む。僕はそこに日本を感じた。
 尾道駅に着くとお腹が鳴った。あっさりした醤油味の「尾道ラーメン」を食べ、旅の友たるお酒も購入し、準備万端で山の上にある千光寺に向かうことにした。たったの2、3㌔、腹ごなしに丁度良いと思い意気揚揚と歩き始めたが、尾道の道は路地裏かと見間違うほど狭く、しかも坂道。ロープウェーを使えば良かったかと、レトロなゴンドラを恨めしく見上げるが後の祭り。そんな僕の様子を、2匹の猫が民家の石垣の上から物憂げに見ていた。しばらくして僕に関心がなくなったのか、あくびをひとつ。こちらもつられて大あくび。疲れが少し和らいだ。
 やっとの思いで坂道を登りきり、千光寺に着いた。山肌にせり出す朱塗りの本堂は京都の清水寺みたいで、ちょっと足がすくむ。
 お寺から更に高みの展望台へ。標高約130㍍の展望台から志賀直哉も眺めし尾道水道が広がる。駅で買ったワンカップ酒を取り出し、尾道の絶景に対して乾杯。行き交う船がボーっと汽笛でそれに応えてくれた。狭くて長い尾道水道を船がいくつも往来する様子を眺め、地元の人とおしゃべりをしていると、いつの間にか夜の帳がゆっくりと下り、街の明かりがポツポツとつき始めた。民家の暖かい光が奏でる夜景はいつまで見ていても飽きないものだ。
 日も暮れ、帰りにまた千光寺に立ち寄ると、境内でベレー帽をかぶったおじいさんが絵を描いているのを見つける。ここは果たして芸術・文化の町だ。近づいて覗き込むと、眼前の尾道水道と家々の風景がキャンバスに収められていた。「僕もその風景の中に入れてもらえますか?」と冗談っぽくお願いすると、おじいさんは笑いながら「もうここに居るよ」と小さな黒い人影を指差す。僕はこうして尾道の一部になったのだった――。


概要・アクセス
尾道は広島県の南東部に位置する。古くから海運によって栄え、海産物の集散地として繁栄した。平地が少なく、山肌に住宅や寺が密集していることから「坂の街」と呼ばれる。上海からはまず広島空港へ。片道1時間40分、往復約3800元。そこからリムジンバスで高坂バスセンターへ行き、同バスセンターからバスで尾道に。片道約1時間半、往復2200円。広島駅から電車で片道約1時間半、往復2900円。

温泉で見る日本海の夕日

村上市

 


 飛行機の窓の外に力強く波打つ日本海が近づいて来る。まもなく着陸。ゲートを出た僕は、新潟空港で母と合流し、村上の瀬波温泉行きの乗合いタクシーに乗った。国慶節を利用して、久しぶりに日本にいる母と温泉旅行だ。

 日本海沿いを約1時間半ひた走る。その間、母は「上海は危なくないかい?」「ご飯はちゃんと食べているの?」と僕を質問攻めにする。鬱陶しい気持ちが半分、嬉しい気持ちが半分。
波打ち際が迫った頃、車は道の細い温泉街の宿の前に止まった。部屋に通されると、窓から夕映えの日本海が見える。今が一番綺麗な時だ。僕と母は、それぞれ露天風呂に向かう。日本海の水平線に伸びる茜色の光。波の動きに合わせ、ゆらゆら揺れている。肩まで温泉に浸かりながらぼんやりとそれを眺めているだけで、疲れがお湯に溶けていくようだ。
 「いい湯だったね」。2人が湯浴みを終えると、夕食の声がかかった。コシヒカリとズワイガニの炊き込み釜飯、日本海でとれた鮮魚の刺し身、地元村上牛の鉄板焼き、そして地酒。こんなご馳走は久しぶりだ。僕は地酒を呑みながら、母に上海の話を始めた。

その他の観光名所
村上城跡は通称〝お城山〟と呼ばれており、市内を一望できるスポット。秋は紅葉も楽しめる。このほか、海でありながら沖の岩間を潮流が流れる「笹川流れ」も県下有数の海岸景勝地として知られ、遊覧船も運航している。食べ物では、「三面川の鮭」や「村上牛」が有名。


