上海の街中至るところで見かける、見覚えある日本人モデルが表紙を飾った雑誌。「美的」、「Oggi」、「Ray」、「mina」、「ViVi」、「With」…。これら日本で馴染みある女性誌の中国語版ってどのようにして作られているのだろうか。
そんな疑問に答えるべく、今回は中国で発行して7周年になる「今日風采Oggi」と、今年7月に創刊した「美的」の2誌の編集部に協力いただき、中国語版日系女性紙ができるまでの秘密に迫った。
店頭に並ぶまで
中国語版日系誌は、一般的に日本語版と同じ内容と、中国の編集部で独自に制作する内容で構成される。
例えば、「美的」の場合は、日本語版が占めるのは約5割の100ページとなる。「今日風采Oggi」であれば、約3割弱の70~80ページが日本語版と同じ内容。残りの部分は中国オリジナル版となるのだ。
では、具体的な流れを見てみよう。日本で10月24日に発行される12月号「美的」のデータが、上海の編集部に届くのは10月13日頃。これを内容ごとに、日本語編集者「日文編輯」が、外部の翻訳者スタッフ約10人に振り分け、10月末までに中国語に翻訳された原稿が編集部に集まる。これを、化粧品の英語名や価格まで、細かいところも全てチェックし、ようやく原稿が仕上がる。
また中国語版「美的」は、ページの開きが日本と逆の左開き。これは、横書きの文章になれ親しんでいる中国人読者が読みやすいための工夫だ。このため、文字は横書きに、誌面は左から右に読み進めていくレイアウトに作り変える作業もある。
「編輯」の仕事いろいろ
「日文編輯」のほか、中国語版オリジナルの内容の作成には、グルメや生活情報、有名人インタビューなどを担当する「専題編輯」、ブランドの意見を聞きながら、企画テーマに合わせたストーリーなどを作り上げる「策劃編輯」といった特色ある編集者がいる。さらに、メイクアップアーティストの仕事をもこなす「美容編輯」、スタイリストの役目も果たす「服飾編輯」、デザイナーに当たる「美術編輯」などと細かく役割分担されている。各担当の編集者がアイディアを出し合い、企画のテーマ決め、取材、撮影を経て作り上げた原稿は毎月10日までに全て完成し、製本の段階に入る。
こうして、日本の発売から遅れること約1カ月、11月18日には、店頭で「美的」の12月号を手にできる。また、毎月1日発行の「今日風采Oggi」の12月号であれば、同様の翻訳や製作の過程を経て、11月28頃までに店頭に並べられる。
では、日系誌を中国読者に受け入れてもらうには、どのような秘訣があるのだろうか。中国オリジナルの部分で工夫をしているポイントについて探ってみた。
読者に愛される秘訣
「美的」の場合 美容の専門書
まずは、25歳~30代前半の女性をターゲットに、「『肌・心・体』のキレイは自分で磨く」をコンセプトとした「美的」。
「中国女性のメイクアップに対する関心やこだわりは年々高まっているから、やはりより専門性のある情報を提供していきたいの。日本の雑誌は、肌タイプや季節の変化などに対して細かく配慮しているでしょ? そんな丁寧で細やかな姿勢を見習いたいし、中国女性のための美容の専門書となるような雑誌を目指していきたい」と「日文編輯」の黄さんは微笑む。
そのため、中国語版オリジナルの部分は、中国の美容専門家によるスキンケアの方法や、メイクアップの仕方、読者モデルが実際にコスメを使った感想や、上海のエステで体験レポート「東方美人美容会所ガイド」といった盛りだくさんの内容。化粧品のトップセールスランキング、化粧の基礎知識から、各種美容の情報なども充実している。
さらに、「掲載されている化粧品やコスメなどは上海で手に入るの?」という質問に「国内で買えるものは、価格も調べて掲載しているわ」と答える黄さん。巻末には各ブランドの店舗住所と電話番号リストが掲載されており、中国オリジナルの部分はもちろん、日本語の内容でも、約4割の商品はデパートや専門店で購入できるという。
なお、中国語版「美的」は2009年1月号から中国語版「秀With」を合併し、「秀美的」となる予定。今後は今までの美容情報などに加えて、メークに合わせたファッションの内容などを充実させ、さらにバージョンアップしていくという。
読者に愛される秘訣
「今日風采Oggi」の場合 働く女性の教科書
続いて、25歳~38歳までのOLをターゲットとした「今日風采Oggi」。
「日本の女性は本当に雑誌をよく読みこんで、自分のファッションにうまく取り入れているでしょう?
