昔ながらの下町風景
若者に人気のスポットも
8号線「老西門」駅から8分ほど東南に向かって歩くと、
道の入り口にそびえ立つ「上海文廟」と書かれた大きな門が目に入る(写真①)。
そこが文廟路の西の起点だ。そこから一歩足を踏み入れると、
昔ながらの風情が残る街並みながらも、今風の若者や、何やら本をたくさん抱えたおっちゃん、
さらには野菜を籠に入れたおばあちゃんと、様々な年代の人々が入り混じっている。
この先には、上海の今昔を体感できる空間が広がっているのだ。
まず、文廟路の通りを見渡すと、細い路地の両側には、小さな店舗が並ぶ。
その大部分は若者向けの店で、
友達や恋人と連れ立ってウィンドウショッピングをしている中高生が大勢見かけられた。
店のラインナップをざっと見てみると、オルゴールやおもしろ雑貨、
プラモデル、アニメグッズ、アイドルグッズ、ハムスター、本屋…とバラエティに富んでいる。
すぐにでも中の様子を覗きたい気持ちをぐっとこらえ、まずは、メインの古本市に突撃開始!
毎週日曜の古本市
早朝から大騒ぎ
文廟路の名前の由来でもある文廟は、道の中心辺りに位置する。
ここでは毎週日曜日の朝7時半~16時まで、今や市街地では唯一という大規模な古本市が開かれており、
多い時で1日約1万人の人が訪れる。
しかし16時まで開いているからと言っても、午後になってふらふらっと現れたのではもう遅い。
争奪戦は開場前の6時台からすでに始まっているのだ。
古本市の出店者は、ダンボール箱やズタ袋に古本を詰め込み、
三輪自転車の荷台に載せてどこからともなくやってくる。
文廟の門前に到着したのもつかの間、古本の匂いを嗅ぎつけた常連客たちが、
わらわらと彼らを取り囲む(写真②)。
門から少し離れたところで商品を広げ、小さな店舗と化している所も少なくない。
よく見ると、周りを囲んでいるのはリュックを背負った常連客だけでなく、
同業者たちも他の出店者の商品を物色しているようだ。
入り口付近でそうこうしている内に開場時間となり、
出店者たちが一気に狭い門へと押し寄せ、荷台ごとどっと流れ込む。
いささか圧倒されたものの、負けじと1人1元のチケットを購入し、後へと続く――。
開場1~2時間でピーク
真剣な客、鷹揚な店主
入場チケット(写真①)を、入り口に立っているおっちゃんに渡して中へ入ってみると、
すでに出店者たちが荷台やシートを広げ、手馴れた手つきで商品を並べている。
出店場所はあらかじめ決まっているため、場所争いが繰り広げられることもない。
黙々と作業が進められ、作業と並行して周りを人垣が取り囲む(写真②)。
開場して1~2時間もたつ頃には遅れてやって来た人々も増えだし、
すっかりピークを迎え、賑わいを見せる(写真③)。
出店数は大体40~50軒程度。
掘り出し物を見つけようと真剣な眼差しの客に比べ、出店者は、
必死に売りさばく様子はあまり感じられない。
隣の出店者や常連客とおしゃべりをしたりお茶を飲んだりと、
開場前の様子とはうってかわって、のんびりとした雰囲気。
出店者の1人に話を聞いてみると、出店だけを生業にしている人はおらず、
趣味のようなものだという。
貴重な中国版コミックス
交渉術を駆使
人垣の間からいよいよ商品の物色を開始。
まず目についたのは、「連環画」や「小人書」と呼ばれる
40~50年代に流行った小さな中国版コミックス(写真④)。
専門で扱っている店だけで、5~6軒はある。
上下巻セットで売られているものが多く、平均で2冊セット20元程度。
保存状態が良いものほど高値がつくらしく、同じ商品でも装丁によって倍の値がついたりする。
ラインナップは中国の故事や世界の童話、革命劇などが主だが、中でも外国人に人気なのが、
