上海に4人だけの同郷者
人口約3万5000人、
世界で6番目に小さい国家・リヒテンシュタイン公国は、
スイスとオーストリアに挟まれた内陸に位置する。
多くの日本人にとっては、
馴染みが薄いかもしれないが、
宮崎駿監督のアニメ作品
『ルパン三世 カリオストロの城』の舞台モデルと噂される国、
と聞けば、イメージしやすいのではないだろうか。
現在、上海に在住する
リヒテンシュタイン人は4人のみ。
今回インタビューをさせてもらう
コーネルさんによると、
「僕はスイス人の集まりに出て情報交換しているんだ」
という。
両国は公用語が同じドイツ語で、
食べ物などの伝統的文化も似ているため、
共感が得やすく、
一緒に過ごせばホームシックも感じないのだという。
カルチャーショックは〝水〟
「上海に来る前の中国の印象は、
とにかく人が多い国ってことくらいだったんだ」
と笑いながら話すコーネルさん。
このため、来海後は、
環境や文化の違いに驚くことも多かった。
中でも一番ショックだったのが、飲み水だ。
「僕らの国は、
大自然に囲まれているから、
森へ出かけて、湖から直接水を飲む、
なんてことが当たり前だったんだ。
でもここではミネラルウォーター必須だろ」
と、頭を振る。
しかし、もちろん嬉しい驚きも。
「国際的で、スピード感のある刺激的な街だよね」
と若者らしい、溌剌とした様子で語った。
平日は、
プラスティック関連会社で働くコーネルさん。
週末には
ロッククライミングやスイミングに通う、
爽やかなスポーツマンでもある。
生活に必要なものは? と聞くと、
「PS3!」と即答。
自然を懐かしみつつも、
スポーツやテレビゲームなど、
元気いっぱいに、上海ライフを満喫している。
週に1度は必ずインド料理
インド人のスモナさんは、
南アジア最大の都市、ムンバイから、
夫の転勤に合わせて上海へやって来た。
元は2年の駐在予定だったが、
この街を気に入ったため延長し、今に至る。
「国際的だし、
買物に便利な街っていうのは大きな魅力よね。
でも一番は、治安の良さに惹かれたの」
と語るスモナさん。
当初は幼い長女がいたため、
生活環境には特別気を使ってきた。
バルコニーを始め、
部屋の至る所に、花や観葉植物を飾り、
優しく居心地の良い部屋作りを行っている。
また、社交的な彼女の家には
来客も頻繁に訪れる。
「料理は得意よ。
美味しいものを作るのも、
食べるのも好きだから、
しょっちゅう人を呼んで食事会を開いているわ」
とスモナさん。
幸い上海では、
インド料理に欠かせない
スパイス類のほとんどが、
比較的簡単に手に入るので、
週に1度はインド料理を作るという。
「食べないでいられるのは1週間が限度ね」
と、スモナさんはお茶目な笑顔を見せる。
インターナショナルな教育
話を聞いている途中、
長男のシャーン君が
取材スタッフに挨拶をしに来てくれた。
日本から来たんだよ、と伝えると
すぐにスモナさんが、
「そう言えば、日本から来た同級生は誰だっけ?」
と彼に問いかけた。
答えられず部屋に戻ろうとするも、
スモナさんは
「名前を教えてくれる?」
と優しくも力強く、
思い出すまで部屋に返そうとしない。
実はシャーン君の通うインターナショナルスクールは、
彼女の職場でもある。
論理的思考と国際感覚を身につけさせる、
世界最高水準と言われるインド式の教育が、
日常生活の中でも常に行われているのだ。
今では上海を
〝マイホーム〟だと感じるというスモナさん。
忙しく働きながらも、
家庭を大切にした日々を過ごしている。
好きな場所はギャラリー
ギャラリー「南岸芸術中心」で
広報を担当し、
各種イベントを取り仕切るジャクリーンさん。
イギリス・ロンドンからやって来た彼女は、
自分の仕事場でもあるギャラリーを、
上海で最も好きな場所だと話す。
そこは蘇州河沿いにあった
工場の1つを改造したもので、
展覧会のほか、
ファッションショーやコンサートも開かれる。
「コンクリートの硬質感と
木材の暖かさが融合した、
とても素敵な空間よ。
仕事でいつも関わっているのに、
たまの休みにも足が向いてしまうの」
と彼女は嬉しそうに語る。
仕事上、土日も関係なく、
忙しい日々を送るが、
様々な人や作品と出会える今の仕事が大好きで、
苦にならないと言う。
しかし、ストレスは溜まらないのだろうか?
