旬の味覚を求めて、ぶらり陽澄湖へ
湖からの贈り物
湖から網籠を引き上げると、その中には数え切れないほどの上海蟹がいた。
「もっと近くで見たい」とお願いすると、地元の漁師は誇らしげな表情で網籠から大きな蟹を一匹取り出し、木製の足場の上に置いた。強い日差しを嫌ってか、蟹も日陰を目指して得意の横歩きを始める。そんな蟹を捕まえて裏返し、お腹を見る。雄か雌かを確認するためだ。白い横じまのお腹に三角形の裂け目があるのが雄、横じま以外何もないのが雌のしるし。『10月の雌、11月の雄』と言われるように、10月は雌の卵、11月は雄の白子が食べ頃になる。蟹が雌であることを確かめると、プラスチックケースに移してその蟹をキープし、再び網籠に目をやっては、大きそうな蟹を指差して漁師に取り出してもらい、同じようにお腹の模様を確かめた。最終的に購入したのは4匹。漁師が蟹を紐で結びながら、「ここで食べるのか?」と言ってきたので、首を縦に振った。
ここは昆山市の西に位置する陽澄湖渡暇村。上海から昆山市までは電車で約45分、陽澄湖渡暇村までは、そこからさらにタクシーで約25分。上海蟹の販売のほか、水上レストランやホテル、モーターボートなどを備えたレジャー施設となっている。ここでの上海蟹の相場は1匹60元程度。陽澄湖産で標準以上の大きさがあるものがこの値段なら決して高くない。購入したものは、その場で蒸し蟹にして、水上レストランで湖を眺めながらいただくことができる。
陽澄湖の上海蟹が愛される理由はふたつある。ひとつは、湖の水質がよくエサが豊富であるため蟹が大きいこと。もうひとつは、湖底が岩盤で泥が少ないため、蟹に臭みがなく、味がよいこと。陽澄湖産の上海蟹は、ブランド品として他の蟹より割高の値段がつけられる。
水上レストランの窓から陽澄湖を見回しながら、先ほど選んだ蟹が蒸しあがるのをしばらく待った。上海市内の高級中華レストランで蟹コースを堪能する贅沢もあれば、蟹を食べるために時間をかけて現地まで行き、取れたてのものを食べる贅沢もある。秋の日差しに湖面が輝いていた。
湖畔で過ごす午後
さあ召し上がれとばかりに、赤く蒸しあがった蟹が運ばれてきた。たっぷり詰まった蟹味噌が溢れだしている。
結んだ紐をハサミでちょん切り、熱い甲羅をゆっくり外すと蟹味噌が本格的に姿を現した。甲羅をすするように食べると、黄金色の味噌が舌の上からのどのあたりまで、とろりと流れていく。やはり上海蟹の魅力はこの濃厚な味噌にある。
雌の場合は、そこにプチプチとした卵の食感がアクセントになって加わる。足も蟹身が綺麗にスルリと抜け、プリッと柔らかい。鮮度が高い証拠だ。
併せて注文した「蟹粉豆腐」も、濃厚な蟹の風味が鼻に抜けていく、確かな味だった。
△蒸し蟹(時価)と蟹粉豆腐(60元)、冷菜(約10元~)
陽澄湖渡暇村ではモーターボートに乗ることもできる。料金は1隻につき70元(1隻は7人乗り)。風を受けながら湖をゆったりと周遊するのかと思いきや、船はいきなり加速し、水しぶきを上げながら右に傾いた。今度は左に。水平線がシーソーのように大きく揺れる。それを繰り返すこと5~7分間。そうこうするうちに、ボートは湖中心付近まで行き、くるりと引き返してスタート位置に帰ってきた。
降り際に、「ここでは、みんなこういう運転なのか?」と運転手に聞くと、「俺だからこういう運転ができる」と言い、口元をニヤリと歪ませた。
陽澄湖渡暇村を跡にし、南に15分ほど歩くと約180の店が軒を連ねる蟹市場が見える。店の外観はどれもほとんど同じだが、熱心に呼び込みをしている店もあれば、家族でトランプに興じている店もある。各店の裏には、船が繋いであり、そこで蟹を育てているようだ。相場は雄雌セットで小さいものなら30元~、大きいものは70元~。
この辺はタクシーが少ないので、市内へ戻る際は、バスが通りかかったら、手を上げて止め、乗車するといい。料金は市内まで4元前後。窓の外には、絨毯のように緑が広がっていた。この景色の色も、やがて季節が変えてしまうのかなと思いながら帰路に着いた。
上海に訪れた短い秋。旬の味覚を求めて、日帰り旅行をしてみてはどうだろう?
ちょっと寄り道~亭林園
昆山駅から西に1キロほどに位置する巨大な庭園。清代の文化人・顧炎武の像や寺院のほか、湖畔にベンチがあったり、子ども向けのアミューズメント施設を備えたりと、市民の憩いの場として活躍している。
◆入場料: 20元(年間チケット80元)
◆営業時間: 4:45~17:30
交通アクセス
◆電車で行く場合
上海駅→昆山駅
チケット10元~、所要約40分
◆バスで行く場合
上海長途南駅→昆山駅
チケット19元、所要約90分
上海長途南駅(上海南駅近く)
老瀘閔路399号 TEL: 5435-3535
◆昆山駅から陽澄湖渡暇村
タクシーで約50元、所要25分
~上海ジャピオン10月13日発行号より