上海北の離れ小島
上海市の最北端にある島といえば「崇明島」。緑豊かなこの島に、観光やキャンプで行ったこともある人も多いのでは? そして今回紹介したい「横沙島」は、崇明島の下にある小さな島だ。ここは2020年現在も、周囲と繋がる橋や地下トンネルが通っておらず、フェリーでしか訪れることができない、ちょっとした〝秘境〟となっている。
横沙島は今から約160年前に水面に現れた、比較的新しい島だ。長江が運んできた土が積もってできた肥沃な土地では、現在も農業が盛んで、島には一面の田や畑が広がる。島にスーパーはたった3店、コンビニはゼロ。幼稚園、小・中学校は1校ずつ構える。
そんな小ぢんまりとした島で暮らす島民は、どんな生活をしているのだろう? 同島民有志で運営している微信公式アカウント「上海有個横沙島」を覗いてみると、最近のトピックとして、新鮮な牛乳の入荷予定日や、フェリー運航に関わる気象情報、迷い犬のお知らせなどが並んでいて、不自由ながらも素朴な生活が伺えた。
今後開発が進む予定
一方、そんな横沙島も最近、開発の波が押し寄せている。現在島の東側では、土地の拡大工事が展開。「横沙東灘園囲」と呼ばれるこの湿地部分が竣工すれば、島の面積は今の3倍にも。さらに今後、東に向けて5倍、6倍と伸びていく予定だ。
そして将来的には、軌道交通でも島にアクセスできるようになる。35年に竣工を目指している軌道交通崇明線では、支線として横沙島への路線を計画中だ。
そんなわけで横沙島を〝秘境〟と呼べる期間は、そう長くない。次のページでは、実際に行ってみた様子をレポートしよう。
黄色い長江を進む
横沙島へ上陸するルートは2つ。宝山区の「呉淞碼頭」からフェリーに乗る場合は約1時間、崇明区の長興島にある「長興横沙漁港」からだと約5分で到着する。今回は車をチャーターし、「長興横沙漁港」から上陸を試みる。
まず上海市街地から高速道路と地下トンネルを使い、長興島まで移動するのに1時間。そこから島をひたすら東に進むと、「長興横沙漁港」に到着する。フェリーの運賃は乗用車1台で往復40元、同乗者1人に付き5元だ。なお乗船時には、トランクも開けてチェックされるのでご注意を。
このフェリーは、島民の大事な足。乗船するのは観光目的の車や人だけでなく、大きな荷物を積んだ貨物トラックや公共バス、電動バイクに乗った親子まで、様々な人や物が混在する。約15分掛けてすべての車と人を収容した後、大きな汽笛を鳴らして出発。船が出発したら車から降り、船の2階に上って、しばし黄色く濁る長江の様子を眺めることができる。
田園風景を楽しむ
あっという間に船旅が終わり、無事に島へ上陸した後は、島中心部にある観光地「海島芸術田園」へ。紹介によると昨年リニューアルした同園は、320ヘクタールの広さを誇り、春は一面の菜の花を、秋には稲を使った〝田んぼアート〟を楽しめる場所だ。入場は無料。初夏の現在は、稲を植えたばかりなのでアートを見ることはできないが、田の間に渡された遊歩道と各所に設置されている展望台から、見事な田園風景を眺めることができる。ビル2階建てぐらいの高さの展望台に上って見渡すと、周囲には人がほとんどおらず、青々とした田んぼや畑の間を、トラクターがドッドッドッ…とゆっくり走っている。日本の農村にも似た景色と、懐かしい土の匂い、用水路をチョロチョロと流れる水のきらめきに、心がホッとなごむ。園中心部には子ども用の小さな砂場公園や、BBQコーナーも用意。よく整備されていて、蚊などの害虫が少なく、小さな子どもでものびのび遊べる環境だ。
のびのびとサイクリング
では同園を後にし、次の観光スポットへ移動する。島をぐるりと走る道路は車がほとんど走らないうえ信号もなく、両側の高い木が日光を遮ってくれるので、サイクリングにピッタリ。実際に取材した日も、多くの人がレンタサイクルや自前のロードバイクを使ってサイクリングを楽しんでいた。自転車レースなどのイベントも、年に1度開かれるようだ。なおレンタサイクルは、港を降りてすぐの場所で、「一米単車」という崇明区限定で展開するブランドの自転車を借りられる。賃料は1日75元。
本当に〝秘境〟だった…
さて次は、島の東側にある「湿地公園」を目指して走っていたのだが…目的地が見付からない! 地図を眺めつつ、周辺を走ってみるが、海沿いの道が延々と続くばかり。どうも閉園したか、入口が閉まっているようだ。ほかに、リサーチ予定だったプールや釣り堀を探してみるも、見付からず。新型コロナウイルス感染症の流行もあってか(?)、閉鎖や休業中のようで残念だ。
なお横沙島でも、BBQや田植え体験を楽しむ「農家楽(農業体験)」や、民宿を運営する企業が増えている。ところが外国人は宿泊不可だったり、団体でないと利用できなかったりと、外国人にはハードルが高いのが現状だ。さすがは〝秘境〟、一筋縄ではいかなかった…。我々外国人は隣の長興島か、崇明島で遊ぶのが関の山か…と、遊び足りない気持ちを残し、島を後にしたのだった。
~上海ジャピオン2020年6月19日発行号