尋ねると、
「そうしたら公園に出かけて、
スケッチをするのよ。
勉強したことはないから、
もちろんお遊び程度だけどね」
とスケッチブックを開いて見せてくれた。
忙しくはあっても、
自分の好きなものとナチュラルな感覚を見失わない。
上海はジェットコースター
彼女の家ではネコを1匹飼っている。
腕白で、寂しがりやなネコは、
我々が話に夢中になっていると、
彼女の気を引こうと部屋を駆け回っては
間に入ってじゃれつく。
しかし、
「もう、困った赤ちゃんね」と、
強く抱きしめて懲らしめる彼女の顔には、
とても優しい微笑みが浮かんでいるのだ。
彼女は、この〝彼〟ともまた、上海で出会った。
「この街は色々なもの、
出会いがすごい勢いで押し寄せて、
変化していく。
それもあるからこそ、
私は〝彼〟、
そして友人と過ごす時間を
大切にしているの」
と語るジャクリーンさん。
最後に、
「上海はまるでジェットコースターみたいね」
とネコに笑いかけた。
オフは家で静かに過ごす
毎晩のように
「JZ Club」や
「Cigar Jazz Wine」などの
人気ジャズバーで演奏し、
音楽祭に有名シンガーの伴奏にと
各地を飛び回るレオナルドさん。
舞台上の彼は楽しげで、
やんちゃな笑顔を浮かべ、
スティックを自在に操る。
思わず身体がスイングし始めるボサノバや、
周りの人と踊りだしたくなるサルサなど、
心地良いサウンドで聴衆を夢中にさせる
彼の上海ライフとは?
取材スタッフが家を訪ねると、
演奏中とは少し印象が変わり、
穏やかな笑顔で出迎えてくれた。
職業柄、様々なバーやレストランを訪れ、
数え切れないほどの人と交流する
レオナルドさんだが、
「一番好きな場所は自分の家かもしれない」
と静かに微笑む。
生活必需品はオーブン
レオナルドさんに、
生活必要なものは?
と尋ねると、
「オーブンかな。料理が趣味なんだ」
と、キッチンへ案内してくれた。
ミュージシャンとしての彼からは
想像がつかないが、
そこには使い込まれた調理器具が並ぶ。
「この前、友人に簡単なオープンサンドを作ってあげたら、
絶品だと喜んでたよ」
と、少し誇らしげな顔をする。
また、時間がある時には、
同郷コミュニティの活動にも参加する。
9月も盛大なイベントが行われたが、
「参加者は年々減っているね。
僕が来た当時は、1000人は集まったけど、
今では100人程さ」
と悲しげにこぼす。
上海に来てすぐの頃は、
自分のルーツを見失わないようにと、
ブラジル人であることを意識し、
演奏時に故国のサッカーTシャツを着たり、
国旗を掲げたりしていたというレオナルドさん。
「若かったからかな」と笑う彼だが、
まだ少し憂いの残る表情からは、
心に秘めた故郷への熱い想いが感じ取れた。
外国人の暮らし~学生編~
ファブリッシオさんは、
現在大学院で「病理学」を専攻中の、修士学生。
政府から奨学金をもらいながら、
放課後は翻訳バイトにも通う。
そんな彼にとって欠かせないのが、
ベネズエラやコロンビアなど、
ラテン系の友人たちとの交流だ。
週に3回、ライブが行われる
バー「Mural」に遊びに行き、
会話やサルサを楽しむ。
同店には、
スペイン語のフリーマガジン『HOLA』も置いてあり、
情報収集にも便利な場所なのだとか。
節約のため、
3年間で、1度しか帰国していないという
ファブリッシオさん。
家族や友人を大切にする彼は最後に、
「異国暮らしに一番必要なものは〝友人〟だよ」
と、熱いまなざしで語った。
大学の学部3年生として、
「ビジネス中国語」を学ぶアリーヤさん。
ここ数年、カザフスタンの若者に
大流行しているベリーダンスが得意で、
昨年は市内ジムでクラスも受け持ったという。
また、故郷の食べ物が大好きで、
帰国の度に、
チョコレートやハチミツなどの
お菓子や食材を、
スーツケースいっぱいに詰めて持ってくる。
そんなにたくさん? とつい笑うと、
「友達は、もっとスゴイわよ。
羊肉7kgを持ってきたんだから!」と彼女も笑う。
学生生活では、
1000人を超える同郷学生コミュニティの役員も務め、
忙しい日々を送っている。
しっかり者の彼女は、
若いうちに色々なことを経験したいと、
上海でも常に新しい挑戦を続ける。
マーモウドさんは、父親と2人暮らし。
大学院で修士学生として
「中国の政治と外交」を学ぶ。
現在上海にいるエジプト人5、6人のうちの1人だ。
修了後は帰国して、
大使館勤務を目指しているため、
図書館に通いつめて勉強する。
他大学のクラスも掛け持ちするほど勤勉だが、
〝ガリ勉〟タイプではない。
以前はサッカー、
今はバスケットボールチームに
所属する彼の部屋には、
MVPへ贈られるものなど、7つのメダルが飾られる。
文武両道を地で行くマーモウドさんだが、
遊び歩くタイプではないようで、
好きな場所やよく行く場所を聞くと、
照れくさそうに大学近くの、
留学生が集まるバー「Helen’s」の名前を挙げた。
~上海ジャピオン2012年9月28日号