おとなの工場見学

大人の工場見学の目的。
それは、実際に購入する製品について、楽しく理解を深めること。

上海市科学技術委員会より、青少年への科学普及を促進する「科普教育基地」として認定を受けている「明治製菓」と「ヤクルト」では、地元に根ざした製品を、との思いを掲げ、一般に向けて見学の門戸を開いている。

 

【明治製菓食品工業】

地産地消に向けて

「チョコレートは、メ・イ・ジ♪ 」といえば、日本育ちでこのフレーズを耳にしたことのない人はいないだろう。明治チョコレートは、今年創業92周年。こうして今まで多くの日本人に愛されてきた。
明治製菓は中国全土での販売に現地生産で対応すべく、2006年に上海工場の操業を開始した。今では、コンビニやドラッグストア、スーパーなど、どこにいっても見かける明治製品。その第一歩は、ここからスタートした。
その工場は、軌道交通1号線の終点?庄駅からタクシーで約20分の松江工業区に位置する。広い道路をタクシーで走ると、「Meiji」の赤文字を冠した白く大きな工場が目に入った。
建物入り口には、赤と白の明治カラーでできた4つの手洗い場が備え付けられている。衛生管理のため、見学者はまずここで手を洗って中に入る。

見学の前に

まずは、この日、同じく見学に訪れた上海の小学1~6年生の子ども達と一緒に、明治の歴史や、チョコレートのもととなるカカオの話、チョコレートの製造方法について説明を受ける。スクリーンに映し出されるチョコレートの秘密、製造工程、普段気にもとめずに食べていた製品の裏側を、皆食い入るように見つめていた。
工場の一般見学では、168㍍の見学コースが用意されている。ここでは、トロトロの液体チョコレートが成型され、最後に店頭で並んでいる形へとパック詰めされるまでの一連の光景を目にすることができる。
高鳴る胸を抑えながらいざ2階へ、チョコレート製造ラインの見学に向かう。

チョコレート工場

上海工場で生産しているチョコレートは、アーモンドチョコレート、一口サイズのブラックチョコレート、メルティーキッスなど約30種類。2階の見学通路から見られるのは、マカダミアチョコレートとメルティーキッスの製造ライン。このラインでは、ひとつのラインでチョコレートの型を代えて2種類を作ることができる。
チョコレートはどこだ? 探しているとスタッフの説明が聞こえた。「あちらから充填用のチョコレートが出てきます」。そういって指差したガラス窓の向こうには、天井からのびる銀色のパイプを通ったチョコレートが、下に向かって流れていた。とろとろとろとろとろ…。姿を決められる前のその流動的な姿は、これからどんな姿にだってなれますよ、といった柔軟性を感じさせる。

形は型が決める

とろとろのチョコレートはこの後どこへ行くのか? まずは、型にはめられる。この日はメルティーキッスを製造していた。ヒトマス約1㌢四方の穴を140個備えた緑色の型が、ベルトコンベアに乗ってチョコレート充填機の方へと滑りこんでいく。
充填機に吸い込まれた型は、各マス完全に均等な量を頂戴していく。高い技術を駆使した充填の様子は、企業秘密ということで見ることはできない。しかし、あの小さな穴に正確無比に充填していくという充填機の実力を知り、「オレの仕事は職人芸だぜ」という充填機の誇らしい声が聞こえるような気がした。

温度の大切さ

型詰めされたチョコレートは、さらにベルトコンベアーに乗って行進を続ける。次の部屋は冷やし固める冷蔵庫、休みなく行進してきたチョコレートたちは、ここで30分~1時間の休憩をとる。チョコレートは休憩して姿をきゅっと硬くした後、今度は常に室内温度23度を保つ隣の部屋に出てくる。
チョコレート工場では、この温度設定に非常に気を使う。固める前の部屋の温度は、28度。高くてもだめ、低くてもだめ。少しの上下が、「雪のような口どけ」のメルティーキッスを始め、明治チョコレートの繊細な口溶けや見た目に影響する。
きっちり固まったチョコレートが冷蔵庫から出てくると、今度は型から外す。型から産まれ落ちたチョコレートたちは再びベルトコンベアーに乗って、メルティーキッス用のココアパウダーを纏いに向う。ふんわりとしたパウダーを身につけたら、ひとつひとつラッピングされ、箱詰めされて身なりを整える。そしてどこかの店頭で手にとられるのを待つのだ。


