ザ・中国珍味をどうぞ
見た目がショッキングなので敬遠する人も少なくないかもしれないが、アヒルの頭「鴨頭」は「鶏爪(鶏の脚)」と並んで中国を代表する珍味であり、熱狂的なファンを持つ。
食べられる部分は少なく、主に外皮と脳ミソ、口の中の舌を食べる。1個丸ごと出された場合は、店員さんに頼んで半分に切ってもらうと食べやすい。外側の皮を一通り食べ終えた後、頭と嘴を2つに割って、中を食べ進めていく。頭は硬いが中の脳ミソは柔らかく、周りにゼラチン質が付いていて、トロリと濃厚で美味。中華料理屋や火鍋屋のメニューに登場し、お酒のおつまみとして好まれている。また四川や重慶、山東地方の名物料理「干鍋鴨頭」は、10個ほどの鴨の頭が、嘴を中心に向け鍋にぐるりと並べられており、壮観だ。
弾力あるアヒルの〝タン〟
中華料理屋で、前菜に当たる「冷菜」や「開胃菜」として出されることが多い「鴨舌」。八角や肉桂、茶葉などと一緒に醤油で煮込んだ後、冷ましてから出され、比較的あっさりとした味。また「下酒菜(酒のつまみ)」としても人気があり、こちらは醤油にネギやニンニクを加えて炒め、かなり濃い目の味付け。最近はビールやコーラを加えて煮込むと、肉が柔らかくなりおいしいということで流行っているとか。
舌の中央と付け根には骨があるので注意。その周りの肉をこそぎ取るようにして食べる。〝舌〟だけあって、牛タンと同じように弾力があり、脂っこくなく、醤油の味付けも濃厚でおいしい。スーパーのおつまみコーナーで、そのまま食べられるおやつとして売られているのでぜひお試しあれ。
アヒル食材の新星
「鴨脖」、もしくは「鴨脖子」と呼ばれるアヒルの首。2、3㌢程度に切り分けられたものが多いが、スーパーなどでは、12㌢ほどの首が丸ごとぶら下がっている。骨の周りの、弾力のある歯応え抜群の肉を楽しんだ後に、骨の中にあるゼラチン状の骨髄を吸い出すのがツウの食べ方だ。レストランでも食べられるが、スーパーのおつまみコーナーで購入できる真空包装タイプもオススメ。味はビーフジャーキーに似ていてピリッと辛く、つい次々と手が伸びてしまう。一口サイズなのも◎。
「鴨脖」が中国全土で食べられるようになったのは比較的最近で、1990年代にある商人が四川省で秘伝のタレを習得し、それを湖北省の武漢に持ち帰り売り始めたのが始まり。武漢では今や首の早食い競争が行われるほど、市民のソウルフードとして愛されている。
食べると運が付く?
焼き鳥で「マツバ」、すなわち鶏の鎖骨を食べたことがあるだろうか。肉は少ないが、旨みが凝縮されていると人気の稀少部位だ。アヒルの鎖骨「鴨鎖骨」も同様、「周黒鴨」や「久久丫」などアヒル料理テイクアウト専門店でしかお目にかかれない。〝Y〟の形をした骨の塊は手にズシリと重く、どこから食べ始めていいのか見当もつかない。中国人に訊くと、2本の鎖骨の付け根の肉や軟骨がおいしいとのこと。
甘辛のタレは、後からじわじわと辛さが増す。試行錯誤を重ね、大きな骨をしゃぶり終わった後は奇妙な達成感がある。
因みに欧米では、家禽類の鎖骨を「ウィッシュボーン」と呼び、2人で両端を持って引っ張り、長い部分を取った方が幸せになるのだとか。食後に遊んでみよう。
栄養満点、国民的おやつ
焼き鳥の「砂肝(砂ずり)」が好きな人なら「鴨肫(アヒルの砂肝)」もきっと気に入るはず。まずはコンビニやスーパーで、食品メーカー「立豊」や「来伊份」が販売する、個包装された一口サイズのものからトライしてみてほしい。
うす塩風味の、コリコリとした食感で、鶏のそれとさほど変わらない。これではちょっと物足りないという人は、「周黒鴨」などの専門店で約150㌘の「鴨肫」を丸ごと買ってくれば、ニワトリより約30倍大きい砂肝の塊に、大口を開けてかぶりつくという体験ができる。
中国では砂肝と言えばアヒルのものが主流で、老若男女全般に人気だが、亜鉛や鉄分、葉酸を多く含み低カロリーなので、特に女性にオススメしたい。またレストランでは薄くスライスし、炒めものやスープにして出される。
家庭の食卓に登場
アヒルのレバー「鴨肝」はしばしば、前述の「鴨肫」や「鵝肝(フォアグラ)」と混同される。こちらもニワトリやブタのレバーと同じように、やや臭みがあり独特の食感なので、好き嫌いが比較的はっきり分かれるだろう。
おやつとして売られている「鴨肝」は匂いが強く苦味もあるので、よほどのレバー好きでなければ食べにくいかもしれない。しかし「鴨肝」は「レバニラ炒め」のように簡単に調理でき、「菠菜鴨肝湯(アヒルのレバーとホウレンソウのスープ)」や「双椒孜然鴨肝(青・赤ピーマンとアヒルのレバーの炒め)」、「鴨肝香芹粥(アヒルのレバーとセロリの粥)」など、メニューのバリエーションも豊富。価格も安く、ビタミンA、ビタミンB群、鉄分などが豊富で貧血予防に良いとされることから、食卓に登場する機会も多い。
プリプリのホルモン
アヒルのホルモン「鴨腸」は、幅5㍉、長さ4~5㌢程度に切られ、柔らかいゴムのような食感が楽しい、火鍋屋や串焼き屋でよく見るメニューだ。
鴨腸を使った料理は全国各地で作られているが、おつまみ用の鴨腸はほとんどが四川・湖南省の〝香辣〟や〝麻辣〟味で、なかなかの辛さ。セロリやパクチー、玉ネギと鴨腸をジャッと炒めた「炒鴨腸」や、串に「鴨腸」をクルクルと巻き付け焼いた「燒烤鴨腸」、鉄板で甘辛いソースとともにジュウジュウ焼いた「鉄板鴨腸」など、シンプルに調理されたもののほうが食べやすいかもしれない。
また安徽省の特産で、「鴨掌(アヒルの脚)」と「鴨心(アヒルの心臓)」を長い鴨腸でグルグル巻きにした「鴨脚包」は、1つで3度おいしいとおみやげにも好評だ。安徽省へ旅行の際はぜひお試しを。
食べればお肌ツヤツヤ
〝外国人がビックリする中華料理〟の1、2位を争う鶏の脚「鶏爪」。その2倍ほど大きく、さらに水掻きも付いたままの「鴨掌(アヒルの脚)」は、見た目は尻込みしてしまうかもしれない。
しかし「鴨掌」は「豚足」やニワトリの脚と同じでコラーゲンたっぷり。美肌を追求する女性にこそ食べてもらいたい部位だ。
肉はなく、脚の外皮を削りとるようにして食べる。まず脚先の爪を取り除き、第1関節から食べ進めていこう。骨が多く食べにくいのが難だが、甘辛い濃厚な味とプルンとした食感は、酒の肴に最適だ。
因みに中国語の「掌」は〝手のひら〟と〝足の裏〟の両方の意味を持つので、アヒルの〝脚〟でも「鴨掌」と書く。高級中華料理の「熊掌(クマの手)」も性格には〝クマの脚の裏〟を意味するのだ。
~上海ジャピオン2015年12月11日発行号