上海のローカル工場見学

 

上海新美雨衣廠

松江工業区の工場群
今回、取材班がまず向かったのは、
上海ではかなり珍しい、
雨がっぱの製造工場。
市内から松江区方面へ、
軌道交通9号線に揺られること1時間。
車両は地上区間に入り、
林立する工場群が見えてきた。
その一角に、今回見学する雨がっぱ工場
「上海新美雨衣廠」がある。
「泗涇」駅から車で5分と、
アクセスのよさは見学にもってこいだ。
工場に着くと、
「歓迎歓迎~」と、工場長自ら
笑顔で出迎えてくれた。
今年で57歳という陸工場長は、
20年以上雨がっぱの
生産に携わる、大ベテラン。
すぐに応接間に通されたが、
目の前に何気なく置かれた
雨具の数々を目にすると、
はやる気持ちを抑えられなくなり、
「早速工場見学に行きましょう!」と、
工場長を急かす取材班。
そんな様子を見て、
工場長は苦笑いしつつ、まずは、
工場で製造された製品の並んだ部屋に
案内してくれた。

大リーグ向け雨具も
青や赤、オレンジなど、
様々な色の雨がっぱや防水バッグが
目の前に広がる。
主にフランス、ドイツ向けの雨がっぱを
生産するとのことで、
日本ではあまり見かけないものもチラホラ。
車椅子利用者用の雨具や、側面が
ガラ空きになったポンチョなど、
様々なサンプル商品を広げて説明してくれる。
なかには、松坂大輔選手が所属していた、
米大リーグ「ボストン・レッドソックス」の
オフィシャルレインコートも! 
「世界の工場」として、各国からの注文を
受けているようだ。

 雨がっぱを解説する陸工場長

プレス機の圧力に慄く
長い前置き(失礼!)も終わり、
ついに、工場内へ案内される取材班。
足を踏み入れると、そこには、
製造途中の商品が大量に、山と積まれていた。
現在生産しているのは、世界に名だたる
ディズニー社より注文を受けたという、
子ども用の雨がっぱ。
日本人にも馴染みの深いミニーちゃんが、
そこかしこにあふれていた。
工場は主に、裁縫、裁断、検品、包装の
スペースと、プレス、大型裁断、
ボタン接着などのスペースの2エリアに
分かれている。
素人のパッと見では、作業の導線は
整備されていないように見え、
材料も至る所に無造作に転がっているが…
気にしない気にしない。
現在生産中の子ども用雨がっぱは、
まず、トン単位で仕入れたPVC
(ポリ塩化ビニール)シートを、
印刷工場に渡し、図柄を印刷。
それを一定サイズに裁断し、
抜き型を置いてマシンで一気にプレスし、
雨がっぱの形に作り上げるという。
型抜き作業では、プレス機械が1回で
80~100枚のシートを一気に抜くというだけに、
その圧力の大きさにおののく取材班だった。

 

親しみ感じる手作り機器
完全に機械に頼る作業はここまでで、
続く、帽子部分と本体との接着には人力
(脚力)が必要となる。
小型の接着機に作業員が並び、
2つのパーツをそろえたら、
ペダルを踏んで接着。
この作業を、気が遠くなるほど何度も繰り返す。
無人化された機械による流れ作業を
イメージしていた取材班には、
その人力作業が新鮮に見えた。
近づいて写真を撮っていると、
取材班を意識してか、
手元が定まらない作業員のおばちゃんもチラホラ。
「モデルじゃないんだし、緊張しないで」と、
工場長が気さくに声をかけると、
軽快な笑い声が響き渡った。
ボタン付けの作業もまた、
人の手で行われている。
もともとプレス機は、
手で取っ手を押すタイプのようだが、
針金と鉄板を巧みに使い、
足踏みタイプに改良していた。
手作り感溢れる機器に対して、
「先進的じゃないよね」と笑う工場長。
だが、手作り機器を使い、
ひとつひとつ人の手が関わって
でき上がる雨がっぱに、
何とも言えない温もりと親しみを
感じるのだった。

ボタンを付け終わった雨がっぱは、
最後に縁を縫う工程に入る。
ミシンを自分の手のように使って、
あっという間に縫い終える若い作業員の
目の前には、できたての雨がっぱが
どんどん積み上がっていく。
1日に約3000枚の雨がっぱを
生産するというのも、納得の速さだ。
作る側は、大量に製造するため、
でき上がっても感慨に耽る暇もない。
しかし、様々な人の手を介し完成した
この雨がっぱは、世界中の子どもたちを
優しく包み込むのだと、
取材班はしみじみと感じ入るのであった。

上海新美雨衣廠
住所: 松江区杜家浜路65号(×方泗公路)
電話: 6290-6174
営行時間: 7時半~18時半(日曜休み)
E-mail: xmlsm@foxmail.com
※見学は要事前予約