地域に根ざして

どんなアピールよりも百聞は一見にしかず、なのが工場見学。五感で体験した記憶は、簡単には消え去らない。
明治の社員には、小さい頃明治の工場見学に行ったことがある人も多いという。そして始動して数年の上海工場もまた、中国人の小中学生の見学を多く受け入れている。さらに数年後、数十年後、子どもの頃に見た明治工場見学の記憶が、子どもたちに明治への扉をノックさせるかもしれない。
明治はこれからも地域に根をはり、中国の人々に、そして中国に住む日本人に、もちろん国籍問わず多くの人に、より豊かな生活を提供していくだろう。日本では、「チョコレートは明治」というフレーズで親しまれてきた明治チョコレート。上海でもまた同じ意味の「巧克力就是明治」という言葉で、さらに広がっていく。

特集P2-1

【上海ヤクルト】

1日2500万本

子どもの頃、ヤクルトは少しだけ特別な飲み物だった。家にヤクルトのある日、帰宅すると母は決まって「ヤクルトあるよ」と声をかけてくれる。その言葉を聞くと、ランドセルをすぐに置いて、冷蔵庫を開けたものだ。
手のひらに収まってしまうほどのこの小さな飲み物が、世界31カ国で1日2500万本消費されている。上海でも、2006年に郊外で自社工場が稼動を始め、スーパーで、コンビニで、いつでも入手できるようになった。その上海工場で一般の見学を受け付けていると聞いて、行って来た。

世界のヤクルトへ

明治製菓の上海工場と同様に、上海市の科普教育基地に指定されているヤクルト上海工場。梅雨明けすぐの日曜日も、昼から見学バスが2台訪れ、中国人と日本人の親子連れが楽しそうな表情で降りてきた。一般の見学に対してとても歓迎的で、自社の製品を是非とも理解してほしいという熱意が伝わってくる。
工場の敷地面積は約4万7000平方㍍。最新鋭のヤクルト製造ラインが2本収納されている。フル稼働で日に約73万本、将来的には130万本に増産予定だ。外壁には、赤い「Yakult」のロゴが見えた。この中で、ヤクルトが作られている!


機械生産につき

工場見学のコースは、約1時間。ビデオ鑑賞約10分、ゲームで15分、製造ライン見学20分、試飲などで約15分。ビデオは、子ども用と大人用があり、それぞれに中国語、日本語のものがある。会議室でビデオ見学の後、待ちに待った製造ライン見学だ。
「歓迎光臨」(ようこそ)と文字が掲げられたゲートをくぐると、そこには長く伸びる見学用廊下。ガラス窓から製造現場を覗ける仕組みになっており、ヤクルトのタンクや、品質管理室、製造ラインなどを順に説明を受けながら見学していく。
まず驚いたのは、スタッフの数が非常に少ないということ。品質管理室の白衣スタッフ、ライン際で製品チェックをする数人の工場スタッフを除き、ほぼ全てが機械によって進行している。工場といえば、大勢の人が各工程毎に数十人単位でいるものではなかったのか? しかし、ここでは約100㍍の製造ラインが、名もない空容器を次々に「ヤクルト」へと変身させていく。

親の手の中で

天井近くのタンクが、ヤクルトを詰めるための空容器を次々と吐き出す。空容器は、くるくる回ったかと思うと、ベルトコンベヤーへと向かって起立。キレイなひとつの列になって、充填へと向かう。前の1本に追いつけ追い越せとばかりに、徐々にスピードを上げてカタカタカタと進み、充填装置へと吸い込まれる。ヤクルト充填。アルミ蓋、装着完了。ラベル、貼り付け完了。5本1パック、パック詰め完了。と、突然ラインが止まった。スタッフが集る。チェック。始動。再停止。チェック。動き出した。そうか、と思った。機械も人の子だ。親の手を完全に離れてはならないのか、と。
工場では、今日も休みなく機械が稼動している。「養楽多」のブランドを誇らしく身に纏った
ヤクルトたちは、こうして各家庭の冷蔵庫へと旅立っていくのだ。

~ジャピオン7月25日発行号より

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