中国の現代小説への入口として、まずは文芸雑誌を読んでみるのがオススメ。最新の中国文学に触れられるのはもちろん、掲載されている文の一篇一篇が短いので、慣れない中国語でも読破しやすい。お気に入りの作家を見つけてみよう。
若手作家の登竜門的雑誌
中国で最初の青春文学雑誌として圧倒的な知名度を誇る文芸雑誌『萌芽』。日常生活の中で、学生や新社会人が体験する家族や他人との交流、大人がふと回想する幼き頃の思い出…など、読後感爽やかで心温まる小説を数多く掲載。等身大の人間を描く身近なテーマは、多くの読者の共感を呼んでいる。
また同誌は〝新人の登竜門〟としても有名だ。1998年から毎年、全国各地の著名大学と提携し「全国新概念作文大賽」を開催。〝中国文学のオリンピック〟と呼ばれるこの作文コンテストから、才能溢れる若き作家が次々と発掘されている。ベストセラー作家の韓寒や郭敬明、張悦然らも同コンテストで文才を見出された作家たちだ。
今は決して知名度が高くないものの、キラリと光る才能を見せる、将来有望な作家たちの作品を楽しんでほしい。
ショートショートの世界
中国語で「微型小説」、「小小説」、「一分鐘小説」と呼ばれる「ショートショート」は、中国では最近人気が出てきたジャンルだ。1500文字以内で完結するストーリーは、スルッと読めるものばかり。
この雑誌『微型小説2016年度作品』は小説アプリ「咪咕閲読」が、国内の各雑誌から選り抜きのショートショートを載せたもの。まるで昔話のような寓意に満ちたものから、摩訶不思議な世界観を描いたもの、アッと驚く結末が待っているものまで、色んなジャンルのストーリーが100篇近く載せられている。1日1篇読めば、中国語が上達するかも?
1980年代に生まれ、新しい価値観やライフスタイルから、社会の注目を浴びる「80後」。彼らを代表する作家として、突出した人気の2人を紹介しよう。
反骨的な青春文学・韓寒
17歳でデビューすると、〝韓寒現象〟と呼ばれる大ブームを起こし、一躍話題の人となった韓寒。後に高校を中退し、プロのレーサーとなってからも定期的に作品を発表し続けている。ブログやインタビューでの発言が話題になることも多く、アメリカ『タイム』誌で、「2010年度・世界で最も影響力のある100人」にノミネートされた。
反骨的で、問題発言が注目されがちな彼だが、作品内では、淡々とした語り口で時代を切り取る。『三重門』は『上海ビート』という邦題で、日本でも出版。また、若者たちのアウトローな日々を描いた小説『一座城池』をもとにした同名映画が2013年に、彼唯一の武侠小説『長安乱』が『喜楽長安』として2016年に公開されている。中国語力に自信のない人は、先に映画を観てから小説に挑戦してみては。
詩的なライトノベル・郭敬明
かわいい笑顔に適度に付いた筋肉。アイドル顔負けのイケメンの彼こそが、中国作家長者番付で3度のトップに輝き、常に上位をキープする超売れっ子作家・郭敬明だ。前述の韓寒とは、何かと比較されがちだが、作風は全く異なる。彼の作品の特徴はというと、幻想的な比喩を多用し、登場人物たちの心情を細かに描き出す表現力。その絢爛な言葉が生み出す、ドラマチックな少女マンガ的世界は、10~20代の女性を筆頭に、熱狂的なファンを生み続けている。
彼の作品『非傷逆流成河』は題を『悲しみは逆流して河になる』として日本でも出版。また、本人が監督を務める映画『小時代』は、自身作の同名小説が原作だ。
1980年代中頃から、伝統的なリアリズムの枠組みを壊し、新しい視点を持った実験的な小説が、次々と発表された。その作者らは〝先鋒派〟と呼ばれ、当時から現在に至るまで、中国内外において、高く評価されている。
不条理な世界に迷う・残雪
奇妙な状況下で、奇怪な人々が奇異な行動を取る。このような独特の文学スタイルを持ち、〝中国のカフカ〟と称される残雪。前衛的な作風はほかに類を見ず、中国国外での翻訳作品も数多い。最近はカフカやボルヘス、ダンテなど、欧米の文学作品の評論も精力的に行っている。
彼女の作品はまるで悪夢のようだ。世界は死や毒、血や虫で溢れ、さっきまであったものが今はもうない。多くの場合、登場人物すら何が起こっているのかわかっておらず、読者はこの不安や閉塞感に満ちた、不条理な展開に呆然とするほかない。彼女は作品内ではっきりとした答えを書かないため、ある人は作中に登場するものを何かの比喩ととって論理的な解釈をし、またある人は直観的に作品を理解するかもしれない。読む人によって形を変えつつも、精神の深淵へ何らかの影響を与える、そんな作品である。
人々のリアルな姿・余華
1984年に作家デビュー。初期の作品は、まさに〝先鋒派〟らしい実験的な作風だったが、92年に『活着』を発表し、ベストセラーとなった頃から、一般市民のリアルな姿を、歴史背景を絡めつつ描くように。その描写は、人々の欲望や感情が時にグロテスクなほど誇張され、作品発表後は度々、傑作か駄作かを巡り大論争が起こる。
2013年に7年ぶりの長編『第七天』を発表した後は沈黙を守っているが、次回作も評価が真っ二つに分かれることは間違いないだろう。。
~上海ジャピオン2018年11月9日発行号