万物が美しく咲く清明節
4月に入り、爽やかな気候の訪れとともに、
木々は色濃く、鮮やかな花が咲き、
大地は青々とした草の絨毯に覆われる。
小鳥の囀りが聞こえるなか、本格的な春が到来。
「清明節(qing1ming2jie2)」とは、
春分、夏至などに代表される、二十四節気のひとつで、
旧暦2月後半から3月前半(新暦4月5日前後)が
これに相当する。
中国の書物『暦書』には
「為清明、万物皆潔斉而清明」と記され、
万物に新たな命が宿り、
明るく清らかな風景が現れる時節、
と解釈してよいだろう。
二十四節気。春分や夏至、秋分や冬至は日本でもお馴染み
古来続く墓参りの行事
この清明節、別名「掃墓節」と呼ばれ、
中国では「掃墓sao3mu4(墓参り)」
を行う時期として広く認識されている。
日本のお盆に当たる年中行事と言ってよい。
3月に入り、街の市場で、果物の盛り籠や紙銭
(紙幣を模した紙)などが売られているのを
見ることがあるだろう。
これらは墓のお供え物だ。
古来、中国では雨が次第に多くなるこの頃、
1年間風雨に晒されてきた先祖の墓を修繕し、
先祖に加護と平安を祈る風習がある。
明代の書物『帝京景物略』にも、
「三月清明日、男女掃墓~為墓除草添土者
(3月清明の時、男女は墓に参り、
被葬者の墓を清掃する)」との記述があり、
古くから民間に浸透してきた行事だと分かる。
この伝統が今日も受け継がれ、最近では、
郊外の霊園まで墓参りに出かけ、
ついでに花見やピクニックも楽しむことが
慣例となっているようだ。
清明節は公園に出かけ、ピクニックを楽しむ
「寒食」に食べる青団
関連行事はこれだけではない。
この時期の断続的な降雨と温暖な気候が、
植物の発育に適していることから、
各地で植樹が行われる。
実際、3月12日は「中国植樹日(中国植樹デー)」
と定められ、多くの公園などで植樹イベントが開催される。
また、このほか、蹴鞠や凧揚げ、古くから、
宮中の遊びとして親しまれてきたブランコなどを
伝統行事として行う地域もある。
そして、忘れてはならないのが、
「青団(ヨモギ団子)」だ。
上海は、この時期に青団を食べるのは、
清明節中、火を使わずに調理した物を食べる
「寒食」の概念に基づくもの。
また、山東省や河北省など中国北部では、
卵や冷やしたマントウ、麺料理が盛んな山西省では麺細工など、
地域によって食べるものが異なる。
では、次ページより清明節に食べる、
この青団について詳しく紹介していく。
あっという間の職人技
青団はどのようにして作られているのだろうか。
取材班が今回お邪魔したのは、上海に4店舗を持つ老舗菓子店、
「北万新(bei3wan4xin1)」。
同店は、「菜包(cai4bao1)」という野菜を
餡にした小吃が有名だが、
期間限定販売の「手作り青団(3元/個)」も定評がある。
シーズン中は多い時で、
1日200個以上売れることもあるようだ。
さて、前置きはこれくらいにして、青団がどのようにして売られ、
我々の口に運ばれるかを観察してみよう。
まず最初は皮作り。
材料となるのは、もち米粉と、
ヨモギやハダカムギを搾った麦汁だ(写真①)。
これらの原料となる植物は、3月にならないと収穫できない。
青団が清明節にしか生産されないのはこのためだ。
青団は基本、皮には小麦粉を一切使わず、
もち米粉のみで柔らかさを出すのが特徴とされる。
水、もち米粉、麦汁を撹拌機(ミキサー)に入れて
混ぜる工程から(写真②)始まる。
ブーンブーンと、5分ほど回してできた生地は、鮮やかな黄緑色。
もちろん、これで完成というわけではない。
さらに手で2分ほどこね、生地全体に粘りと柔らかさを出す(写真⑤)。
ここまで来れば、皮はほぼ出来上がりだ。
ここからは手作業でひとつひとつ、団子を作っていく。
子どもの掌ぐらいの大きさに生地をちぎり、
中が空洞のボールを作るように丸めながら、餡を入れる(写真⑦)。
