飲茶は茶がメイン ベストはプーアル茶
広東省発祥で、今や日本でも馴染みの深い「飲茶(ヤムチャ)」。元々は漢字が示す通り、茶がメインで「一盅両件(いっちゅうりょうけん)」…言わば〝一杯の茶で二品の点心(テンシン)を楽しむ〟ことをマナーとしていた。しかし今では、蒸籠(せいろ)に入った点心をズラーッと並べて食べるのが主流となっている。
とは言っても、やはり茶は欠かせない。中国茶はジャスミン茶や菊花茶、龍井茶…と、種類は多いが、飲茶としていただくなら普洱(プーアル)茶がベストだ。プーアル茶には脂肪を落とす働きがあり、濃い味付けで脂質と炭水化物が多くなりがちな点心にはうってつけなのだ。漫画『ドラゴンボール』に登場するキャラクター「ヤムチャ」の相方が「ウーロン」ではなく「プーアル」なのも、こういった理由から…なのかも知れない。
茶のおかわりをしたい時は、直接店員を呼ぶか、急須のフタをズラして置くことで「湯を注ぎ足してほしい」という合図になる。湯を足してもらったら、人差し指1本か、人差し指と中指2本で机を軽くトントンと叩くのがマナーだ。詳しくは過去の特集記事「知っ得!? BODY LANGUAGE」を参照してほしい。
食器は主に碗を使用 注文はオーダーシートで
席に着いたら、テーブルにはすでに食器が用意されている。皿と碗があるが、点心を食べる時は碗を使うのが一般的。昔は、箸や茶碗を湯で洗う「洗杯」という習慣もあったが、今では省略されることも多い。細かいマナーは気にせず〝気軽に楽しむ〟のが、現在の飲茶のコンセプトなのだ。
そして、いよいよ注文。主に、店員から渡されるオーダーシートを使う。点心の多くは1皿3個もしくは4個入りで、少しずつたくさんの種類を食べられるのが魅力。店によっては人数に合わせて出してくれるサービスもある。
オーダーシートには、料理名のみ記載されており、日本語はもちろん料理写真さえ付いてないところが多い。どういう料理か分からないため、結局いつも同じメニューしか頼めない…なんていう人も少なくないのでは?
そこで次ページからは、日本人にとって馴染みのない名前だが、代表的な飲茶メニューの一部をジャンルごとに紹介していこう。
「小籠包(ショーロンポー)」を始め「焼賣(シューマイ)」、「叉焼包(チャーシュー饅頭)」、「春巻(春巻き)」など多くの代表メニューがこのジャンルに分類される。それだけに定番のものをオーダーしがちなのではないだろうか。たまには、いつもと違う味を楽しんでみては?
①咸水角(揚げ餅団子)
漢字から想像するのは、ほぼ不可能。ピロシキを尖らせたようなその形状から、末尾に「角」が付けられたと言う。日本語訳に「餅団子」と表しているので中はアズキかと思いきや、シイタケやニラが飛び出し、びっくり仰天。揚げた表面はほんのり甘く、クセになる。中はアツアツなので、食べる時は注意が必要。
②腐皮巻(湯葉春巻き)
字面だけ見れば、腐った皮で何かを巻くなどとんでもない! と感じるが、登場するのはフワッとした湯葉の春巻き。中には豚の挽き肉やエビなどの海鮮が入っている。
③潮州蒸粉果(潮州風蒸し餃子)
粉の果実とは何ぞや…と考え込むことなかれ。末尾に「粉果」と付けば、それは大抵蒸し餃子のことである。広東省にある都市・潮州の名前を冠したこの餃子、干しエビや野菜を歯応えのある皮で包んでいる。
④流沙包(カスタード風の餡饅頭)
中の餡は、塩漬けの卵と牛脂、砂糖を混ぜて作られている。デザート感覚で味わえる甘さとザラッとした食感が特徴で、「奶黄包(カスタード饅頭)」とよく似ている。一時期は飲茶界から絶滅しかけたが、2000年頃には再び人気を取り戻した。
炭水化物が多くなりがちな点心の中で、栄養バランスを整えられるのが、このおかず類。しかし、あまり馴染みのないメニューが多く並ぶのもこのカテゴリーだ。定番は「豉汁蒸鳳爪(鶏足のスペアリブ)」だが、ほかにもおいしい料理が盛りだくさん。これらを把握しておけば、怖いものなし。
①腸粉(米粉の蒸し巻き)
決して何かの腸が粉状で入っているわけではないので、心配無用。米の粉から作ったプリプリッとした皮で、エビやチャーシューなどを巻いて蒸したものだ。メニューの頭に具の名前が付き、エビ入りは「鮮蝦腸粉」、チャーシュー入りは「叉焼腸粉」といった具合になる。醤油ダレを付けて食べるのが一般的。
②蘿卜糕(大根モチ)
「蘿卜」は中国語で大根の意。末尾の「糕」の文字で、モチのような形状の料理だと考えてよいだろう。「糕」はデザート系のメニューにも付くことが多い。
③牛百葉(牛の胃袋)
まず、小学校の校庭にあった百葉箱(ひゃくようばこ)を思い出してみよう。この名称は、箱の側面の様子が牛の胃袋に似ていることから付けられたのだ。ニンニク風味でコリコリとした歯ごたえが、食欲をそそる一品。
④抄手(ピリ辛ワンタン)
「鳳爪(鶏足料理)」と異なり、何かの手や足が入っているわけではないので安心を。中は至って普通の豚挽き肉だ。香菜(パクチー)入りの場合も多く、元々は四川料理である。ピリ辛味が、甘い点心も多い飲茶の中で、箸休め的な働きをする。
飲茶と言えば、やはりデザート類を忘れてはいけない。「蛋撻(エッグタルト)」や「芒果布丁(マンゴープリン)」以外にも、試してみたいメニューが勢揃い。点心をたらふく食べた後も、〝甘いものは別腹〟精神で、最後まで飲茶を味わい尽くそう。
①西米露(タピオカ入りココナッツミルク)
万人受けする定番メニューの1つ。「西米」は中国語でタピオカを指す。脂っこい点心を食べ終わった口の中をまろやかなココナッツミルクでやさしく包めば、ホッと一息つけること請け合い。タピオカのプチプチとした食感も楽しい。
②楊汁甘露(柑橘入りマンゴーミルク)
こちらも定番中の定番。日本語で甘露(かんろ)は甘い液体を指すが、楊汁が付くと甘いだけではなく爽やかさが加わる。西米露と同じタピオカ、ココナッツミルクのほかに、マンゴーやグレープフルーツなどが入っており、甘いながらもサッパリした後味だ。
③杏仁雪蛤球(アーモンド団子)
「雪蛤」は、カエルの子宮周りの脂肪…ぎょえ~っ! と声を上げたくなる人もいるだろうが、実はツバメの巣に負けず劣らずの高級食材なのだ。さらに美肌効果にも優れているので、女性にオススメ。癖のある匂いなどもなく、とろんとしたやさしい食感。
④酥皮美人腰(さつまいもパイ)
サクサクッとしたパイの中には、サツマイモの餡がたっぷり詰まっている。名前に恥じないようパイの皮をポロポロ落とさず、美しく食べたいものだ。
~上海ジャピオン2017年2月24日発行号