「うちの子はこんなにいい子なのに、どうして貰い手がないの?」
そんな親世代の心の叫びを尻目に、上海の若者の平均初婚年齢はあがる一方
上海の親世代と結婚適齢期世代の婚前事情を探った
毎週週末が訪れると、人民広場には上海各地から40~50代後半と見られる男女が続々と集まる。お見合いのためだ。
といっても、彼らが探しているのは、自分の結婚相手ではなく我が子の伴侶。本人の代わりに両親が探すという不思議なお見合いの実情に迫った。
結婚相手は私に任せて
子どもに代わって探す親
炎天下となった土曜日の午後2時。人民広場5号門から中へ進むと、そこは一歩歩けば声のかかるお見合い地帯と化していた。ざっと200人は集っている。我が子の紹介カードを首から提げ、一声を待つ父親。花壇の縁に腰掛け品定めといった風の母親。写真や資料を見せ合い、正に交渉中の人も。こうして条件や気が合えば、その場で連絡先を交換する。結婚仲介業者も多く、会員集めに声をあげるスタッフや、数十枚はあろうかというお見合いリストを片手に、声をかけ周る人もいる。
ここで重要なのは「性別、年齢、身長、出身地、学歴、仕事、月収、性格」といった基本的な背景。例えば「女性、78年生まれ、外資系企業マネージャー、月収1万元」というバリバリのキャリアウーマンから「男性、月収4000元、75年生まれ、上海出身、性格は明るめ」まで様々。また、A4サイズの自己紹介シートをビニールにくるんで防水にし、木や茂みにかけられたものも何十枚とあり、両親の涙ぐましい努力が伝わってくる。年齢的には20代後半~30代半ばが大部分を占める。消極的な子どもを尻目に、親たちは必死だ。
結婚仲介業者も入り混じり、現場は肩がぶつかるほどの人口密度
我が子の同意も得て参加しているという女性は「ミンハン(人民広場まで約50㌔)から電動自転車で来たの。全然つらくないわよ!」と元気に話す。ただ、中には子どもに内緒で来ている親もいるとか。当人よりも厳しい親のメガネにかなえば、間違いはないということだろうか。
(右写真)こうした自己紹介カードが多くぶら下がる
親世代・若者世代の条件
女性の親なら「家あり、安定した仕事、高学歴」、男性の親なら「伝統的な女性、大学以上の学歴、できれば恋愛経験なし」と伝統的価値観に凝り固まる人が多い。しかし、若者の中には「家もお金も一緒に頑張ればいい」、「家庭の仕事も分担してやればよい」といった新しい価値観が広がりつつある。そのギャップに迫った。
親の要求天より高し?
結婚するには家がいる
親の見る目は当人の見る目よりも厳しい。若者が性格的な相性を重視するのに対し、親には考慮すべき様々な条件がある。
まずはなぜか身長。特に女性には160㌢以上を求める人が多く、男性なら170㌢以上との要求が目立つ。そして学歴。「息子の職場の子? 女の子はいるけど、学歴が釣り合わないのよね(推定40代女性)」と手厳しい。また、過去の恋愛経験も見逃せない。「恋愛経験は? 人数は? 1番長くつきあった人は? 同居経験は?(推定50代女性)」と、質問は矢継ぎ早に飛ぶ。今時の子は開放的だから…というため息も聞こえてくる。国は違えど、親の要求はどこも同じということか。さらに家庭背景や仕事状況を聞くことで、相手の台所事情を値踏みする。
これは、結婚時の必要資金に関わってくるためだ。上海の伝統的な結婚では、男性側の出費がかなり多い。その一番高いハードが、結婚にはまず家が必要、という条件だ。不動産価格高騰の影響を受けて、70平米~で今なら最低100万元はかかるこの条件は、かなり厳しいといっていい。さらに家具の準備や、日本で披露宴にあたる「喜酒」というパーティーも男性側が出資する。上海のホテルで喜酒を行えば、1テーブル3000~4000元だ。それに対し、女性の方でも嫁入り道具の準備が必要。男性側に比べれば微々たる出費だが、キッチン周りや寝室用品など購入した家に見合ったものを提供する経済力が求められる。中国では、結婚とは当人だけのことではなく、家と家の問題という意識が強い。中国語でお見合いを「相親(xiang1qing1)」というように、親の相性もまたお見合いにあたって重要な条件となる。
多様化する子ども側の条件
家がなくてもOKです
これに対し、若者の間ではお見合い相手に対する条件が多様化する傾向にある。それは、マーケティング会社、インフォブリッジの協力で、20~30代の上海の若者へ実施した調査からも見えてくる。相手に求める条件の上位には、男女共に「優しさ」、「価値観が合う」といった性格的な項目がランクイン。女性が男性に望むものとして、「経済力44%」といった結果もあるが、従来のような考え方一本槍ではなくなりつつある。
