若手アーティストの発掘
残された作品に彩られる
2011年秋、外灘地区の和平飯店南楼が、
「スウォッチ・アート・ピース・ホテル」として正式オープン。
100年の歴史を持つオールドホテルを、
〝アーティスト・イン・レジデンス〟
をメインとした複合アート施設として
蘇らせたのである。
スウォッチといえば、
1980年代にポップなデザインの腕時計を販売し、
若者に人気の高いブランドだが、
85年にキキ・ピカソが限定モデルをデザインして以来、
アートと深く関わるようになった。
これまでにコラボしたアーティストは数多く、
横尾忠則や越井隆、
キース・ヘリング、ナム・ジュン・パイク
などが名を連ねる。
また、若く才能豊かなアーティストの育成に貢献し、
アワードも設けている。
アーティスト・イン・レジデンスとは、
芸術家の滞在型創作事業のことで、
アーティストたちはここで
作品制作に没頭することができる。
ここでは入居期間は期限を決めず、
条件は「退去時に作品1点を残すこと」のみ。
また、応募資格は誰にでもあり、
知名度や個展開催歴などは
審査基準の対象としないとのこと。
現在までに作品を残したアーティストは2人、
うちフランスのアレクサンドラ・ジョリーによる
「スキン・オブ・サウンド」
が3階ラウンジの壁に大きく掲げられる。
今後、世界中の芸術家による作品が
次々と残されることが期待できる。
今後の都市計画にも芸術的構想が
多く含まれる上海。
世界のアートマーケットとして発展し続ける。
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地下鉄直結の複合施設
上海の新ランドマーク
7号線「花木路」駅から地下直結の
「ヒマラヤセンター」。
ここはホテル、美術館、シアター、映画館、
高級ブランドショップに
アミューズメントなどの複合施設として造られ、
ホテルに続き、昨年末に美術館がプレオープン、
ショッピングモールは今年夏以降に開業する予定だ。
同センターは、
国内外を通じ幅広く活動する
日本人建築家・磯崎新氏が設計を手がけた。
ファサード・通路部分に曲線が多用され、
そのボリュームと存在感に圧倒される。
中に入れば、まるで動物に飲み込まれたかのような
感覚に包まれ、建築物自体が芸術作品であり、
建築家とはアーティストなのだと納得させられる。
美術館では、2月19日(日)まで、
「チョコレート・ワンダーランド」
と題したテーマパーク的エキシビジョンが行われている。
会場内は甘い香りが漂い、
チョコレート製の兵馬俑に外灘の街並み、
中国服、またアニメのキャラクターなど様々な
〝チョコレート・アート〟を楽しむことができる。
今後の展覧会については未定で、
常設展は設けない形で運営されていくという。
また、同美術館隣には、
ジュメイラ・上海ヒマラヤホテルが建つ。
シノワズリ・テイストのエントランスは、
訪れる外国人の目を楽しませ、
オリジナリティ溢れるセンスが中国の文化と融合している。
今後、上海の新たなランドマーク
となるであろう同センター。
大きな期待を持って見守って行きたい。
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旧工場建築が創作の場に
アジアアート界の新拠点
1919年に建設されたこの場所は、
かつて紡績工場だった。
跡地となった今も、これらの建造物が工場として活用され、
商業の中心として栄えたのだということが、
圧倒的視覚を持って訴えかけてくる。
淮海中路にオフィスを有し、
上海市の芸術・文化の発展に尽力する
「紅坊文化発展有限公司」が
「上海紡績グループ」と手を繋ぎ、
ここを文化・芸術の発展の場とすべく膨大な資金を投じた。
「半島」の名が付いたのは、
細長い区画の両側を川に挟まれていることによるという。
現在、紅坊芸術設計中心の事務所が入居する
10号棟には、美しい漆器やオブジェが展示されているほか、
上海のオリジナルブランドを取り扱う
アートショップ、日本人がプロデュースした「倉カフェ」
が入っている。
また、13号棟には、東京都庁に作品が展示されている
日本の芸術家、関根伸夫のアトリエが、
18号棟には、昨年草間彌生や奈良美智の作品展示会を
行った「日本文化村」があり、
日本のアート界を盛り上げる若手芸術家が
アトリエを借りている。
日本のアートがアジアを、世界を意識し、
続々と拠点を移し始めているのだろうか。
静かな工場跡地で、
黙々と創作活動に打ち込む芸術家たち。
時には、工場建築を好むマニアも建物だけを目的に
訪れるという。
今後は子どもから大人までが〝芸術〟というものに触れ、
誰もがクリエイティブな体験を出来る場にしていく
予定とのことだ。
閑静な倉庫群で創作活動
国際アート展の作品も
3つめのM50、こちらは市の中心から少々離れた
西北部にある。
年代物の倉庫群を改装し、
ギャラリーやスタジオ、
インフォショップなどが入居している。
倉庫は10棟以上もあり、とりわけ大きな5号楼は、
門を入った右手前方。
4階建てで、
廊下の両側に振り分けられた各部屋では、
芸術家たちがひっそりと創作活動に励むほか、
デザイナーのオフィスや、
浴衣・和服写真の撮影スタジオ、
鉄道模型「バックマン」のショップなども入居し、
鉄道マニアが足を運ぶ。
また、倉庫という特殊な構造を利用し、
柱のみを残した広い空間も多数存在し、
様々なイベントを催している。
ちなみに昨年9~10月に開催された「ポスター展」では、
国内外からおよそ30人のアーティストが参加、
大盛況に終わったという。
そのほか、8号楼には市内最大規模の画廊
「ShanghART Gallery」
が高い天井と広い空間を利用したスペースを構えている。
これだけの広さでなければとても展示しきれないような
大掛かりな作品が並ぶ。
中には、世界17カ国のアーティストと共に
日本の大学教員・ラジオアーティスト、
粉川哲夫氏も参加した
1996年の上海ファックス・アート・フェスティバル
開催時の作品展示スペースも設けられている。
広大なエリア内を歩き疲れたら、
1号楼のカフェでひと休みしよう。
食事メニューはオール30元以下と、お財布にも優しい。
約140年前の文化施設
若手の斬新な取り組み
上海外灘美術館、英語名を
「ロックバンド・アート・ミュージアム(RAM)」という。
ロックフェラーが1874年イギリス租界地時代、
〝バンド〟地区に建築した建物を改装し、
2010年にオープンした。
旧イギリス領事館など、
古き良き建築物が佇むこのエリアは、
黄浦江と蘇州河が交わるポイントで、
現代アートを扱う美術館が融け込む様は、
この地区に何とも相応しい。
この建物は1930年代、
「亜洲文会大楼」という文化施設で、
イギリス人が中国文化に触れる場として活用されていた。
2階はシアター、3階には図書館、
4・5階は展示室と、
一棟全てが文化施設として使われた。
そして一昨年、大幅なリノベーションが施され、
現代アート専門の美術館として生まれ変わる。
欧米から生まれた現代アートに関心を持つ
若手スタッフが運営し、
斬新かつ印象的なプログラムが組まれていることで、
国際的に注目を浴びている。
最近では、「問孔子」と題した、
上海とニューヨークで活躍する芸術家、
張?の個展が終わったばかり。
同展では、東京都の森美術館館長を務める
南條史生氏がキュレーションを指揮した。
次なる展示として、
3月10日(土)から中国台湾のマイケル・リン(林明弘)と、
東京の宮下公園を手がけた
「アトリエ・ワン」の作品展が控えている。
?~上海ジャピオン02月03日号