まずは、武漢の競馬の様子を見る前に、
上海をはじめとする、中国の競馬の歴史や現状を紐解いてみよう。
現代競馬は上海から
中国の現代競馬の歴史は上海から始まる。
1850年に中国初となる競馬場が、現在の南京東路、河南中路一帯に建設されて以来、
上海では5つの競馬場が建設された。
中でも一番有名な競馬場は、3代目として建設されたもので、
市の中心に位置し、今は市民の憩いの地として、なくてはならない場所となっている。
そこは人民広場と人民公園だ。
現在の人民広場と人民公園は、旧イギリス租界地に位置し、1862年に競馬場が建設された。
コース内側には、イギリス人の好むクリケット場やプールのほか、
9ホールのゴルフ場などが作られたと言われる。
公園と広場の形状が楕円形であるのは、競馬のコースの名残だ。
また現在、人民公園の傍で上海美術館として使われている建築物は、
もともと上海?馬総会(レースクラブ)のビル。
会員は、ビルの3階の専用スタンドから競馬観戦をしていた。
なお当時の競馬場の様子は、前述の上海美術館内に展示されている写真や、
東方明珠塔の1階にある「上海歴史陳列館」でうかがい知ることが可能。
同陳列館では、発売されていた馬券や騎手が使用した勝負服に加え、レースの動画も見られる。
武漢で2003年復活
上海以外でも、天津や北京、漢口(現武漢)などで、1937年頃まで競馬は盛んに行われていた。
その後、中国大陸では、90年頃まで競馬の開催は見合わされたが、
91年に、中華人民共和国で初となる競馬クラブが深センに誕生し、競馬復活の機運が高まった。
21世紀に入り、北京などで私的な競馬が開催されたが、
正式な復活は2003年の武漢で開かれた、国際競馬祭まで待つこととなる。
武漢での国際競馬祭は03年以降毎年行われ、08年からは国家当局の認可のもと、
テストレースという形ではあるものの、武漢競馬場(東方馬城)にて、
ほぼ毎週競馬が行われるようになったのだった。
では続いて、その武漢の競馬の様子を実際に見てみよう!
武漢へは動車組で5時間
上海から約900㌔離れた内陸にある、湖北省の省都・武漢。
上海―武漢間は、2009年4月に新幹線(動車組)の運行が始まり、
約5時間で結ばれるようになったことから、格段に利便性が上がった。
取材班は、5月のとある土曜日、上海虹橋駅6時48分発の朝イチの新幹線に乗り込み、武漢へ向かった。
武漢競馬場こと東方馬城は、武漢市の中心にある漢口駅から北西約5㌔のところにあり、
漢口駅からはタクシーで15分程だ。
しかし取材班の乗った新幹線は、武漢駅という武漢市郊外の駅に到着。
そこから、競馬場まではタクシーで35分と言われた。
幸い列車の到着時間が12時23分と、競馬が開催される14時よりかなり早かったので、
問題はなかったが、少し焦る取材班だった。
入場料は当面無料
タクシーを走らせること30分、13時過ぎに競馬場らしき建物(写真①)が見えた。
その建物の中央部分に停車してもらうが、入り口が見つからない。
仕方なく北に向かうと、馬の銅像(写真②)が見えてきた。
記念写真をとっていると、銅像の後ろのプレハブで、何やらチケットを受け取っている人を発見。
近づいてみると、中でおばちゃんがチケットを何枚も持って、暇そうにしていたのだった。
早速入場料はいくらかと尋ねると、「タダだよ」という答えが。
入場料は本来20元らしいが、当面の間無料とのこと。
ラッキー~! でもそのチケットは何? という疑問が浮かぶ。
それを察したのか、おばちゃんは、これは勝ち馬予想の投票券(写真③)なのよと教えてくれた。
どうやら、メインスタンド前に投票箱(写真④)が設置されていて、
レースで勝つ馬を予想し、その馬の馬番号の箱に券を入れたらいいらしい。
運がよかったら、豪華賞品が当たるとか。
入場料無料で、賞品まで貰えるとは、素晴らしい!