「家がなきゃムリ(25歳女性)」と声高に要求する人や、「家はやはり男性側が準備するべき(30歳男性)」といった伝統的価値観が残る一方で、「経済的な部分はふたりで頑張ればいい。祖父母も両親も、いい人ならそれでいいと言ってくれています(24歳女性)」という人もいる。さらに、上海の男性は一般的に料理、掃除、洗濯など全てこなすと言われるが、その点についても、男女共に「時代にあわない。ふたりとも仕事があれば、互いに協力するべき」との意見が増えている。
ところで、中国のお見合いは日本よりも少しその範囲が広い。両親や親戚からの紹介に加え、若者同士で自主的に紹介し合うスタイルも含まれる。十数回はお見合いをしたという30歳の上海人男性は、「仕事が忙しくて自分で探す余裕はないし、信頼できる友人からの紹介は貴重。基本的に受けるよ。ただ、フィーリングの合う人は中々いなくて…」と話す。また、日本で問題になりがちな両親との同居については、「基本的に別居。親も自分も自由でしょ」と独立心旺盛な声も多い。その理由には、「上海でも嫁姑問題があるんですよ(25歳女性)」という、お互いに煩わされたくないという背景もあるようだ。
多様化するお見合い観
友人通してお見合い結婚
「家ナシ」もお見合い対象に
約1年前に、お見合いから結婚に至った曹さん(26歳)。「紹介してもらったとき、彼は自分の家はもちろん、仕事までなかったんです(笑)」と、ご主人を隣にカラリと話す。
江蘇省南通市出身の曹さんは、ご主人の何さん(30歳)と、お見合いがきっかけで交際を始めた。仲人となったのは曹さんの顧客で、何さんの元同僚という共通の知り合いだった。
こうしたお見合いの際には、仲介人が双方に対してどんな人であるか(仕事、性格、学歴、見た目など)という紹介をある程度しておく。こうして双方の同意が得られたら、連絡先を伝え、当人同士で連絡を取り合ってもらうのが一般的。今なら、MSNメッセンジャーや、中国の若者に人気の「QQ」という、中国人向けチャットソフトなどでのおしゃべりから始めていくというのが基本的な流れ。
ただ、曹さんの場合は、一応何さんとの面識があったため、比較的早い段階で会うことになった。仕事さえない何さんだったが、曹さんはその点についてはさほど気にせず、かくしてお見合いは成立。それから約3年で結婚に至った。
「結婚するときはさすがに仕事はありましたが、やっぱり家はなくて」と苦笑い。さらに、「しかも喜酒の際、本来は新郎新婦は先に会場入りして各ゲストと写真を撮るのが普通なのに、ふたりして大遅刻。会場入りはその日集った人の中でラストでした」とおおらか。重ねて曹さんはいう。「普通なら、仕事がなければまずそこで会わないですよ。でも、これからは家が必須とかいった条件は、あまり重要じゃなくなっていくと思います」。幸せそうなふたりに、思わず頷いた。
左: 何さん(1978年生まれ、上海出身)、
右: 曹さん(1982年生まれ、江蘇省南通市出身)。
何さんの同僚の女性を通じて出会い、それから約3年で結婚。
現在は、何さんのご両親と同居中。目下の目標は、自分た
ちの家の購入だ。
お見合い熱ヒートアップ
市政府「1日2回まで」と規制
上海でのお見合い熱は経済の発展に寄り添うかのように、近年激しくヒートアップしている。05年頃に始まったといわれる前述の公園お見合いを始めに、06年頃には「観覧車お見合い」や、「クルージングお見合い」などの各種趣向を凝らしたお見合いが続々登場。同年、5000人の大規模なお見合いパーティーが開かれたかと思えば、次は1万人! という目標を掲げたお見合いパーティーも開催された。
そしてついには、「お金持ちがたくさん参加します」と謳って、参加費5万8800元(約90万円)という超高額料金を打ち出す結婚紹介業者も出現。こうなると、やはり悪徳業者が欲を出してくる。07年頃には、結婚紹介所を通して結婚相手を募集する人が詐欺にあうという事件が度々発生し、問題が表面化してきた。この事態を重く見た市政府は、結婚紹介所のクオリティを均一化するために、紹介所を通してのお見合いを希望する人に対し、「お見合いは1日2回まで」とする規制を設けた。同規則は08年1月1日から試行する運びとなり、こうしてお見合い熱には一旦規制の歯止めがかかった。
しかし、今年に入ってお見合いがなくなったわけではない。98年にスタートしたお見合い番組「相約星期六(土曜日はデート)」は、放映開始当時と変わらず高い視聴率をキープし続けており、5月には中国人女性と外国人男性とのお見合いパーティーというものもあった。
市政府による規制や、各紹介所のクオリティ向上、多様化するお見合いスタイルと、上海のお見合い事情を取り巻く状況は今後も変化していきそうだ。
~上海ジャピオン6月6日発行号より