 

上海匯全服飾輔料有限公司

金運をもたらした犬
続いて見学に訪れたのは、
軌道交通2号線の西の終点
「徐涇東」駅からタクシーで
約10分のところにある、
アパレルの副資材を生産する
「上海匯全服飾輔料有限公司」の工場だ。
1953年に浙江省海寧市で立ち上げ、
92年に上海へ移転、
現在は、主にボタンやラベル、ハンガー、
洗濯ネームを作っているという。
約束の時間、工場の入口に到着すると、
本日の案内役で、工場長の息子さんでもある、
ジェリーさんがすでに待っていた。
挨拶もそこそこに、
早速工場の敷地内に足を踏み入れる。
すると、ギャンギャンと吠える犬に
出迎えられた。
3年前くらいにひょこっと工場に現れ、
これまで従業員4人に咬傷を負わせ、
何千元も治療費を支払う羽目になったという、
なかなか凶暴な犬。
しかしながら、
「こいつが来てから、業績がかなりいいんで、
追い出すのもちょっとね」とジェリーさん。
工場に金運をもたらした
〝お犬様〟の機嫌を損ねないよう、
注意を払いつつ、
ジェリーさんの後を付いて行くと、
今度は、ガッチャンガッチャンと
一定のリズムで動く、
機械音が耳に入ってきた。
工場に到着した合図だ。

ジェリーさんが製造必需品の数々を案内

〝メカ系男子〟に萌える
50台以上のボタン製造機と
何百種類もの金型などが並び、
その機械はボタンのパーツを
絶え間なく吐き出している。
その、まさに工場! といった雰囲気に、
取材班のボルテージは一気に最高潮に達し、
機械の写真を撮りまくるのだった。
あらかた撮り終わった
絶妙な頃合いを見計らって、
ジェリーさんが、金属ボタンの
製造過程を紹介してくれた。
まずは、ぐるぐる巻かれた状態で
仕入れた真鍮板を引き伸ばして、
機械に合った幅に裁断する。
「真鍮板は1㌧6万元だよ」と、
高いのか安いのか、皆目見当がつかない
値段を教えてくれるジェリーさんに、
1日の生産量を質問しようとした時、
取材班の女子から
「キャ~」という声が上がった。
ゴ●ブリでも出たのかと振り返ると、
イケメン工員の仕事の様子に
見とれている女子の姿がそこに。
24歳にして、すでに6年の仕事経験を持つという
イケメン君は、工場でも
ベテランの域に入るという。
裁断した真鍮板を機械に取り付け、
1人で3台の機械をテキパキ扱う…
そんな彼の様子にメロメロな女子を見るに、
これからモテるのは〝メカ系男子〟だなと、
勝手に確信する取材班男子たちだった。
ちなみに、ボタンは1日30万セット
(120万個)を生産可能だ。

 

機械と手で語り合う
ボタン製造機は、
パーツの形状に合わせて型を選び、
プレスする回数や深さを変える。
なかには、10回以上プレスして、
やっと切り抜けるものもあった。
また機械自体も、
大型でゆっくり穴を開けていくものや、
小型でせわしなく動くものなど、
個性あふれ、ずっと見ていても
飽きがこないから不思議だ。
作業員は、機械を起動する前に
まず手動で動かし、
穴の開く様子を丹念に確認する。
取材班を一瞥もせず、
機械と向き合い、手を通じて
〝語り合う〟様子が印象的だった。
穴開けは機械が一手に引き受けるため、
ボタン作りに人手はほぼ介さないかと思いきや、
人力メインの工程も存在していた。
出来上がったスナップボタン
(ドットボタン)のゲンコ凸
(バネ凹にはめる凸型のソケット)の
目視による検品作業や、
ボタンに布を被せる作業、
ボタン表面に刻印されるデザインの
研磨など、根気と集中力の
試されるものばかりだ。
その時、研磨作業を行っていた人が手を止め、
「你好! ようこそ」と、
話しかけてきた。
この人こそ、ほかでもない工場長だった。
上海のアパレル副資材工場の状況を聞くと、
「ここ何年かでどんどん潰れたね。
ここが最後の砦だよ」と、しみじみと話す。
年季を感じさせる黒く汚れた手が、
長年ともに競ってきた同業者の無念を
表しているかのようだった。
だが、自分たちは、
工場を諦めるつもりは毛頭ない。
息子のジェリーさんとともに、
これからも、ユニクロを始め、
世界のブランドの要求に
応え続けていくのだった。

 
上海匯全服飾輔料有限公司
住所: 青浦区双聯路69号工業小区9幢(×華徐公路)
電話: 5988-4449
営行時間: 8時~18時(日曜休み)
E-mail: fuzhuang202@vip.sina.com
※見学は要事前予約

 

 

 
~上海ジャピオン2012年11月16日号

 

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