珍味奮闘記②

七宝の小吃街を攻める

数日後、私とKのふたりは七宝古鎮にいた。
ここに来るまでバスの中でKに散々、ブタの鼻があるだの、孵化しかけの卵があるだの、という話を聞かされたので、すでにイメージトレーニングはできている。というか、なんかすごいものが出てくるかもしれないから覚悟しておこう、という感じです。もうこうなったら、どうだまいったか! とばかりに食ってやろうじゃないの。ひとり胸を熱くして歩いていると、見つけました。
屋台にバスの中で聞かされた珍味たち。「さあ、どれから食べます?」Kが輝いた目でこっちを見つめる。改めて思うが、彼は好奇心の塊だ。そのノーブレーキっぷりが一緒にいてたまに怖くなる。
それでは、まずはブタの鼻から。屋台のリンゴ飴のように、割り箸が一本豪快に突き刺してある。ぽっかりと空いた鼻の穴からは向こう側が覗ける。よく見ると、うぶ毛が…。ちょっとだけ勇気をだし、前歯の先っちょだけを使い、ちびっとかぶりつく。おや、これが意外と歯ごたえがありモチモチしている。
 続いてアヒルの頭。おでこの辺りに歯を立ててカリカリやるも、どうにも食べる場所が少ない。と思っていたらKがひらめいたように言った。「あ! もしかして舌を食べるんじゃないっスかね」
そういうと、アヒルの口ばしをカパッと開き、 アヒルと舌を絡ませた。唖然とする私をよそに、「アヒルの舌が舌の上でとろけますね」などと艶かしい感想を淡々と述べている。ええい、後には引けない。いざ! Kと同じくアヒルの口をカパッと開き、(以下略)。もうね、何が悲しくアヒルとディープキスをしなければならないのか。
私はもう三十路を越えているんですよ。そんなこんなで、葛藤を繰り返しながらも、次々とふたりして珍味を攻略していった。
最後に残ったのは「孵化しかけの卵」。多くは語りませんが、ぼくは卵の殻から雛を取り出したところでギブアップ。Kは舌の上に乗せたまま、口を動かさずしばらく遠い目をしていたが、「毛が…」とだけ言い残し、口から出した。これにはふたりとも白旗をあげた。どうだまいったか! どころか完全に参りました。こうして、2度にわたるふたりの珍味奮闘紀は終わったのである。

それから数日後、再びKから電話が入った。
「杭州でトノサマバッタとセミの幼虫を見つけました!」
私は、無言でそっと受話器を置いた。

珍味紹介

鴨脚寳
鳥類/カモ科
3元/個。指と指の間にある水かきは、コラーゲンたっぷりで美肌効果大。

鵪鶉(うずら)
鳥類/キジ科
4元/個。肉は燻製に近く、香辛料も少し効いている。お酒によく合う。

鴨頭(アヒルの頭)
鳥類/カモ科
3元/個。舌の部分は多く含む健康食品。トロッとした食感がある。

喜蛋(孵化間近のアヒルの卵)
鳥類/カモ科
栄養満点であり、精力として扱う国もある。味はまさに卵と鶏肉の中間の味。

蝗虫(バッタ)
節足動物/昆虫/バッタ科
高タンパク食品。サクサクした食感だが、竹虫と同じく「もわっ」とする。

蝉(セミの幼虫)
節足動物/昆虫/カメムシ科
栄養価が高く、タンパク源として昔から食べられてきた食材。エビ系の味がある。

珍味あります
俸家村大酒店(雲南料理)
澳門路159号(×昌化路)
TEL: 6227-1465
営業時間:11時~22時半
※昆虫彩拼 198元など

小南国 虹梅路店
虹梅路3337号
TEL: 3208-9777
営業時間:10時45分~14時、16時45分~21時半
※大王蛇 1斤108元前後など

七宝古鎮
七莘路×漕宝路 雑穀
アクセス
911路バス
「万科城市花園」で下車。虹橋にあるバス停「水城路」からなら、運賃2元、所要約30分。下車後、徒歩10分。
地下鉄&タクシー
地下鉄1号線「莘庄」駅で下車。駅からタクシーで約25元。
※ブタの鼻5元/個、アヒルの頭3元/個、孵化しかけの卵1元/個など

杭州河坊街
(杭州市吴山広場近く)
アクセス
上海駅から電車で2~3時間、約30元(硬座の場合)
※トノサマバッタ、セミの幼虫など。季節によりない場合も。

~上海ジャピオン11月10日発行号より

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