1人1枚もらって、いざ競馬場内へ。
巨大オーロラビジョン
入り口は、馬運車などの駐車場脇にある通用門。
入るとすぐにダート(砂)コースが見え、競馬場に来たんだなという実感がわく。
メインスタンド前には、巨大なオーロラビジョン(写真⑤)があり、
何と日本の中央競馬会(JRA)の重賞レースの模様が放映されていたのだ。
全く知らない海外の競馬場で、日本語の実況が聞け、熱いレースへの期待感がグッと高まったのだった。
スタンド内立ち入り禁止
レース開始30分前となったが、メインスタンド外の観覧席に陣取る観客はまばら。
目測で200人程度だった(写真⑥)。
外は暑いから、中に観客がたくさんいるんだろうと思い、
館内への入口に行くとカギがかかっており、中には入れず。
ということは、観客はこれで全てということらしい。
客層は、家族連れやカップル、友達同士など、日本よりオヤジ度はかなり低め。
完成が2003年と最近で、国際レベルの競馬場ということなので、スタンドは清潔感に溢れ、
ハードウェアの面では日本の競馬場と遜色ない感じだった。
芝コースはないので、東京の大井競馬場といったところだろうか。
パドックは右回り
そうこうしていると、競走馬の下見場であるパドック(写真⑦)で、
周回する競走馬の様子がオーロラビジョンに映しだされた。
女性の声で「電子英雄」や「東方明珠」など、中国的な名前の馬が紹介され、
騎手の勝負服、馬齢などがサブ画面で紹介される。
サラブレッドではない、馬体の少し小さな馬たちが周回する様子をじっくり見ていると、
どことなく違和感を覚えるのだった。
そう、馬たちが右回りで周回しているのだ。
日本の中央競馬では、全て左回りということもあり、文化の違いは面白いものだ。
ちなみに、レースコースも右回りで、1周1620㍍となっている(写真⑧)。
12頭から勝ち馬を予想
競馬場には、出走する馬の名前などが書かれたレースプログラムや、予想紙などは用意されないため、
勝ち馬の予想は、基本的に前述のパドックと、コース上でのウオーミングアップ、
いわゆる「返し馬」で判断することとなる。
1レース12頭しか出走しないし、当てるのは1着になる馬のみなので、予想は楽勝!
なんて考えていました、レースが始まるまでは。
抽選でプレゼントも
勝ち馬予想の投票は、レース開始直前まで可能なので、じっくり考えて投票。
その後、各馬がスターティングゲートに誘導され、一気に緊張感が高まる。
そして、全馬が収まりレーススタート!
パドック解説と同じ女性が実況する中、自分が投票した馬を探す。
「先頭だ! どこ~?」と絶叫する取材班。
馬たちが最後の直線に入り、さらに応援はヒートアップ。
迫力満点のドドドッという馬の駆ける音と響き渡るムチの音…。
このライブ感が、生観戦の醍醐味だ。
ただ残念ながら、取材班での的中者は無し!
騎手が表彰された後、予想的中者の中から抽選で、
760元分の美容クーポンや1000元分の語学学校受講券などが贈呈された。
お金をかけるわけではないが、予想が外れるとやはり悔しいもの。
次は当てる! と意気込む取材班のメンバーだった。
10月に国際競馬祭実施
画面越しで馬の状態は分からなかったのが、予想が外れた原因と勝手に分析し、
2レース目が始まる前に、通常は立ち入れない、パドックを見せてもらえないかとスタッフと交渉。
すると運良くOKとなり、連れていってくれることに。
観客が1人もいない広々としたパドックを、粛々と周回する馬たちの姿は、どことなく寂しげだった。
こうしてパドックを実際に見せてもらった訳だが、結果は変わらず大外れ。
レースが進むごとに、外れ度合いもひどくなり、メンバー誰一人として的中しなかった。
その様子を見たスタッフは、
「競馬は、7、8月を除いて毎週土曜日の14時~16時に4レース開催しているので、いつでも来て下さい。
次はきっと当たりますよ」と慰めの声をかけてくれた。
また、10月26日(水)~30日(日)まで、中国国際競馬祭が行われる予定で、
世界中から優秀な競走馬が集まり、かなり盛り上がるとか。
10月の競馬祭で、レースの予想を全て外したこの悔しさを晴らすぞと心に誓い、
上海への帰路についたのだった。
~上海ジャピオン5月27日号