概要・アクセス
村上市は、新潟県北部に位置する古い城下町。海岸線には「瀬波温泉」の旅館が立ち並び、日本海に沈む夕日を見られるスポットとして知られる。今年7月には、「恋人の聖地」にも認定された。上海から新潟は、片道約2時間半、往復約5,000元。新潟から村上は、「新潟エアポートランナーむらかみ」(要予約)で片道約75分、2500円。

運河の街

小樽市

 


 秋の香り漂う新千歳空港には、昼に到着した。国慶節は妻と2人で30年ぶりに、新婚旅行の地・小樽で過ごすことにしたのだ。
 空港から、小樽へは函館本線で行く。小樽駅到着直前の約15分、石狩湾すれすれを走り抜けるのが楽しみだ。列車は北の海風を浴びながら走り、駅舎に滑り込んだ。

 旅館に挨拶をし、早速散策へ。小樽運河沿いには、煉瓦造りや札幌軟石造りの倉庫群が、昔と変わらず立ち並び、所どころ紅や黄に色づいた蔦が絡まっている。妻に「手でも繋ぐか」と声をかけると、年柄にもないと言いながら控えめに繋いできた。倉庫を改装した土産屋なんかを見歩いていたら、いつしかガス灯が灯りだし、外もかなり冷えてきた。そろそろ晩飯にしようと、予約しておいた寿司屋に行くことにする。
 創業昭和8年の老舗「千成」の暖簾のはためきが見えた。妻は覚えているだろうか、前にも訪れた店だ。大将に、旬のお薦めはと尋ねる。「生秋刀魚がなまら旨いですよ」との答えに、まずは、秋刀魚握りを注文。妻にどうだ、と聞く。「相変わらず、美味しい」との答えに、思わず顔が綻んだ。

その他の観光名所
歴史的建造物や、古い建物を利用した店舗が多く、日本最大のオルゴール専門店「小樽オルゴール堂」、硝子工芸品やランプなど3000点を揃えた「北一硝子3号館」は代表スポット。また、積丹半島の根元に位置するため、透き通るようなブルーの海で有名な神威岬も日帰り圏内。同方面には、ステンドグラスの美しいニッカウヰスキーの工場も。


概要・アクセス
坂の多い港町。駅舎を出ると、下り坂の向こうに石狩湾が広がるのが見える。10月に入ると、気温はぐっと冷え込み、朝晩は一桁台になる。紅葉は10月初旬~11月中旬。上海からは、直行便で新千歳空港まで片道3時間半、往復約3500元。空港から小樽へは、函館本線で約1時間半、1740円。車で60分。

家族のような民宿で

竹富島



 上海から飛び立って2時間。那覇国際空港の着陸が目前に迫る機内でふと窓に目をやると、くっきりと濃い入道雲の隙間から、透き通るエメラルド色の海が見えた。海はより青く、雲はより白い。パキッとしたそのコントラストに、ギラギラと照りつける太陽が良く似合っていた。

