小説で見る 上海の景色

コミカルキャラが上海を駆ける

作中に25人+3匹もの人が登場し、それぞれの運命が重なっていくドタバタ劇『ドミノin上海』。パワフルな人々が駆け回る上海は、今の上海をリアルに反映した雰囲気だ。

街中を疾走するデリバリー、それを取り締まる監視カメラや、広告塔も務める爽やかな交通警察官、ホテルで豪華絢爛なアートイベントを開く、現代アーティスト蔡〝強〟運…など、上海に住んでいればそうそう、知っている、よく見掛けるという出来事が盛り込まれていて、読んでいて楽しい。どのキャラもユーモアに溢れて明るく、パンダやイグアナも活躍。それぞれのストーリーが一つの結末に向かっていく爽快感は、さすが恩田氏の作品だ。

最初のページには架空の可愛らしい上海マップが描かれていて、リアルと比較したくなる。

 

悩めるハーフの子どもたち

中日ハーフの子どもが、中国語の〝学び直し〟に1カ月間の上海留学へ飛び立つ。『真ん中の子どもたち』作者の温又柔氏も、中国台湾生まれ、日本育ちという経歴を持つ。

主人公の琴子は日本国籍だが、母の影響で中国語がある程度話せる。ほかの日本人学生とともに中国語を学ぶが、ほかの学生より中国語が達者でも、訛りがあると指摘され、心理的に孤立してしまう。また、同じような境遇の2人の友人でも育った境遇が微妙に異なり、それが言語に現れてくる。

この物語で登場するのは、ガイドブックに必ず載っているような観光地。観光者だったら必ず聞かれる「あなたどこの国の人?」「中国語話せるの?」という質問が彼らを苦しめると同時に、自分のアイデンティティについて思いを深めていく。

 

人造ウイルスに立ち向かえ

『華竜の宮』など数々のSF大作を生み出し、中国でも人気の作家、上田早夕里。彼女が上海を舞台に執筆した『破滅の王』は、人類を死に至らしめる治療薬皆無の人造細菌をテーマに、国際情勢や人々の思惑が複雑に絡む、歴史フィクションだ。

上田氏がこの作品を書こうと思ったきっかけが、上海にある「上海自然科学研究所」の存在を、日本人にももっと知ってほしいと思ったことだという。同研究所で働く主人公・宮本は、科学は国境を越えるという研究所所長に同調し、一科学者として正しくあろうとするも、時代の流れに絡めとられていく。

人類の危機に、世界は一致団結できるのか? 迎える結末は、奇しくもコロナ禍にいる私たちにとって、とても深く考えさせられるものだ。

 

人類が海底へ消えた世界

全80ページのSF短編小説『蒼の上海』は、少ないページ数ながらも、壮大な設定とスピーディーな展開で、読み応えのある作品だ。

藻のような異生物「蒼類」が生物を乗っ取って地球を制圧し、地表から光を奪った世界。蒼類が呼吸器器官から侵入してくるので防護服とマスクを外せず、暗闇の中で音を立てずに地表をさまよう、主人公アニカ含む人造人間「イレニアム」の動きは緊張感たっぷり。ストーリーが進むにつれ、現実と幻、人造人間と人間、あらゆる境界線があいまいになってくるなかで迎える結末が美しい。

物語の中の上海は現実と似ても似つかないが、普段のハイテクで活気溢れる上海で暮らしている私たちだからこそ、人々が消えた上海の寂しさ・虚しさが身に染みる。

 

~上海ジャピオン2021年9月3日号

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