三人官女がすき焼き運ぶ
独特な髪型だ。
まゆげがすっぽり隠れるおかっぱ頭で、両脇の髪はひな人形の三人官女のようにスッと伸びている。
「最近鏡を見ながら自分で切りました。お客さんからも『可愛いね』って言われます」
しゃぶしゃぶ・すきやき専門店の「阿久」で働くるりさんは、そう言って嬉しそうに自分の髪をなでた。
お客さんにドン!
今の店で働き始めて、もう1年が経つ。
これまでも別の日本料理店を経験しており、その頃からの常連さんも店に顔を出してくる。
いつだったか、朝バス停から店に向かって走っていたら、
交差点の出会い頭で見覚えのあるお客さんにドンとぶつかったことがある。
「ごめんなさい」。とっさに日本語で謝り、その場で別れた。
その晩、店にそのお客さんがひょっこり現れた。
るりさんを見て笑顔で言う。
「朝、ぶつかった子でしょ」。
るりさんも笑った。
それ以来、ちょくちょく店に顔を出してくれるようになったという。
ある意味上海で唯一
同店のメニューは「しゃぶしゃぶ」または「すき焼き」の食べ放題のみ(各90元)。
シンプルゆえに、店員のサービスが居心地を左右するものだ。
その中でるりさんが心がけているのは、「お客さんの動作や気持ちを読み取ったサービス」だ。
おかっぱ頭の店員さんに、心を込めてすき焼きを運んでもらえるのは、
上海広しといえどもここだけかもしれない。
~上海ジャピオン5月14日号より