少林拳は、河南省登封市嵩山の少林寺で発祥した、
中国拳法のひとつ。
西暦495年に成立したとされ、
突き、蹴り、投げを主とするほか、剣や棒、
ヌンチャクなども使う。
型が肝心な伝統の拳
憧れのカンフーに挑戦できる!
ヒョロゴンがやってきたのは、
茂名南路にある「龍武功夫館」。
門を叩くと、出迎えてくれたのは、
今回指導役を務める郭亮師範。
郭師範は元全国武術大会チャンピオン、
2004年に日本で放送されていた
サントリー烏龍茶のTVCMでは、
女優スン・リーと共演したこともあるというから驚きだ。
ヒョロゴンが最初に習うのは、少林拳。
まずは、型の1つ「長拳」のレッスンだ(写真①)。
基本となる突きは、右手を挙げたまま、左手握り拳を前に出す。
すでに頭の中で中国武術百般に通じる彼にとって、
少林拳はお手のもの…のはずだった。
ヒョロゴンも師範に倣って構えたが、
思った以上に身体が固く、1分も姿勢を保てない。
しかし、そこはカンフー通。
映画のイメージと照らし合わせ、苦闘の末、
何とかポーズをとることができた。
基本の型ができたところで、次は「旋風脚」を習う(写真②)。
2回ほどステップを踏んで、跳び上がり、
回し蹴りをする技だが、これが難しい。
ヒョロゴンはジャンプと足を回すタイミングがつかめず、
着地で態勢を崩すなど、簡単には極められないようだ。
そこで師範は、重心をへその下にかけたまま跳べ、と助言。
するとどうだろう、少し固さが残るものの、
姿勢を崩すことなく着地できるようになった。
さすがは俺、と自信に満ちた表情で、
剣にも挑戦(写真③)。
最初は突きの練習に専念したが、バシッと音を鳴らす、
師範の剣さばきには付いていけず、
ただ見とれるだけ。
しかし、師範から「筋はいい」と褒められ、
やる気を取り戻すヒョロゴンであった。
「咏春拳(えいしゅんけん)」は、
今から300年以上前、福建省の女性武術家・
厳咏春によって編み出された(由来は諸説あり)。
攻撃より防御に重点を置き、
相手からの攻撃を防ぐと同時に打撃を繰り出すのが特徴。
拳技は地味で見栄えはしないが、相手の力を利用し、
打撃にも強い力を必要としないので、
女性に人気があるほか、実用的な護身術として学ぶ人も多い。
木人樁でトレーニング
次にトライするのは、咏春拳。
よっ、待ってました! と言わんばかりに、
ヒョロゴンは張り切って準備運動を始める。
ドニー・イェン主演の『イップ・マン』を見てから、
ドニーの鮮やかなカンフーはもちろんのこと、
1人で10人以上の敵を相手に闘う姿に心打たれ、
チャレンジできる日を切望していたのだ。
今回も引き続き、郭師範に教えてもらうことに。
またもあのイケメン師範を相手に、
ますます闘志を燃やすヒョロゴンであった。
最初は「木人樁(もくじんとう)」と呼ばれる、
木の人形を使ったトレーニングから(写真①)。
木人樁は人そのもの、胴体を胸、
突起部分を腕と見立てて打ち、蹴りを入れるんだ、
と師範が手本を見せてくれる。
劇中、では木人樁を使ったトレーニングが頻繁に出てくる。
ヒョロゴンはそれを思い出しながら、
トントンと叩いてはみたものの、
何のために打つのかよくわからないのであった。
師範によれば、これは拳を出す適度なスピードと
距離感をつかむために必要で、
訓練を続けていけば実感できると説き、
防御(写真②)と突き(写真③)を教える。
防御は相手がどう攻撃してくるかをイメージし、
打撃は握り拳を縦に打つのがポイント。
これは、打撃の後、すぐに防御の構えをとるためだ。
狭く動き、速く打つ
攻撃と防御をひと通り、覚えたら、
次は基本の型「膀手(ぼうしゅ)」の実践(写真④)。
相手が攻撃してきたら、
片方の掌で相手の腕をつかんで動きを封じ込め、
反対の手で突き返すというものだ。
最初こそ反応できなかったものの、
師範が低速でランダムに打ってくる拳を
ヒョロゴンはしっかりと抑え、攻撃を返すことができた。
どうやら動きをきちんと見切れているようだ。
防ぐだけではなく、スキを窺っては、
師範の甘いマスクを狙って拳を向けるなど、
挑発的な姿勢も見せた(写真⑤)。
と、そこに師範から不意打ちのローキックが入り、
戸惑うヒョロゴン(写真⑥)。
上半身ばかりに気を取られ、下半身がスキだらけだったようだ。
また同時に、接近戦では動ける範囲が狭いので、
素早く何度も突くことを心がける。
そして、ある程度「膀手」が使えるようになってきたところで、
いよいよ本格的に打ち合うことに!
