上海無形文化食品を訪ねて

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国家級無形文化遺産
「歌舞伎」や「結城紬」、「京都の祇園祭山鉾行事」など、
日本でも多数の文化を登録する無形文化遺産。
その定義は、衣食住から祭事などの慣習、民俗芸能、
民俗技術といったもので、人々が日常生活の中で
生み出し継承してきた無形のもののうち、
特に重要なものとして日本の文化庁が認定している。
そして中国でも同様のものが存在し、「非物質文化遺産」と呼ばれる。
こちらは大きく分けて、国家の行政機関、
中国国務院が批准する「国家級非物質文化遺産」と、
市や省が選ぶ「市非物質文化遺産」の2つに分類される。
認定基準は、民間で親しまれ、
100年以上に渡って師弟によって相伝、継承されてきた
伝統芸能あるいは技術、民俗風習であるかということ。
前者の「国家級非物質文化遺産」には、
中国の古典芸能「京劇」や「昆曲」のほか、
中国影絵の「皮影劇」など、2006年の第1回発布から現在まで、
すでに518項目が登録されている。
また、中国では日本と異なり『白蛇伝』や『西施伝』など、
民間文学や民承伝説も範疇に含まれているようだ。
こちらに認定されるものは我々外国人にも
その名を知られるものが多く、国家の文化を代表し、
世界に向けて紹介されるために認定された文化と考えられる。

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中国非物質文化遺産のロゴ

150以上の登録項目
一方、地方の市・省によって選ばれたものでは、
例えば「上海市非物質文化遺産」の場合、
政府系メディア機関「上海市文化広播影視管理局」の認可と、
市人民政府の批准を要する。候補対象物は、
これらの審査を経て初めて、市の無形文化遺産として認定される。
基準は国家級のものとほぼ同じだが、
成立から何年以上などという、継承期間の制限は
特に規定されていないようだ。
またこちらは、市政府が07年より選定を開始し、
2年に1度発表することになっており、
これまでに3度の公表が行われている。
現在認定されているものは、
崇明島の民俗音楽「崇明吹打楽」や閔行区の伝統舞踊「手獅舞」、
演奏に合わせて即興で歌詞を作って歌う
「上海説唱」など、計157項目。
我々があまり耳にしたことがない名前が並ぶが、
すべて独自の発展を経て、上海市民に親しまれてきたものだ。

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「上海市非物質文化遺産」の民俗部門に登録されている、「龍華廟会」

伝統技術で作る食品
そして、今回紹介するのは上海市の無形文化遺産に認定された
伝統技術で作る食品。
現時点で登録されているのは全25品に及ぶ。
代表的なものに「南翔小籠包製作技術」や
「王家沙上海菓子製作技術」、
金山区の水郷・楓涇の特産「楓涇丁蹄製作技術」など、
庶民にとっては馴染みの深いものばかり。
中には、「国際飯店北京菓子製作技術」や
「上海老飯店上海料理伝統割烹技術」など、
老舗ホテルが提供している料理技術もあり、
特定の店の料理が含まれている。
では、次ページより「上海市非物質文化遺産」を代表する食品を、
詳しく紹介していこう。

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肉まんから小籠包へ
かつて、現嘉定区南翔鎮に住む黄明賢という人物が、
古猗園近くで肉まんを売っていた。
彼の肉まんは売れたが、ほかの商人たちも売り出したため、
黄明賢の商売はうまくいかなくなった。
そこで、肉まんよりも小ぶりで皮が薄く、
ひき肉と肉汁がたっぷり詰まったものを売り出すことに。
これが後に「小籠包(ショーロンポー)」と呼ばれるようになった。
ショーロンポーはたちまち評判となり、
黄明賢は「古猗園餐庁」という店を開いて大繁盛。
その後、豫園にて「南翔饅頭店」を創業したのである。
今では、餡の種類など改良が進んだが、
皮の薄さ、肉汁の比率などは当時のまま。
ショーロンポーの長い歴史を味わいたい。

【info】
南翔饅頭店
住所:豫園路85号(×九曲橋)
電話:6326-5265
開館時間:7時半~20時

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上海の広東系老舗菓子店
今や上海市を代表する老舗菓子店、杏花楼。
もとは清代、勝仔という広東の商人が開いた、
広東菓子と粥を売る店であった。
そして1927年、当時料理人として働いていた李金海が
代表に就いた時に転機が訪れる。
彼は店を4階建てに拡大し、翌年より月餅を売り始めた。
当時、脆い皮の月餅が多く出回っていた上海では、
皮が薄くて柔らかく、餡がたっぷりという広東式月餅は珍しく、
徐々に知名度が上がっていったという。
特に、中国神話に登場する女神、嫦娥(じょうが)と
月が描かれた缶に入ったものが人気で、これは今日でも販売されている。
今年の中秋節は、無形文化遺産に登録された月餅で楽しもう。

