健康×実践=中国武術
格闘ブームの日本。多くの男達が最強を目指し、日々鍛錬を続けている
健康と自然との調和を求める世界的な流行から中国武術への関心も高まっている
そこで、呉式太極拳の四代目継承者、馬海龍氏に中国武術について話を聞いた
――多くの日本人が太極拳を学ぶ理由として、健康に良いということがあります。具体的な効果にはどのようなものがあるのしょうか?
太極拳では、「軽霊」(チンリン)とよばれるリラックスした状態で行うことが大切です。これが、自律神経の働きを整えることになり、心拍数を下げたり、血管を拡張したり、唾液の分泌を促したり、内臓の働きを促進したりするのです。例えば、私達の調査で、長期間に渡り太極拳の修練を積んだ人はそうでない人に比べ、唾液の分泌量が75%増、発汗量が68%増などという結果があります。また、多くの人が太極拳を学んだ後、血圧が安定したといっています。
――体力に自信のない女性やお年寄り、子どもが、挑戦しても大丈夫ですか?
太極拳を始めるのに年齢の制限はありません。むしろ、体力のない人にこそやってほしいです。
――とりわけ呉式太極拳の修練をつんだ方には、長寿が多いと聞いています。
ええ。私の父(馬岳梁)は98歳まで、母(呉英華)も93歳まで、健康で長生きしました。他の流派のことは分かりませんが、太極拳は健康に良いということは確かです。
――最後に、読者も興味をもっていることだと思いますのでズバリお伺いします。実戦において、太極拳は武術として使えるのでしょうか?
はは(笑)。ゆっくりな動作などから、太極拳を健康促進の運動と思っている人も多いですが、それは間違いです。それはそれで(実戦において)役に立つこともあるんですよ。そのことについて多くは語りませんが、私の伯父が1954年、澳門で行った試合やなど、太極拳が武術であると証明する話はいくつかあります(編集部注=呉式太極拳の呉公儀(55)と白鶴拳の陳克夫(30)が1954年、マカオで対戦し話題になった。一般に呉陳比武と呼ばれる)。
ただ、太極拳で大切なことは、古人の言を借りるなら「想推用意終何在、益寿延年不老春(太極拳の意図は結局どこにあるのか、その益は長寿にある)」ということです。
馬 海龍 73歳
上海鑑泉太極拳社社長、呉式太極拳の四代目継承者。呉式太極拳の開祖である呉鑑泉の孫で、馬岳梁と呉英華の息子として幼少より太極拳を学ぶ。定年まで長寧区人民医院臨床実験室に勤務し、実験室主任、副主任技師などを歴任する
カンフーシューズで太極拳に挑戦!
上海の朝の風物詩のひとつともなっているのが太極拳。普段、何気なく見ているけれど、実際にはどんな鍛錬をつんでいるのだろうか? 知っているようで実は知らない、そんな奥深い太極拳を解明するため、ジャピオン取材班が、呉式太極拳の成人初級クラスの門を叩いた!
動きやすい服装で
参加者の多くは、仕事帰りの中国人。まずは、シルクで作った動きやすいチャイナ服、いわゆる〝太極拳服〟に着替え、靴底の薄いカンフーシューズを履く。各自で軽い準備体操をして、全員揃ったところで練習がスタートした!
この間、日本の武道の礼節のように厳格な決まり事は少なく、和やかな雰囲気。一方、取材班一同は、初めて袖をとおす〝太極拳服〟に感化されてか、いつになく真剣な面持ちで、早くもいっぱしの武術家気分に浸っている。
連続した動作は套路
礼が済んだら、前回までの復習をかねて、「套路」(タオルー)とよばれる、一定の順序に従って連続した動作を行う。この「套路」、空手でいうところの〝型〟のようなものだと思えば分かりやすい。さらに、一つひとつの動作は「式」(シー)とよばれ、各クラス、個人の力量に応じたペースでこの「式」を覚えていく。そして最終的には、「式」がつながり連続した動作(今回教えている呉式三十式太極拳は、全30の式が繋がったもの)である「套路」へとなるのだ。先生の動作を手本にしながら、初めての取材班も、見様見真似で周りの兄弟子達についていく。
肉体と精神の準備
肩と水平になるように両手をゆっくりと前方へ上げ、呼吸を正したら、肘から先にゆっくりと腰の高さまで落とす。「套路」では、動き始める前に精神と肉体を整えるこの動作が肝心になる。「太極拳では、一般に呼吸法を大切にすると言われていますが、これも大切なのはいかに自然体で行うかどうか。始めたばかりの人は、無理に呼吸法を規定通りにあわせるよりも、普段自分のしている呼吸のペースに合わせて〝吸って〟〝吐いた〟方が良いのです」と説明するのは、初級クラスを教える呉福東先生。周り練習生も、ひとつの動きを始めるたびに、呼吸を正し、精神と肉体を整えている。
この日は、新しく5つ目と6つ目の「式」となる「第五式・白鶴亮翅」と「第六式・楼膝拗歩」に挑戦。「足を開く幅は肩幅と同じに、左右のつま先を平行に」など、細部にわたって規定がある。「呉式太極拳はとりわけ足の運びを精密にしています。それは猫の歩行のように行うのです」と実践を交えて、馬海龍老師が披露してくれた。最後に再び、新しく習った「式」を加えた「套路」を数回繰り返して、本日の練習は無事終了!
ところで取材班の方はというと…、「套路」4順目にして、足がピクピクしてギブアップ。「見るのとやるのでは大違い。続けるうちに額から汗がじんわりと出てきた。筋力とかではなくて、体の柔軟さや基礎体力が重要な要素だと思う。公園のおじいちゃん、おばあちゃんを見直しました」(編集S)と、にわか武術家は力無く語った。
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上海鑑泉太極拳社では、古北新区と静安寺の2カ所で、それぞれ毎週1回、成人を対称とした初級呉式太極拳クラスを開校している。4カ月全16回で呉式三十式太極拳をマスターできる(4カ月ごとに新規受講生を募集しているが、途中からの受講も可能)。授業料はともに1回200元。お問い合わせは6468・9345、または136・0181・3003(汪?・中国語)まで。
古北新区クラス
住所:虹許路788号(×古羊路)
古北名都城倶楽部舞踏房
日時:毎週火曜日19時半~20時半
毎週土曜日14時半~15時半
静安寺クラス
住所:延安西路64号(×万航渡路)
中国福利会少年宮1105室
日時:毎週水曜日19時半~20時半
~上海ジャピオン2月2日発行号より