私たちも『今日風采Oggi』が、中国のOLにとって、実用的な教科書となるような誌面を目指しているのよ」と王福編集長は穏やかに話す。
欧米雑誌の大きな写真の見やすいレイアウトを取り入れながら、職場などで実際に参考にしやすいファッションの提案を常に心がけてという。
また、仕事や生活の上で、女性が直面することの多い問題点などを扱ったテーマも充実、同世代の女性の生き方も紹介していく。
さらに、こちらでも「日本のモデルと同じファッションを身につけたい!」という読者の声に答えようと、巻末にはショッピングリストを掲載。
さらに、「服飾編輯」が、類似する服、バック、アクセサリーなどを、国内の商品が手に入るブランドから見つけ、全身でコーディネートして紹介する「Oggi Recommend」というコナーを設けている。
このほか、中国の銀行カード銀聯?」が日本のデパートなどでも使えるようになったことから、東京の伊勢丹と提携して、日本への観光・ショッピングの旅行特集を企画することも。
TPOに合わせた上品で、控えめな服装をベースに、トレンドのおしゃれをうまく取り入れた「今日風采Oggi」のファッションを、お手本にするOLは多い。そして、生き方、価値観の面も含めて取り上げた内容が支持を集めている。
編集者に聞く雑誌作り
最新のおしゃれ情報を扱う女性誌の編集者、忙しいけれど華やかなイメージを抱く人も多いのでは。
今回は3人の編集者にその仕事について実際に聞いてみた。
―編集の仕事をしていて、大変な点や、良かったな~と思う点について聞かせて下さい。。
黄さん
私は「日文編輯」としてより良い翻訳ができるように、いろいろな日系雑誌の表現に、よく目を通しています。
中国語にした時の表現はもちろん、商品の英語名など、細かいところまで、ミスのないように責任を持ってチェックすることは、根気がいるけど、雑誌ができ上がった時の達成感は何よりですね。。
徐さん
「策劃編輯」は、企画はもちろん、モデルとの交渉や撮影のための道具までも準備します。
細かい仕事も多いですが、アイディア力や、実行力、創造力などの各方面が磨かれて、全体的に自分自身を高めることに繋がっていると感じています。
王さん
この仕事は、常に新しい情報に触れたたり、いろいろな人と知り合う機会に恵まれていると思いますよ。
自分の視点を広げたり、多くの知識を身につけたりすることもできますね。
友人からファッションのアドバイスを求められることもよくありますよ。
黄さん
あとは、やはり女の子なら誰でも気になるようなおしゃれの最新情報を真先に知ることができることですね。
上海で未発売の化粧品や限定ものを、ネットで購入することもありますよ(笑)
―これから、読者にとってどのような雑誌を作っていきたいですか?
徐さん
日本の雑誌を見習って、私たちも中国の女性にとってもっともっと、ためになる知識や実用的な情報を充実させた雑誌を目指したいですね。
王さん
国外の良いものを国内の市場に融合させていけたらと思っています。読者にとって外見も内面も高めていける雑誌を作っていきたいですね。
黄さん
私たちの雑誌について、上海で生活されている日本人の皆さんから、ぜひアドバイスや意見をいただけたらとも思います。日本と違うところも多いと思いますので、ぜひ見比べてみてください。
~上海ジャピオン11月28日発行号より