「四川人不怕辣、
貴州人辣不怕、
湖南人怕不辣」
上の言葉を聞いたことがあるだろうか? 中国の激辛料理を食べる地域の人達を評した言葉だ。意味は、「四川人は辛くても恐れない、貴州人は辛いものを恐れない、湖南人は辛くないものを恐れる」ということ。言葉の感じからすると湖南料理が最も辛そうな気がするけど、結局どこが一番辛い?
今週はそんな疑問を検証すべく、中国の大型口コミグルメサイト「大?点?网(www.dianping.com)」で人気を集める四川、貴州、湖南の各料理店を訪れ、勝手に辛さ比べに挑戦してみた!
舌ビリビリの四川
四川料理代表店として訪ねたのは、まさに〝行列のできる〟四川料理店「辛香匯」。なんでも予約は2週間も前からがベターという人気ぶりだ。本場の味を再現するため「麻辣」の決め手となる唐辛子と花椒も、できる限り四川のものを取り寄せて使う。
早速、鍋の表面を唐辛子と花椒が埋めつくした「水煮鯰魚」に挑戦。辛さはなかなかだけれど、食べられないほどではない。が、辛さに安心し調子に乗って食べ進めると、くるりと丸まったナマズの身の内側に潜んだ花椒を噛んでしまい万事休す。唇と舌はビリビリ、唾液が駄々漏れな感覚に陥る。これが四川の「麻辣」の真髄だ。同店の総料理である許氏曰く、その痺れが気持ちいいのだとか。
許氏に、「中国一の激辛は四川料理?」と聞いてみたところ、「それはやっぱり湖南料理かな」とあっさり白旗。
湖南料理への期待(!?)が高まる。
静かに辛い貴州
本命の湖南料理との対決を前に、「酸辣」で有名な貴州料理に挑戦。貴州省から呼び寄せた料理人たちが腕を奮う店「黔香閣」に足を運んでみた。市内に3店舗を構え、上海では数少ないアテンドとして使える貴州料理店でもある。
純粋に「酸辣」を味わうなら、「山椒鳳爪」や「酸魚湯」を注文するのがオススメだが、今回はシェフ推薦の貴州名物の冷菜「功夫鳳掌」にトライ。皿には鶏の足の皮がこんもり盛られ、これを後味がほんのり酸っぱい朱色の唐辛子タレにつけて食べる。最初は「あっ、少し辛いかな」程度だが、このちょっとの辛さが静かに舌の上に居座り、ボディブローのように後から効いてくる感じ。鼻の下に粒状の汗が浮かんでくる。
ただ個人的に激辛というには少し足りなかったので、メニューの中で数少ない唐辛子マーク3つの貴州風「辣子鶏」を頼んでみるも満足のいく辛さは得られず。上海人の口に合うように少し辛さを抑えてくれているのかも。
舌ヒリヒリ辛い湖南
そしていよいよ最後は、四川料理店の総料理長が白旗をあげた本命の湖南料理。湖南料理店代表に選んだお店は、96年のオープンし、上海における湖南料理ブームの火付け役ともなった「滴水洞」だ。こちらも料理人は全て湖南から招いた本場の味を知る人。辛酸っぱい豆とひき肉を炒めた「酸豆炒肉末」や、スパイスたっぷりのスペアリブ「孜然排骨」は、日本人の間でも人気が高い。
激辛を求めて「とにかく辛いものをはどれ?」とスタッフに聞き、薦めてくれた「小炒黒山羊」にチャレンジ。湖南出身のスタッフが「これは唐辛子たっぷりだよ」と話す激辛料理だ。少しつまんで食べてみると、一口目からすこぶる辛い。それもそのはず。薄く切った肉に、唐辛子の種がプチプチとつきまくり。
経験上、激辛と言われる料理といえども一口目は「辛いけど、食べられないことはない」ということが多く、大抵その後数口食べた頃に辛さが本領を発揮し、ギブアップとなる。だが、この料理に関しては一口目から、いきなり自分の辛さ臨界点に達したのだろうか。お腹がメルトダウンすること必至な辛さだ。10口食べないうちに胃が熱くなり、口周りと舌はヒリヒリ…。
堪らず、「辛さに耐えられない時はどうすれば…」と助けを求めると、「そのヒリヒリが気持ちいい」と四川の人と恐るべし答え。ミネラルウォーターを口に含んだままじっと瞑想し、舌の上から辛さを拭おうとしたが効果なし。はい、ギブアップ。口をヒリヒリさせたまま店を後にした。
「就是辣!」が一番
冒頭の「四川人不怕辣~」の言葉の検証の結果、個人的には「辣」を追求したストレートな激辛の湖南料理に軍配をあげたい。滴水洞のスタッフに、「中国一の激辛料理は?」と尋ねると、「そりゃ湖南料理でしょ」と即答。ちなみに「四川は『麻辣』、貴州は『酸辣』、では湖南は『何辣』?」と聞くと笑いながら「就是辣!」と答えてくれた。
挑戦を終えて
お食事中の方は読み飛ばしてもらって結構です。案の定というか、刺激の強い激辛料理を食べ過ぎた結果、お腹はゆるゆるに…。口周りと舌のヒリヒリが、お尻に転移した感じ。日本人の胃腸は四川、貴州、湖南の人のように唐辛子の刺激に強くないので激辛を食べる際はほどほどに。
辛さにまつわるコレほんと?