 那覇空港から国内線に乗り換えてまず向かったのは、八重山諸島の石垣島。そこから船に乗って竹富島を目指す。紺碧の海を眼下に追いつつ、潮の香りを含んだ海風を頬に浴びる。時折、トビウオが一瞬波間に現れては消えて行く。そして15分、あっと言う間に竹富島に着岸した。島に降り立つと、予約していた民宿のマイクロバスが迎えに来ていた。「だいじょーぶねぇ? 酔ってないねぇ?」。ニコニコと屈託のない笑顔を見せるそのおじさんの肌は、良く日に焼けていた。彼の放つ空気感になぜか不思議な安堵感を覚えつつ、僕らは一路民宿を目指した。少し型の古いそのマイクロバスの窓の向こう側では、浜の砂でできた真っ白な道、ゴツゴツとした石が積み上げられた塀、赤瓦の家屋、そして赤や紫のブーゲンビリアが次々と通り抜けていく。
 宿に荷物を預けるや、僕は早速ビーチに向かった。近くで見る海は、まるで内側から発光しているかのように内側から輝いている。どこまでもクリアで、ふくらはぎが浸かるくらいまで海に入ると、立ったままでも海中を泳ぐ小さな青い魚、ルリスズメダイが良く見えた。浜に腰を下ろし、波の音を聞きながら良く冷えたオリオンビールを飲む。今日の予定は特にない。時間を気にせずただ浜でゆっくり過ごすだけ。そうこうしていただあっという間に空が赤く染まってきたので、暗くなる前に民宿へと急いだ。
 そんな僕を待っていたのは、ゴーヤーならぬ麩を使った「フーチャンプルー」や、「ジューシー」と呼ばれる炊き込みご飯。そして初めて見る「もずくの天ぷら」などの家庭料理の数々。他の宿泊客らも続々と戻り、みんなで一緒に食事を取った。沖縄の天然塩「島マース」が決め手だというその料理は、どれも箸が止まらぬほど旨かった。
 満腹になったその後は、みんなで酒盛りがスタート。おじさんが奏でるサンシンの音色を聞き、潮の香りを感じながら飲む泡盛のなんと旨いこと。それぞれの出身地の話しをしたり、くだらない話に盛り上がっていると、あっと言う間に酔いが回ってしまったようだ。丁度よい酔い加減に加え、上海からここまでの旅疲れで、僕は久しぶりにぐっすりと眠りについた。




概要・アクセス
石垣島の西約6kmの距離に浮かぶ、周囲約8㎞の小島。周囲をサンゴ礁に囲まれ、島には赤瓦の平屋が並ぶ。舗装されていない白い道や、時代を思わせる石積みの塀なども併せ、その景観は国の重要伝統保存地区に指定されている。上海からは、まず沖縄那覇国際空港へ。片道約2時間、往復約5,000元。さらに国内線に乗り換えて石垣島へ。片道約55分。往復約4万円。そこから、航路で竹富島へ。片道約10分。往復1,280円。

古きよき伝統文化の街

松山市

 


 夏目漱石の小説「坊っちゃん」に登場したレトロな列車に乗って、ゴトゴトと音をたてて走っていく。「左手に見えるのは松山城――」乗務員の案内を聞きながら、木調の少し狭い車内で、時間が穏やかに昔に戻って行くような気がした。  

 松山市駅からその「坊っちゃん列車」に乗って約20分、道後温泉駅で降りた。まずは歩いて「道後ぎやまんの庭」へ。ここは昔ながらの和ガラス「ぎやまん」を展示している美術館。ほの暗い灯りの館内で、繊細なガラス細工が一つひとつ浮かび上がる――。初めて見るのに、なんだか素朴で懐かしい感じがした。見とれていると、いつの間にか日は暮れていた。
 幻想的な雰囲気に酔いながら、白鷺坂を下りて行く。道後のシンボル・道後温泉本館に着くと、屋上の振鷺閣には、100年前にはめ込まれた赤いぎやまんが輝いていた。この明治の文豪たちも愛したという趣たっぷりの名湯で日頃の疲れもすっかり癒されたた。
 体も心もすっかり暖まって、私は予約していたすぐそばの宿に向かった。明治の人々が初めて振鷺閣を目にした当時の様子に思いを馳せながら――。

その他の観光名所
優れた名城として知られる標高132㍍の松山城は是非訪れたい。中でも境内の天守閣からは市内だけでなく、遠くは瀬戸内海、石鎚の山々まで一望できる。また、旧松山藩主の別邸として有名な仏式の洋館、萬翠荘では大正ロマンを満喫したい。道後温泉駅前の広場・放生園では、愛らしいカラクリ時計のそばで明治時代の湯釜を利用した足湯が楽しめる。