ベルギーの漫画家・エルジェ原作の『タンタンの冒険旅行』(中国題『丁丁歴険記』)シリーズ。
特に、中国を舞台に描いた『青い蓮』(中国題『藍蓮花』)は一番人気。
店舗によって多少値段も違い、まとめて購入すると安くしてくれたりするので、
じっくり吟味して交渉する必要がある。
掘り出し物が盛りだくさん
〆は孔子にお祈り
一番端の店では、地面にシートを敷いて雑誌やアニメ本などを売っていた(写真⑤⑥)。
翻訳されたものに混じって、日本語のものも結構ある。
このシート上で売っているものに関しては、出店者も客も取り扱いが雑で、
ぼんぼん放り投げている人も多かった。
ほかにも、宮崎駿アニメの絵コンテ集(写真⑦)や日本の翻訳漫画、古いレコードや骨董品、
古写真、さらに誰かの結婚証(写真⑧)まであったりと、ありとあらゆるものが盛りだくさん。
何周も見て回ったあと、最後に奥に立っている孔子像にお祈りをすることに。
1枚3元の短冊に願い事を書いて吊るし(写真⑨)、名残を惜しみつつ昼頃に市を後にした。
訪れる度に違う品揃えとなるのがこの古本市の魅力。
今週末はどんな本が売りに出されるのだろう…と考えると夜も眠れず、
日曜の朝になると気づけば文廟界隈をうろうろしている…
という状態になれば、もう常連客の一員だ。
もう1つの古本市
翻訳本が豊富
この文廟内の古本市のほかにもう1つ注目したいのが、
ちょうど文廟の北側に位置する「上海文廟書刊交易市場」(写真⑩)。
ここは日曜だけでなく、朝8時半~15時半まで常時開いており、
新刊が卸売り価格で売られている。
ラインナップは地図や旅行書、子ども向けの参考書などが主。
ほかに、金原ひとみの『蛇にピアス』(中国題『裂舌』)や渡辺淳一の『鈍感力』、
京極夏彦の『魍魎の匣』など、古本市ではあまり見かけられなかった日本語の翻訳本も、
定価の7~8割で売られていた(写真⑪)。
日本の翻訳漫画もセットでキレイな状態で売られているので、
古本市で目当てのものがなかった時は、こちらもチェックして帰ると尚良いだろう。
紹興酒でまったり昼ご飯
戦利品にほくそ笑む
? 少し疲れも見え始め、どこかでゆっくりお昼でも…となり、
文廟のすぐ西側にある孔乙己酒家(写真①)へ。
営業時間は11時~14時、17時~22時。
紹興料理を提供するこの店では、紹興酒はもちろん、
ソラマメや豚バラ肉の煮込みなど、紹興酒と相性抜群な料理が充実。
古本市で手にした戦利品を眺めながら、まったりと過ごせる。
レトロなマッチ箱カバー
若者たちの人気スポット
エネルギー補給後は、文廟路沿いにある店舗を覗く。
まずはマッチ箱カバーの店(写真②)。
店内や外壁に番号を振った図柄がびっしり貼られており、
番号を店主に伝えれば、奥から新品を出してくれる。
基本はセット売りで、2元~。
中国らしさ溢れる京劇や歴史上人物から、動物、世界の童話など、
あらゆるテイストが揃っている。
女子中高生が群がっているのは、文房具店やアクセサリーショップ、
そして日中韓アイドルグッズ店(写真③)。
オタク風男子はプラモデルの店(写真④)やガチャガチャの店(写真⑤)を念入りに物色している。
さらに小さな子どもは、駄菓子店(写真⑥)に興味津々だ。
昔ながらの下町を歩く
広がる庶民の生活空間
最後に、文廟路の一本北に位置する夢花路を歩いてみる。
麺類や揚げ物などを売る店が軒を連ね、道には洗濯物が吊るされており、
昔ながらの下町といった風情だ。
しかし、そこは彼らの生活空間。
みだりにカメラを向けたりせず、雰囲気だけ味わい、その場を静かに後にした。
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~上海ジャピオン10月9日号より