中国人のソウルフードと言っても過言ではない、ザリガニ。しかし、中国人がザリガニを食べるようになった背景には、日本が関係していた!? 最初に、中国におけるザリガニ食の歴史を紐解いていこう。
日本から来たザリガニ
目的はウシガエルのエサ
中国にザリガニ、正しくはアメリカザリガニが入ってきたのは1930年代。日本人が中国に持ち込み、江蘇省南京市で養殖を試みたのが最初だったという。当時、アメリカザリガニはまだ食用ではなく、ウシガエルのエサとして重宝されていた。中国に輸入されたのも、カエルのエサにするため。実際日本も、18年にアメリカからザリガニを輸入し、ウシガエルのエサに用いている。
その後湖北省などで養殖が盛んに行われたが、食用として注目されるようになったのは60年代以降。この頃ようやく、レストランや市場にザリガニが出回るようになった。よって、ザリガニ好きは80年~90年代生まれ以降の若者がメイン。中高年以上の世代はザリガニに対し、あまり馴染みがないようだ。
今では中国は、ヨーロッパやアメリカへ向けて毎年15万㌧以上を輸出する〝ザリガニ輸出大国〟となっている。しかしながら、最近は国内でザリガニ食がブームとなり、養殖が追い付かなくなり、価格が高騰するなどの問題が起きているようだ。
空前のザリガニブーム
若者の変化がカギ
2017年、中国国内で消費されたザリガニの量はなんと190万㌧。中でも上海市は、ザリガニレストランの数が3907店に達し、国内有数の〝ザリガニ大好き〟都市になった。ファーストチェーン「ケンタッキーフライドチキン」の国内店舗数は、2500店余り…ザリガニレストラン数の多さに驚きだ。
ではなぜ、ザリガニがこんなにもブームになったのか? その理由として、若者の味の嗜好や、生活が変化していることが理由に挙げられる。特に上海の若者は、昔ながらの甘い味付けではなく、スパイシーな味を好むようになった。さらにナイトライフを楽しむ人も増えてきているので、辛い味付け、且つ夜食の定番であるザリガニが、急激に人気を得ているのだ。
我々日本人にとって、料理より、ペットとしてのイメージが強いザリガニ。食べるには抵抗が…なんて思う人もいるかもしれないが、中国をはじめ、ヨーロッパなどでは立派な食材として親しまれている。最近は料理のバラエティーにも富み、辛いものから甘いものまで様々な味付けのものが楽しめるんだとか。では次のページから、基本の食べ方と、ザリガニ料理最前線を紹介していこう。
硬い殼をバリバリ剥こう
さてまずは、ザリガニの剥き方をマスターしよう。最初に、片手で胴体を持ち、もう片方の手で頭を引っ張って、頭とハサミを取る。頭の部分は基本、食べられないのでそのままポイ。この時点でザリガニの半分以上を捨てることになり、もったいない気がするが、仕方がない。
次に腹の方から殻を剥いていく。が、硬い! エビと違い、結構指に力を込めないといけない。正直ちょっと面倒くさいが、殻が硬いのは、よいザリガニの証拠。新鮮なザリガニを食べられるのだ、と自分を言い聞かせながら頑張ろう。剥けたら、シッポを引っ張りスポンと抜いて。
仕上げに背わたを取る。身を、頭の方から上下にペリッと割けば、黒い筋が現れる。それが背わたなので、キレイに取り除いて。
中国人は剥くのがお好き?