【info】
杏花楼福州路総店
住所:福州路343号(×山東中路)
電話:6355-3777
開館時間:7時半~20時半

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薬にもなった飴
見かけは氷砂糖のようで、一口かじるごとに、
心地よい甘味が口に広がる梨膏糖。
もとは、城隍廟にあった朱品齋なる店で売られていたものだ。
店を営んでいたのは、店主のお婆さん。
型に入れた飴に雪梨と呼ばれる梨のエキスを加えて
数時間置いた後、ひとつひとつ切る、という工程で作る。
朱家で代々伝わる配合で作った梨膏糖を
咳止め薬として出したところ、多くの市民が買い求めに来たという。
その後、豫園では次々と梨膏糖が売られ、
梨膏糖と言えば城隍廟と言われるようになった。
薄荷や生姜など、様々な味が楽しめる梨膏糖。
これからも庶民の咳止め薬として愛用されるに違いない。

【info】
上海梨膏糖商店
住所:文昌路41号(×旧校場路)
電話:2302-9999
開館時間:8時半~21時

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失敗品を改良
五香豆は、「不嘗老城隍廟五香豆、不算到過大上海
(城隍廟五香豆を食べていないなら、上海に来たとは言えない)」
という言葉があるほど有名な菓子だ。
同品は江蘇省の商人、郭瀛州が売り出したのが最初。
ある日、城隍廟で、ある男が焼いたソラマメを売っていた。
香りはよいものの、豆が生で味が悪かった。
郭瀛州はこれを見て、同じく豆を売ることに。
先のソラマメに足りないところを補い、
自家製調味料を用い、火加減を強くして焼いた
「五豆香として販売。すると、香りにつられて、
次々と客が買いに来た。これが今日の城隍廟五香豆になったという。
城隍廟に来たならば、梨膏糖と一緒に買っておきたい。

【info】
上海五香豆商店
住所:豫園老街104号(×九曲橋)
電話:2302-9999
開館時間:8時半~21時

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兄弟が作り上げた豚足
金山区の水郷、楓涇の特産として知られる楓涇丁蹄。
楓涇豚なる地場産の豚を使用し、
醤油、砂糖、黄酒、肉桂(シナモン)などと一緒に煮込む。
肉に染み込んだ甘味と柔らかさに定評がある。
同品を考案したのは丁兄弟。兄弟は清の時代、
楓涇の料理店「丁義興」を経営していた。
新商品の試作を繰り返すなか、
身が白く柔らかい楓涇豚を使った豚足を生み出す。
酒、醤油など独自の配合で作り上げたこの豚足は、
すぐに有名になった。
そして、彼らの苗字「丁」、豚足を意味する「蹄」を取って、
丁蹄の名称がつけられた。
楓涇を訪れた際は、この豚足を食べるのはいかが?

【info】
楓涇古鎮
住所:金山区楓涇鎮8588弄28号(×亭楓公路)
電話:5735-5555
開館時間:9時~18時

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役人の母の病を癒す
上海鼎豊醸造食品有限公司が作る腐乳(豆腐を塩水の中で発酵させたもの)。
第1回上海非物質文化遺産に認定された。
清の時代、北京から来た役人が、南橋鎮に訪れた。
帰り際、鼎豊の店主が手土産にと役人に腐乳を渡すと、
役人は、高官への贈り物に安価な腐乳を渡すとは
無礼だと憤慨し捨ててしまった。
店主はその後も腐乳を送ったが、役人はその度に捨てた。
しかしある時、役人の母親が、北京に帰る船上で病にかかった。
そこで手持ちの腐乳を食べさせると、母親はたちまち回復し、
体力を取り戻した。
この話が広まり、鼎豊腐乳が世間に知られるようになった。
これからも奇跡の腐乳として、市民に愛され続けることだろう。

【info】
上海鼎豊醸造食品有限公司
住所:奉賢区南橋鎮新建東路496号(×環城東道)
電話:5742-0319
開館時間:10時~

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3代に渡る伝統製法
中国で生産される醤油の中で唯一、
重要無形文化財に認定されている銭万隆醤油。
ドロッとしたとろみが特徴の「老抽(たまり醤油)」が有名だ。
この醤油は、原料となる大豆などを発酵させ、
約8カ月間日に晒した後に圧搾。
醤油になるまでに、1年以上を要するという。
同品は、1880年、現浦東新区に住む銭氏が製造を開始。
97年には、この醤油工場に
「官醤園(朝廷から認められた醤油口授)」の称号が与えられ、
盛期を迎えた。
一時、生産停止に追い込まれることもあったが、
現在も3代目が、当時と変わらぬ製法で生産し続けている。
上海のお土産として人に贈るのもよいかもしれない。

【info】
上海銭万隆大酒店
住所:浦東新区広蘭路778号(×祖冲之路)
電話:6355-9999
開館時間:11時~21時

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上海ブランドの白酒
神仙酒は白酒の中で唯一、上海市で生産、販売されているもの。
同文化遺産に登録されたのは、2011年で比較的新しい。
現在、「神仙東方明珠酒」や「上海老窖1608」など、
30種以上の銘柄が市場に出回っている。
製造元の上海神仙酒廠は、1958年に設立。
製品にはコーリャンや大曲(麹の1種)を使用し、
「発酵窖」と呼ばれる穴の中にコーリャンと麹を入れて土をかぶせ、
地中で発酵させる。
そして、蒸留を数回繰り返し、熟成させたものが製品となる。
市内のスーパーで販売されているので、
文化遺産に認定された味を気軽に試してみよう。

【info】
家得利超市瑞金二路店
住所:瑞金二路207号(×建国中路)
電話:6445-0128
開館時間:9時~22時

~上海ジャピオン2013年5月24日号

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