反射神経が命
お互い両足を合わせて、打ち合うのだが(写真⑦)、
師範の突きはまさに電光石火のよう。
これが本物か、そういえば映画でも
このくらいのスピードだったかも、
などと回想する間にも、容赦なく入ってくる。
百戦錬磨の師範に、ヒョロゴンもフェイントを使うなど
小細工をして粘るが、すぐに見透かされ、
そのスキに頬を突かれる(写真⑧)。
様々な角度から、絶え間なく打ちこまれてくる突きに
太刀打ちできず、とうとうヒョロゴンが尻もちをついてしまった。
完敗だ。
かれこれ10発は顔や胸に食らっただろうか。
動きは大して複雑でもないのに、これほど難しいとは…、
と少し落胆気味。
しかし、ヒョロゴンは最後に、咏春拳は確かに防御の技だが、
相手の動きに素早く反応できる、
反射神経と動体視力が求められるのだと悟った。
咏春拳の醍醐味を実感し、感謝の意を込めて郭師範に深く頭を下げる。
無様ではあったものの、少しはイップ・マンに近づけたのではないか、
と勝手な想いを抱き、ヒョロゴンは次の道場に向かう。
「截拳道(ジークンドー)」は、
イップ・マンに師事したブルース・リーが創り出した。
攻撃技を主体とし、咏春拳をベースに、
空手道やボクシング、レスリングなど、
世界のあらゆる格闘技の要素を取り入れている。
カンフーマスターへの道
最後に截拳道を極めるべく、
ヒョロゴンは「明武功夫館」を訪ねた。
截拳道修行歴12年、身長180㌢超の張師範が、
指導役に当たる。
「チャーン、チャチャーン♪」と
リーお馴染みのBGMを口ずさみ、
盛り上がっていたが、大柄の師範を見た途端、
怖気づくヒョロゴンであった。
まずは、師範がもっともメジャーな
「側踢(サイドキック)」を実演。
正面ではなく、横に蹴るのが特徴だ。
ヒョロゴンも「アチョー」と叫んでミットを蹴ってみるが、
腰をひねる感覚に慣れず、股関節を痛めてしまった(写真①)。
師範は痛がる彼を気にも留めず、
続いて「圧肩捌肘(ヒジ固め)」を披露。
後ろから、肩の動きを封じる関節技だ。
これはレスリング技だと気をとられている間に、
ヒョロゴンも技をかけられ、腕を奪われた(写真②)。
サイドキックでは逆に痛い思いをし、
巨体の師範になす術もなくヒジ固めを決められ、
己の非力さに落ち込むヒョロゴン。
師範はそんな彼にミットを向け、
「ここに飛び蹴りを入れてみろ!」と一喝。
戸惑いつつも、リーの金言「考えるな、感じろ」
を繰り返し呟き、思い切り飛び込んでみる(写真③)。
助走をつけ過ぎてミット上部に入ったが、
見事に決まった。
周りから惜しみない拍手が送られ、
少し自信を取り戻した様子のヒョロゴン。
「截拳道に完成はない。常に己の武の高みを目指し、
日々鍛あるのみ」。
張師範の言葉に、ヒョロゴンは深く感動。
憧れだけではなく、地道な努力が必要なことを知り、
ヒョロゴンは新たな決意を抱いて、道場を後にした。
~上海ジャピオン2013年3月1日号