同店の職人は、この作業を30秒足らずで終える。
餡を潰さないよう力を加減し、
かつ均等な厚みを保つことが重要だそうだ。
餡作りも同時進行で進められ、詰め易いようこしたてで丸めておく。
作り始めて10分も経たず、
あらかじめ油を塗っておいた蒸籠に団子が5つ、
6つと並んでいく(写真⑧)。
出来立て青団は格別
10分ほど蒸し、蓋を開けると、
まるで化粧をしたように鮮やかな青団が湯気を放っている(写真⑨)。
蒸籠の底に塗っておいた油が皮に染み込み、
青団の色に深みとツヤを加えるそうだ。
早速、蒸し立ての青団を食べさせもらった。
アツアツで手に取るのも大変だったが、
ヨモギの芳しい香りに襲われ、ひと口かじってみると、
柔らかくプルプルした皮の中から、
しっとりとしたこし餡が顔を出す。
皮はやや渋みがあり、ほどよい甘さの餡との相性も抜群だ。
普段、コンビニやスーパーなどで市販されている青団と、
皮の質感や餡の柔らかさ、甘さにおいて、
全く異なるものであった。
同店の職人曰く、材料はスーパーでも手に入るので、
自宅でも作ることができるとのこと。
思い切って自分で作ってみてもいいかもしれない。
上海市では、様々な食品メーカーの青団が売られるが、
代表的なのが、「沈大成(shen3da4chen2)」(写真①)と
「王家沙(wang2jia1sha1)」(写真②)のものだ。
特に、沈大成の南京東路本店、王家沙の南京西路店は、
天然ヨモギを使った青団、肉入り青団など、
独自の青団を販売し、清明節前になると、
毎日長蛇の列ができるほど。
それでも、この時にしか食べられないものなので、
たくさんの上海市民が買い求めに来る。
彼らに倣って、清明節伝統の味をぜひ試してみたいものだ。
沈大成南京東路店
住所:南京東路636号(×浙江中路)
TEL:6322-4926
営業時間:7時~22時
王家沙点心南京西路本店
住所:南京西路805号(×石門一路)
TEL:6283-5793
営業時間:11時~14時、16時半~23時
北万新淮海店
住所:淮海中路462号(×雁蕩路)
TEL:6385-5284
営業時間:7時~20時
種類多数、中国の墓
中国人にとって、清明節の最大の行事は墓参り。
日本と同じく墓地に行ってお参りをするわけだが、
中国では墓地が都市郊外にあることが多い。
実際、墓地に入ると、その広さと墓の多さに驚く。
一番多いのが、日本と同じように墓石を持つタイプだ(写真①)。
日本と異なるのは、被葬者の名前や命日だけでなく、
顔写真も刻まれている点。
また最近は、墓地の敷地面積の問題もあって、
墓石を持たず「殯儀館(葬儀センター)」の納骨堂を
利用する傾向にある(写真②)。
紙でできたお供え物
中国でも、墓前にはお供え物を置く。
花や果物はもちろん、故人の好物や酒、
清明節なので青団を供えることも(写真③)。
また、特筆すべきは
「紙銭(紙幣に似せた紙)」を使うところ(写真④)。
これは、被葬者が天国でもお金に困らず
生活できるようにとの願いを表して行われる。
お供えといっても、これを墓前に置くのではなく、
「焼紙」といって、燃やすことに意味があるようだ。
紙幣には〝天地通用銀行〟と書かれており、
中にはドル札も存在する。
また、紙幣と一緒に、「金銀紙」と呼ばれる黄色い紙や、
古代の貨幣を模った「元宝」も燃やす。
また、最近では、竹やプラスチックで作られた家や料理、
衣服まで登場し、供えるという。
気持ちを込めて3度
紙銭を燃やした後は、墓石に3度頭を下げ
参拝を終えることになる。
日本では合掌し、二礼二拍手一礼することになっているが、
こちらでは3度深く頭を下げるのが通例だ(写真⑤)。
また、子どもは「磕頭(跪いて頭を地面につける)」
をすることが多く、そのほか、
墓石に酒をかけて拝むこともあるようだ。
日本と異なる点はあるが、これも葬儀における、
中国独特の文化の1つとして覚えておこう。
~上海ジャピオン2013年4月5日号