アジアの観光スポット
夜市に魅せられる
夜市と聞くと、わくわくするという人は少なくない。タイにベトナム、マレーシア、インド…東南アジア圏のガイドブックには、必ずと言っていいほど夜市が掲載、紹介されている。もちろん中国も例外ではない。中でも、中国台湾の台北市、高雄市などのものは規模も大きく、世界中から観光客が集まり、賑わっている。その数、台北市だけで約20カ所にも上り、この街を訪れる外国人観光客の多くが訪れる。
「夜市」とは、夕方から営業を始め、深夜、店によっては朝方になるまで営業している露店が並ぶエリアをいう。売られているものは衣類にファッション雑貨、おもちゃ、家電、生活雑貨、アンティーク、そして「小吃」と呼ばれるスナックフード類。このフード類が、夜市の目玉だと言ってもいい。歩道上の椅子に座ったり、時には歩きながら、その土地ならではの味覚を楽しむ。食べながら、飲みながら、店のおじちゃんやおばちゃんとおしゃべりしながら、露店を冷やかし掘り出し物を探す。
日本では、近年、朝市が増えてきているが、アジア圏の夜市に近いのは、神社などで開かれる縁日の方だろうか。縁日でも、焼きそばや焼きイカ、クレープ、リンゴ飴などのフード類は人気だが、こうした露店が毎晩決まった場所に店を出していて、しかも扱っている商品の種類も豊富なうえ、ひと晩では回り切れないほど広いとしたら…? 男も女も老いも若きも、みんなが魅せられてしまうのも頷ける。
観光客に大人気、台北市の士林夜市
夜市の成り立ち
路上から屋内へ
日本の縁日は神社のお宮祭りが起源だが、中国の夜市は8世紀初頭、盛唐の時代に始まったとされる。政治の中枢であった長安に対し、全土から商人が集まる商業都市・開封や、臨安(現杭州市)に当時最大の市があったという。数百万人の人口を抱える大都市に立つ夜市。その熱狂ぶりはどれほどのものだったろう…。その地域や国家の重要な観光収入源であっただけでなく、そこに住む人々にとっても、生活になくてはならないものだったろうと想像される。
しかしながら、北京五輪や上海万博など、外国人観光客が激増する大イベントの開催に伴い、衛生面などの問題から、多くの市場が姿を消すか、路上から屋内型へと形態を変えてしまった。
しかし! 今回、上海ジャピオン取材班は、上海市内をくまなく探し回り、まだ健在の夜市数カ所を発見。次ページからは、読者の皆さんを夜市へとご案内しよう。
移転先は商業施設内のフードコートにも
軌道交通1号線を北へ向かい、「彭浦新村」駅で下車。駅を出て共和新路をさらに北上し、交差する臨汾路を東西に立ち並ぶ夜店に出くわし、いきなり熱気に包まれる①②。この道を東へ折れ、どこまでも続く衣類や雑貨の店を眺めながら…目指すは小吃街!
みなぎる夜の熱気
人ごみをかき分けて
とは言うものの、雑貨を全く無視して突き進むのももったいない。可愛らしい雑貨類など、スペースがあればとりあえず並べる、という方式のディスプレイ。そこから掘り出し物を探したり、まとめて叩き売られる様を眺めつつ歩いたりするのも、また一興だ③④。
さてさて、臨汾路も1丁ほど歩き平順路を越え、人の往来がさらに激しさを増してくると、左手に見える特に混雑した一帯、それこそが小吃街の入り口だ⑤。その先、細く入り組んだ路地にたくさんの露店が並んでいるわけだが、この熱気…40度超えの今夏も、これほどの人が訪れていたのだろうか。本来は車両通行OKなはずのこの交差点も、夜市の時間になると人で溢れ返り、自転車やバイクの通行は不可能。徒歩でアクセスするのがいいと思われる。
夜市定番のメニュー
空を舞うクレープ
「夜市」と言えば中国台湾を連想するのは、ここでも同じようだ。中国台湾夜市の名物である、カキ入り卵焼き「蚵仔煎」(20元)⑥に始まり、「小籠包」(20元)や「魯肉飯」(15元)など、定番の夜市メニューを片っ端から試したくなる。お腹がそこそこ落ち着いてきたら、今度はほかで見かけない物を探してみよう。
と、そこで「飛餅」の屋台が目に飛び込んで来た。フルーツやチョコレート、野菜に肉に卵など、おやつ系から主食系まであらゆる具材を取りそろえる、中華風クレープだ。「ベーコンと卵」(14元)に「チョコバナナ」(12元)をオーダーすると、早速お兄さんが生地を伸ばし始めた。最初は麺棒のようなものでグリグリと、それから生地を手に取ると放り投げ、フワリ、空を舞う⑦。何とも鮮やかな手つき…でも速過ぎて写真に撮れない…。さらにこのお兄さん、手元を見ないでバナナをスライスしている⑧! かと言って、ほかに意識を集中させているようでもなく、目はどこかウツロ。きっとこれは「手元なんか見ないでも切れるんだぜ」的なパフォーマンスなのだろう。