さて、ようやく食べられる形になったザリガニ。ポイッと口に放り込めば、プリッとした食感と、エビのような味が美味。しかし、剥く前は手のひら以上の大きさだったザリガニが、食べる時は1元硬貨大の小ささに…。正直言って、非常にコスパが悪い。
どうして上海人は、こんなに手間が掛かる料理が好きなのか? 中国人にインタビューしてみると、夜中に友人としゃべったり、テレビを見たりしながらザリガニを剥き、長い時間を掛けて食べるのが好きらしい。う~ん、中国のお年寄りが、ヒマワリの種を食べながら、延々とおしゃべりしているのと同じ感覚なのだろうか? 手間暇掛けて剥く作業も、一種の魅力なのかもしれない。
なおザリガニ通の中国人、日本人は、ザリガニの頭を吸って、カニミソならぬ〝ザリガニミソ〟を食べたり、ハサミを割って中身を食べたりする人も。内臓を食べるのはあまりオススメしないが、興味があれば、通の人に食べ方を教えてもらおう。
かつては茹でて辛い味付けをするだけだったザリガニも、白熱するブームに伴い、料理の種類が増えてきた。今回は、市内に13店舗を展開する「沪小胖」で、人気の料理3品を紹介しよう。
①招牌龍蝦(ザリガニ)
ザリガニを炒めて味付けし、仕上げにサッと茹でる、昔ながらのザリガニ料理。スタンダードな料理だけに、各レストランの味付けが試される一品でもある。
食べ方は先ページで紹介した通り、手でバリバリと剥いていただく。手が汚れるので、ビニール手袋は必須。しかし濃い調味料と油は、いとも容易く手袋を貫通。どれだけ気を付けても、半日は指からこの料理の匂いが取れなくなるので、覚悟しよう。
ピリッと辛く濃厚な味は、ビールが進むこと請け合い。ちなみに同店ではこのほか、調味料にビールを加えたものや、辛味を強くしたもの、北京風味など5種類以上の味付けを用意。毎日食べても飽きない。
②氷鎮小龍蝦(冷製ザリガニ)
ドライアイスで煙をもうもうと立てながら運ばれてくる、インパクト大のザリガニ料理。茹でたザリガニを冷水で締めるので、キュッと引き締まった身が楽しめる。ザリガニ本来のエビのような味と、茹でる際に投入された、ほのかに甘い調味料が後を引く。ワサビと甜醤油が添えられていたが、付けなくてもおいしい。
③小龍蝦泡飯(ザリガニ雑炊)
ザリガニの殻を剥き疲れたらオーダーしたいこちら。ザリガニの身が、海鮮スープベースの雑炊にゴロゴロと投入されており、今まで1匹1匹苦労して剥いていた我々としては、なんて贅沢な! と感じる。濃厚な海鮮スープは美味。ちょっとしょっぱいので、〆として、2~3口いただくのがちょうどいいかも。
ニュース① ザリガニのゴミ分別
「上海でザリガニを食べるのは控えめに」という題目で、ニュースサイト「今日頭条」に投稿された1枚の写真が、瞬く間に話題に。キレイに解剖されたザリガニのパーツ1つ1つには、よく見ると「乾いたゴミ」「湿ったゴミ」の注釈が…。これは7月から上海市で始まったゴミ分別の新条例を受け、作成されたジョーク写真。もちろん実際は、こんなに細かく分けて捨てる必要はないし、ザリガニは丸ごと「湿ったゴミ」として廃棄しているが、眼は乾いたゴミ、心臓は湿ったゴミ、触角も湿ったゴミ…なんて、よくもまあ細かく分別したものだ。というかそもそも、ザリガニにはこんなに身体の部位があったのかと感心してしまう。
ニュース② 求人・ザリガニの殼剥き
生鮮スーパー「盒馬鮮生」が最近、ザリガニの殻を剥くアルバイトを募集。条件は30分で1500g以上のザリガニの殼を剥くことらしいのだが、大ぶりのザリガニでも500gで15匹は超えるので、30分で45匹のザリガニを剥くと考えると、結構な忍耐力と技術が必要なのかも。時給は50元ほどだから、高待遇? このバイトを始めると、手が毎日臭いそう…。
ニュース③ ザリガニを洗濯機で洗ってみた
ザリガニはブラシで洗い、泥をしっかりと落とす必要があり、下処理が面倒。そこに「洗濯機のような、業務用ザリガニ洗浄機が登場した」というニュースが飛び込み、「ならば家庭用洗濯機でも洗えるのでは」と、生きたザリガニを洗濯機に放り込む事案が全国各地で頻発。結果、洗濯機内にはミンチになった悲惨なザリガニが…。ネット上では「洗濯機の気持ちも考えろ」などのツッコミが入っている。
~上海ジャピオン2019年8月16日発行号