スキューバに必要なもの
水中には、我々、陸に生きる生物からすると、想像もつかないような世界が広がっている。凄まじい勢いで旋回し、嵐を巻き起こすイワシの群れ、流氷の下から見上げる太陽光の反射、極彩色のサンゴの森。スキューバダイビングでは、そんな神秘の水中世界を体感することができる。
そもそもスキューバとは、呼吸ガスを携行するための潜水器具を指す。これを用いて潜水するのだが、呼吸ができるからと言って、無限に潜り続けていられるという訳ではない。アマチュアの場合、最大深度40㍍、潜水時間は3時間を超えると危険とされている。海や湖など、レジャーを楽しむダイビングは「ファンダイブ」と呼ばれ、深度20㍍、約45分を1日に2、3回行うことが多い。
ダイビングに必要な器材は、①マスク②シュノーケル③レギュレーターセット④タンク⑤ウェットスーツ⑥BCD⑦ダイビングコンピュータ⑧ウェイト⑨ブーツ⑩フィンの10点。基本的なもので、全部身に着ければ約20㌔、かなりの重さになる。1セットそろえるとなると、約7500元(※タンクを除く)が必要だが、ショップでレンタルも可能。今回取材に協力してくれた「ビッグ・ブルー スキューバダイビング インターナショナル」では、一式250元(※タンク、ダイビングコンピュータ、ウェイトを除く)で貸し出す。ちなみに、タンクレンタルは、ほとんどの場合ダイビングガイドやツアー料金に含まれている。
色鮮やかな魚たちとたわむれる
講習終了認定のCカード
実は日本や中国では、レジャー目的の潜水に資格を必要とする規定はない。しかし一般的に、機材のレンタルやダイビング関連のサービスを受けるには、民間のダイビング指導団体発行の講習終了認定証「Cカード」の提示が求められる。この指導団体は、世界各地に存在するが、世界の海・湖を制覇したい、と考える人ならメジャーな団体で取得するのが無難だ。ダイバーの6割が所属すると言われる「PADI」や、日本で知名度が高い「NAUI」などの認定カードを持っていれば、世界中ほぼどこでも使える。
では早速、次のページから、「PADI」の初級ライセンス「オープン・ウォーター・ダイバー」への道のりを追って紹介していく。
「PADI」では、ダイバーの目的とレベルに応じ、各種技能認定を行う。今回紹介するのは「オープン・ウォーター・ダイバー・コース」。これを修了すると、ダイビングのための基礎知識&スキルを持ち、海況の判断や潜水計画を立てられる〝一人前のダイバー〟として認められる。コンディションのいい海で、ほかのダイバーとバディを組めば、インストラクターの引率なしで深度18㍍まで潜水可能になる。
「ビッグ・ブルー」では、学科講習10時間+プール実習8時間+海洋実習4回で、効率よくまとめられたカリキュラムを英語か中国語で指導。日本語教材を取り寄せることもできる。
ダイビングを〝理解〟する
学科講習ではテキストとDVDを用いて、水中の環境や、ダイビングに必要となる器材の仕組み、潜水計画の立て方やトラブル時の対処法といった基礎知識を身に着ける。実習と異なり、少々退屈するかもしれないが、水中においてはこれらの知識が必要不可欠。テストのために丸暗記をするのではなく、正しく理解するよう、しっかり学んでおこう。
ここでひとつ注意しておきたいのが、ダイバーの経験・年齢に関わらず、毎年各地でダイビング中の死亡事件が多数発生しているという事実だ。常にこのことを念頭に置き、油断することなく、何か予想外のことが起こっても、適切に判断できる知識と技術を身に着けてこそ、一人前のダイバーと言えるだろう。
プールで38スキルを学ぶ
プール講習では、海洋実習前に水に慣れることを目的とし、ダイビングを安全に行うために必要となる基礎的な技術を、38項目にまとめて指導する。
今回取材班に協力してくれたのは、上海人の呂さん。最近仕事で独立したことを機に、長年夢だったスキューバに挑戦しようと思い立ったという。インストラクターは、同じく上海出身のエイミーさんと、イギリス出身のハリーさん。実はこのエイミーさんも、同校にてダイビングを始めた。そして水中世界の虜となり、インストラクターの資格を取得したのだそう。2人とも、講習中はずっと呂さんから目を離さず、丁寧に教えていく。
浮力調整や呼吸法の技術
まずは、自らの命を預ける器材の準備と装着、調節から。学科講習で学んだ知識が、早速役立つ。ちなみにダイビングでは、ハプニングが起こった時に助け合えるよう、2人以上で潜るのが鉄則。潜水前の器材チェックや、重い器材を身に着ける時に助け合うこともできる。
必要なものをすべてまとったら、いよいよプールの中へ。保温効果のあるウェットスーツを着て汗だくになっていた呂さんが、気持ちよさそうな表情を浮かべる。そして、浮力調整ジャケット「BCD」の空気の出し入れ、水中での呼吸法など、順に学んでいく。水中での呼吸は、「レギュレーター」という装置を咥え、口から酸素を吸い、鼻から吹き出す。この装置は、我々にとっての命綱だ。講習はそのまま、レギュレーター内に水が入った時の排出法や、口から外れた時の対処法へと続く。呂さんはここまで、特に引っかかることもなく順調にクリア。手でOKマークをつくるハンドシグナルも、様になっている。
コツが必要マスククリア
少し難しかったのが「マスク」に水が入った時の排出法だ。これは簡単に言うと、鼻息を使ってマスク内の水を押し出すスキルである。ちょっとしたコツが要求されるので、慣れるまで少し時間がかかるそう。そしてこの後は、プールを2~3往復泳ぎ、本日の講習は終了。呂さんに初プール講習の感想を聞くと、「楽しかった!」と満面の笑み。未来の名ダイバーの誕生だ。
選べる海洋実習先
最後はいよいよ、海洋実習。プール実習で学んだ技術を、より深度のある海や湖で実践する。「ビッグ・ブルー」では、この実習を行う場所を浙江省の千島湖か、フィリピンのアニラオの2つから選べる。普段上海市内で働いているなら、市内から車で約4時間の千島湖がオススメだ。週末を利用して全4回のダイブが修了できる。
千島湖とは、1959年に水力発電所を建設するために造られたダム用人造湖で、湛水面積573平方㌔に、1078個の島が点在する。実はこの湖底には、明・清代の古城「獅城」、「賀城」のほか、1377の村落などが沈んでいる。つまり、ここでダイビングを行うと、湖の奥底に眠る古城を探検できるのだ。
神秘的な古城探検
千島湖は透明度が低く、視界は2㍍先が限界。さらに水温も低いため、初心者にとって少々難易度の高いスポットである。しかしインストラクターは、すでにこの地で何回もダイビングを行っているプロフェッショナル。彼らの指導に従って、これまで学んだスキルを用いれば、神秘的な古城探検を楽しめることだろう。
無事、すべての講習を修了すると、本部から「Cカード」が発行される。今年の夏は、水の中という特殊な環境下で楽しむスポーツ・スキューバダイビングに挑戦し、新しい世界を覗いてみはいかがだろう。
~上海ジャピオン2013年7月19日号