概要・アクセス
松山市は四国一の人口を有し、愛媛県の県庁所在地。日本最古の温泉と言われる道後温泉をはじめ、松山城、伊予絣などが有名で、「国際観光温泉文化都市」に指定されている。俳人正岡子規ゆかりの町であり、小説「坊っちゃん」、「坂の上の雲」や俳句で知られる文学の街でもある。上海からは、松山空港まで、片道約1時間40分、往復約5000元。空港リムジンバスで松山市駅までは片道約20分、道後温泉駅までは片道約40分。往復900円。

伝統芸能の調べ

長崎市

 


 400年近くも継承されているという長崎の大祭「長崎くんち」を一目観ようと、開催日前日となった10月6日、私は上海を飛び立った。長崎空港から市内へと向かうバスの車窓からは、祭りに向けて街が一丸となっている様子がありありと伝わってきた。

 到着翌日の10月7日。3日間続く祭りの初日(前日)となるこの日、街はお祭りムードに沸きかえっていた。火薬の匂い、太鼓や笛の音。幼い頃に、親に手を引かれ回った地元の祭りを思い出す。
 旅館を出ようとすると、旅館の人がメイン会場は込むからミニ奉納踊りの「庭先回り」を探すといいという。ご祝儀を出した家への、お礼参り的なものだそうだ。道路に殴り書きされたチョークを頼りに、踊りの跡を追いかける。
 ふと太鼓の音が耳に届いた。歓声も聞こえる。足早にその方向へ向かうと、いた。「蛇踊(じゃおどり)」だ。長さ10㍍はあるかと思われる龍のハリボテを、祭男たちが上下左右に振り勇壮果敢に駆け回る。その様子を、子どもも大人も老人も地域総出で食い入るように見守る。
 私はそこに、長崎の歴史や人々の想いが凝縮されているのを感じ、胸が熱くなった――。

その他の観光名所
「長崎くんち」は、毎年10月7日~9日に開催される諏訪神社への奉納祭。国の重要無形民俗文化財に指定されている。名物である蛇踊のほか、「太鼓山(コッコデショ)」などが有名。踊町は毎年変わるため、7年に1度しか見られない出し物もある。長崎市は、鎖国時代に対外貿易港だったため、出島やオランダ坂など異国情緒溢れる名所も多数。


概要・アクセス
長崎市の形状は、全国的にも珍しい「すり鉢型」。市の中心部は三方を山に囲まれ、住宅の多くは斜面に立つ。そのため坂道が多く、坂の町と呼ばれることも多い。上海からは、長崎空港へは片道約1時間半、往復約2500元(税抜)。空港から長崎市内へは空港バスで片道約1時間、1200円(2枚綴り)。市内の移動は路面電車が便利。


開業以来初となる日本ツアーへの依頼、喜んでお受け致します。樹齢7千年の縄文杉の茂る屋久島。『もののけ姫』の舞台のモデルとの説も。憧れますよね。
日本までは飛行機を使うと即予算オーバーですので、フェリーで。上海―大阪を繋ぐ「蘇州号」や「新鑑真号」を利用すれば…、あれダメだ、予算オーバーだコレ。やはり2000元だと…今回は力になれず申し――。
あーっ! ちょっと待ってお客様、電話切らないで! たった今いいルート、見つけました。青島―下関を結ぶフェリーを使い、そこからバス&電車で九州を縦断、屋久島へ至る旅です。屋久島に着くのは、出発の5日目の朝ですが、宜しいですか?
まず青島までは硬座21時間。到着は2日目の午前10時半頃で、フェリーの乗船は夜なので、その日は半日、青島観光できますよ。といっても予算上観光費は1銭も出せません。
 3日目は1日船上でゆっくり。これは忠告ですが、提供される朝食だけは食べ忘れないように! なぜなら今回の旅は食費が合計3元のみ。これを逃がすと真面目に死活問題です。
4日目は、下関から薩摩半島の谷山港へ至る移動日です。何気にスケジュールがシビアなので物見遊山はできません。まさに貧乏暇なしの1日ですね。…はい、失言でした。すみません。
では、ご希望のプランの行程表をFAXでお送りいたします。ちなみに片道分しかご用意できなかったのですが、問題ございませんよねっ!?

~ジャピオン8月22日発行号より

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