~週末島旅~ 美しき島、嵊山・枸杞島へ

ネット上で話題の廃村

数年前、ネット上で〝美しき廃村〟と話題になった、コケやツタに覆われた廃村があることをみなさんはご存じだろうか? この村は、上海中心部からバスとフェリーを乗り継いで6時間ほど、東海に浮かぶ浙江省舟山市嵊泗列島の嵊山(シェンシャン)島に位置する「後頭湾(ホウトウワン)村」だ。

最初に、ここが廃村となったいきさつを簡単に説明する。この嵊山島及び隣接する枸杞(ゴウチィ)島は、ムール貝をはじめとする貝類の養殖漁業が盛ん。人の行き来が少ない島のため、手付かずの青い海が広がり、栄養豊富な水源で良質な海鮮が取れるのだ。

そのため、1970年代頃から漁業で裕福になっていく人が増加。より便利な生活を送りたいと、90年頃から島を離れる人が増えていったという。そしてついに、村民がゼロになってしまった「後頭湾村」は2002年、正式に廃村となった。

取材班もこの村を訪れたが、村は険しい崖に位置していて、周りには海と畑、必要最小限の店舗しかなく、舟山市へのアクセスは最低4時間…。村を離れたくなる気持ちは十分理解できる。

村民は消え、観光客が集う

その後手付かずとなった廃村の建物にはツタやコケが生え、村に佇む建物を覆い始めた。この様子を収めた写真がネットで話題になり、旅行客が増えた。ただし完全に観光地化されておらず、さほど混雑していないので、都会の喧騒や人混みが得意でない人が来るのにピッタリな土地と化している。

週末は気分を変えて、少し遠出の〝週末島旅〟にチャレンジしてみよう。次のページから、この廃村を含む島を1日観光した様子を紹介していく。

深緑に包まれた幻想的空間

〝美しき廃村〟後頭湾村の入口は、嵊山島の繁華街からタクシーで10分ほど進んだ場所にある。タクシーを降り、立派な墓がズラリと並ぶ横を抜け、勾配がやや強い坂道を下っていくと入村用のチケット販売所があり、そこで「入村料」(50元/人)を払って村に入る。

さらに少し進むと見えるのが、青い空に青い海、そして深緑に包まれた後頭湾村…!! その光景に言葉を失い、思わず「あぁ…。」と声にもならない声が漏れ出てしまう。ジブリ映画『天空の城ラピュタ』に登場してきそうな、ほとんど手付かずの廃村がそこにある。取材時は雲一つない快晴で、空・海の青さとのコントラストが素晴らしかった。濃い雲がかかっていても、幻想的な景色が見られるはずだ。

眼前に広がる青い空と海

廃村から20年経ってないということもあり、多くの建物はまだ残っているが、中への進入は禁止。険しい階段を下っていくと、砂浜に着く。ここは後頭湾村の名前の由来である後頭湾だ。この湾の水は、青く、透明。遊泳は禁止だが、足を浸す程度なら大丈夫のよう。一日中ここにいても飽きなさそうだが、時間に限りがあるため、名残惜しくも次のスポットへ。

夕焼けに燃ゆる赤き水平線

この時点で16時前後。この快晴なら夕焼けもキレイに違いないと、嵊山島の南東に位置する「東崖絶壁」(入場料50元/人)に向かう。ここは、東海に浮かぶ中国の島々の中でもほぼ最東端に位置。名前の通り、絶壁の上に歩くスペースが整備されているのだが、一部は険しい岩道が続く。人気がまばらで、視界を遮るものはない真っ赤に燃ゆる水平線に、思わずたそがれてしまう。6月初旬の日の入り時間は約19時だが、「東崖絶壁」の営業時間は17時半まで。日没は同スポットの入場門前で楽しもう。

取れたての貝・魚を食す

お腹が空いたところで、タクシーで島一番の繁華街に連れて行ってもらい、腹ごしらえ。海鮮麺や海鮮炒飯をはじめ、取れたての魚介類を使った料理が目白押し。また、食べたい海鮮を選んで作り方はおまかせというのも、どんな調理法で出てくるのかワクワクする。

ムール貝(貽貝)にアサリ(花蛤)、サザエ(蠑螺)、アゲマキガイ(蟶子)などの貝類、エビ、タコ、日本で見たこともない魚…と揃う。タクシードライバーのオススメ店では、ムール貝は蒸してそのままか酢に付けて、アサリはトウガラシやニンニクなど中華風のピリ辛な味付けで提供された。どれも身がプリッとしていて、1皿にドドーンと盛られた料理を次々と平らげていく。しかしいくつかのムール貝に、何か藻のようなものがくっ付いているが、おそらくエサを食べていた途中で水揚げされたのだろう。取れたてで加工されていないからこそ、ということでそこはご愛嬌。

今も残る漁村の生活風景

枸杞島も少しだけ見て回ったが、観光がメインの嵊山島に比べ、こちらはどちらかと言うと漁民の生活の拠点のようで、ビーチがチラホラ点在する程度だった。しかし漁業風景を間近で見学し、透き通った海水の中に泳ぐ稚魚を肉眼で確認することもできた。

今回の嵊山・枸杞島旅は、1泊2日でも十分楽しめた。一方で、嵊山島発着のフェリー乗り場から、近くの「壁下島」や「花鳥島」など、より小さくて観光客の少ないであろう島々が点在するので、1週間程度の休みを取って、近郊の島々を巡る旅をしてみるのも面白いはずだ。

~上海ジャピオン2019年6月7日発行号

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