季節の果物ジュース
趣向を凝らした瓶
飲み物は、そこら中にあるスタンドで、季節の果物のフレッシュジュースを買うも良し⑨、串焼き店で羊肉や野菜の焼けるのを待ちながら、青島ビールを頼むも良し。アルコール派でなければぜひお試しいただきたいのが「瓶入りミルクティー」⑩。「エッフェル塔」(25元)や「ドクロ」(15元)を模った色とりどりのガラス瓶に入っているのは、いたって普通のミルクティーだが、売れ行きは好調。エッフェル塔を買った女の子に「飲み終わったら、瓶はどうするの?」と聞いてみると「会社の机に置いて、お花を挿すわ」とのお答え。むしろインテリアに活かすのが主目的なのかもしれない。
そのほか、焼き麩「油麺筋」(10元)⑪の串焼きに、ジャンボサイズの「羊肉串」(15元)⑫、チャレンジャーさんには、昆虫などのゲテモノ系⑬までひと通りの夜市メニューがぎっしり。B級グルメファンなら、一度は訪れてみよう。
info
住:臨汾路660号
営:21時~翌1時
アクセス:軌道交通1号線「彭浦新村」駅1番出口を出て、共和新路を北上
軌道交通4号線「大連路」駅2番出口から、西へ歩くこと10分。霍山路×臨潼路の交差点付近に、煌々と灯りを輝かせた屋台が散らばる。
このエリアのメインは、その名も「夜市豆漿油条店」。いつ頃オープンしたのかは不明、20時〜翌朝9時まで営業し、仕事帰りのサラリーマンやOLたちに大人気という。ほかには夜店や街灯も少ない通りだが、遠くからでもこの店の灯りが目に入り、容易に見つけることができる。
オーダーの行列
具沢山の豆乳
まずは、行列に並びオーダー。油条や大餅(かまどで焼いたパン)、「稀飯(お粥)」などはその場で受け取れるが、「豆漿(豆乳)」は右のおばちゃんに、「葱油蛋餅」は左のおばちゃんにそれぞれ別途オーダーしに行かねばならない。どちらでも「お金はもう払った?」と聞かれるが、払っていればそのまま欲しいものを渡してくれ、払っていなければ「列に並べ」と追い返される。ここで、払ってないけど「払った」と言ったらどうなるんだろう…などという疑問は捨てよう。
豆乳は「甜(甘い)」or「咸(しょっぱい)」の2種から。砂糖味は、温かい豆乳に大さじ1杯の白糖を入れたものだが、塩味はザーサイに海苔、細かく切った油条と具沢山だ。「豆腐花」の具材もこれに同じだが、ラー油が入っており、少々スパイシーさをプラス。
ここに来る人の定番オーダーは、「甜or咸豆乳」に油条。ちなみに、こんなスカスカした揚げパン、見た目だけでもたれる…と苦手にしていた取材班だが、生まれて初めて油条を「おいしい!」と思えたのだった。
info
住:霍山路203号
営:20時半~翌9時
アクセス:軌道交通4号線「大連路」駅2番出口を出て、大連路を南下、霍山路を西へ徒歩5分
万博跡地エリアからひと駅先の「耀華路」駅で下車し、上南路を南下する。1つ目の信号で交差すると、そこが目的地「昌里路」だ。交差点の向かい側には、2011年に建設された屋外型リノベーション・グルメ&ショッピングスポット「三鋼里」があり、若者のデートに格好のポイントとして活躍している。
食欲より物欲を
バラマキ鉄板お土産
夜市はこの昌里路を、上南路と3丁ほど西へ行った長清路に挟まれた区画に展開されている。ここで売られているのは、衣類に食器、アクセサリー、靴などのファッション雑貨が主。チープなヘアアクセ類などは、その時々の流行をしっかり押さえているので、どの店も若い女性客で賑わっている。一時帰国の際に合わせて訪れたなら、バラマキ用お土産を大人買いするのもいい。男性の姿もチラホラ見られるが、どの店もほとんどが女性向けのラインナップなので、明らかにお伴で連れて来られているという雰囲気を醸し出す。
ところどころで焼き栗やアヒルの首などの小吃類が売られているのを目にするが、食事はもっぱら上南路と長清路のちょうど中央に位置する「歴城路」に並ぶ食堂で済ませるか、前述のグルメコート「三鋼里」で取る人が多い。前者ではビール片手に、今が旬のザリガニを突つく男性客で混み合う。もしかすると、女性の買い物が終わるのをここで待機しているのかしら?
info
住:昌里路201号
営:不定
アクセス:軌道交通8号線「耀華路」駅3番出口を出て、上南路を南下
~上海ジャピオン2013年10月11日号