好きなものだけを見ていたい
安永さんの紹介で伺ったのは、趣のある老房子に暮らす荒木泰子さん。
約80年前に建てられた彼女の住まいとは…
外観も室内の雰囲気も
好み通りだった里弄
上海有数のショッピング街、淮海路から、ビルの間を抜けてとある路地へ。すると先ほどまでの喧騒は消え、レンガ造りの長屋が連なるどこか懐かしい風景が目に飛び込んでくる。
「特に老房子を探していたわけではないんです。でも3年前、友人の紹介で初めてここへ来たとき、『あ、いいな』と」と荒木泰子さんは、住まいである里弄(長屋形式の集合住宅)との出会いをこう振り返る。
荒木さんの暮らす里弄は、旧租界時代の1927年築。1つの階に1世帯という3階建ての物件が、隣り合わせに連続して建っている構造になっている。荒木さん宅は最上階だが、玄関ドアをあけるとさらに階段が続き、リビング、キッチン、屋根裏部屋へと通じている。
「何度も階段から落ちました(笑)でも、この家にいると、私にとって、心地よいものだけが、視界に入るんです」
白い塗り壁になじむ、使い込まれた木の床。自分で買った家具はほとんどないと言う。脚がやわらかな曲線を描く椅子に腰掛けると、向かいには重厚な黒い箪笥が並び、ドアの上のステンドグラスが目に入る。
(右写真)趣きのあるリビング
住まいに求めるのは
自分にとっての快適さ
しかし、たたずまいは希望にかなっていても、実際に住んでみると夏は暑く、共有階段には、隣家の夕飯の匂いが充満するなど、難点も。一方で、長屋形式とはいえ、隣人たちとの付き合いは、さほど密ではなかった。
けれど、荒木さんは言う。
「便利な方がいいし、新しいものが嫌だというわけでもない。でも今は、他の場所に引っ越す気はありません」
自分の価値観に添う生活を――。荒木さんのスタイルは、一貫している。
文豪、巴金もかつて暮らしたという
荒木泰子さん
⇒NEXT WEEK
昼下がり、エスプレッソを
いれて、“ほっと一息”が
楽しみな座波陽子さん
~上海ジャピオン7月25日発行号より