唐辛子にまつわるウワサのアレコレ
痩せるとか、育毛に効くとか言うけど…
でも、それってホントなの?
上海グリーンクリニックの消化器系専門内科医、
松田綾先生に伺いました!
Q1、辛いものは、子どもが食べても大丈夫ってホント?
A、○ホント
四川省では、離乳食の終了あたりから辛いものを食べさせているという話もあるので、子どもだから辛いものはダメということはないと思われます。四川や湖南で、特に寿命が短いとか、癌などが多いと聞いたこともありませんしね。
ただし日本の学校給食などでは、味覚や身体に対する刺激が強すぎるということで、使用されていないようです。
Q2、唐辛子にはダイエット効果があるってホント?
A、△どちらともいえない
生活習慣と健康の因果関係からみると、唐辛子を多く摂っている地域の人には、肥満の割合が少ないことが分かっています。そのためか、唐辛子に含まれる辛み成分・カプサイシンを使った色々なダイエットグッズも販売されています。
ただし、それらが必ずしも効果があるかと言われると、「はい」とは言えません。その効果自体は現在のところ動物実験レベルでは認められておりますが、メカニズムに関しては仮説レベルにとどまっています。
なので、残念ながら人への効果については、まだはっきりと証明されておりません。
Q3、辛いものを食べる前に、牛乳やヨーグルトなど乳製品を取ると、食べた後に下痢しづらくなるってホント?
A、○ホント
激辛料理を食べた後、お腹が緩くなるのは、カプサイシンが胃の粘膜を刺激するためです。乳製品に含まれるタンパク質やカルシウム、ビタミンには、この粘膜を保護する役割があるため、事前に摂って保護膜を作っておけば、刺激を和らげてくれると思われます。
乳製品の胃粘膜保護作用は、アルコール摂取時などにも利用できますよ。
Q4、ついクセになる激辛料理。「辛さ」には中毒性があるって聞くけど、これホント?
A、×ウソ
確かに唐辛子が好きな人は、どんどん唐辛子の摂取量が増えていき、辛みに対する嗜好傾向が強くなっていくことが認められています。
ただ、味覚というのは順応しやすいもの。この場合は「中毒」よりも「慣れ」と言ったほうが適切かもしれません。
一説には、「辛みを食べた時のつらさ(舌の痛み)」を和らげるため、脳内麻薬とも呼ばれる「エンドルフィン」が分泌されるので、その心地よさを味わおうと病みつきになるのではとも言われますが、これも定かではありません。そして、この状態を一般的には「中毒」と表現するのかと思いますが、医学的な意味での「中毒=依存症」ではないですね。
Q5、カプサイシンに育毛効果があるってホント?
A、△どちらともいえない
育毛効果については、確かにある研究報告が出されています。名古屋市立大学の岡嶋教授らが、カプサイシンとイソフラボンを合わせて摂取する実験を行ったところ、育毛効果を発揮することが分かったという論文が、医学系雑誌にいくつか発表されております。これが本当なら、大変な朗報ですよね。私の父にも教えなければいけません(笑)。
しかし、この育毛効果については、別の研究者によって同じ結果が得られておらず、再現待ちの状態です。
~ジャピオン7月11日発行号より