怪奇・心霊世界への誘い③

中国の怪奇・心霊キーワード

 国が違えば文化も違う。中国で怪奇・心霊に関する話をする際に、知っておくと便利な(=より怖くなれる)キーワードを予習しておこう。

【鬼】
 中国語の「鬼」は、日本のオニとは全く違い、むしろ日本の幽霊に極めて近い存在を示している。例えば、死者を祭る日を「鬼節」と呼ぶ。
 ちなみに、中国語にも「幽霊」という単語があり、意味も日本語とほぼ同じだが、「鬼」とは少々ニュアンスが異なっている。一般に、「幽霊」が生前の姿で現れるのに対し、「鬼」は何か得体の知れない恐ろしいものに変じた死者であり、生ける人間に害をなすもの、というイメージがあるようだ。

【清明節】
 旧暦の24節気のひとつで、祖先の魂を供養して墓を清める祭日。現在は、新暦の4月5日頃にあたる。
 この時期は、日本の「お盆」や「お彼岸」のように、墓参りの風習があるほか、幽霊や不吉な魂など、あの世の存在も現れやすくなると考えられている。怪談には打ってつけの季節かも知れない。実際、今回取材した中国人の何人かは、「幽霊なんていないよ。そんなものが出るのは清明節だけさ」と言っていた。幽霊を信じているのかいないのか分からない話だが……。
 ちなみに、地方によってはこの時期に柳の枝を飾る風習がある。そのため、ここで結びついた柳の木=死者というイメージが、日本に渡って「しだれ柳と幽霊」というお決まりの画になった、という説もある。
 また、あまり知られていないが、清明節以外にも冬至や夏至の日も「鬼節」と呼ばれ、怪異に遭遇しやすくなるという言い伝えもある。

【筆仙】
 日本でもお馴染みのコックリさん。中国でも「筆仙」という名で、特に女の子の間でよく知られている。2005年には、筆仙遊びにのめり込んだ北京の女子中学生が同学年の生徒を殺すという事件が報じられた。日本と同じく無数のバージョンがあるが、一例は以下の通り。「銭仙」「碟仙」という亜流もある。
1・アルファベット、数字、男・女、是・否、などを記入した紙を準備する。
2・ふたりで向かい合って座り、机の上に置いた紙の上に1本の鉛筆を立て、ふたりで握る。
3・「筆仙、筆仙、おいでください」と唱える。
5・鉛筆が自動的に動き出したら、知りたいことを声に出して質問する。その都度、鉛筆がその答えを指し示してくれる。
6・最後はお礼を述べ、「筆仙、筆仙、お帰りください」と唱える。
※鉛筆が自動的に倒れるまで、絶対に自分から手を離さないこと!!

中華ホラー事情

「子、怪力乱心を語らず(孔子は怪異や神秘を信じない)」。そんな中国でも、ホラー系の娯楽作品は多い。古典的作品に絞り、小説と映画から中国のホラー事情を見てみよう。

怪奇小説はユーモアと恋愛あり

 3世紀に編纂された『捜神記』の中には、妖怪や怪異が多数登場する。内容は怪談というより神話や伝説に近いが、日本の昔話への影響も見て取れるのが興味深い。

 怪奇小説として最も有名なのは、清代の蒲松齢による物語集『聊斎志異』だ。小泉八雲や柳田國男のように、自ら収集した民間伝承をもとに、幽霊や動物霊が登場する多数の短編を書き残している。内容は恐怖よりユーモアを感じさせるものが多く、またロマンスの要素もある。このセンス、近代映画の中まで、脈々と受け継がれているようで面白い。

△上海古籍出版社のハードカバー。定価16元。

アクションと悲恋のホラー映画

手軽にホラーを楽しむなら映画が最適だ。例えば1985年に制作された『霊幻道師(原題・殭屍先生)』は、〝中国の動く死体〟キョンシーを世に知らしめたシリーズ第一作にして、中華ホラー映画の原典的傑作。無数の亜流を生み、日本でも社会現象になった。コメディ要素もあるが、キョンシーの描写は凶悪だ。

 
1987年には『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー(原題・倩女幽魂)』が世界的にヒット。美女幽霊との悲恋という、中華ホラーのエッセンスが楽しめる。余談だが、同作主演のレスリー・チャンは、2002年の『カルマ(原題・異度空間)』で霊に取り憑かれる役を演じたのを最後に自殺しており、一部では心霊現象のせいだと噂された。
 最後に、そのレスリー主演でリメイクも制作された『深夜の歌声(原題・夜半歌聲)』を紹介したい。これは1937年制作の大陸映画で、内容は中国風『オペラ座の怪人』。中国映画の中でもカルト的人気を誇り、『フランケンシュタイン』の怪奇描写が好きな人には特にオススメ。日本では入手困難なので、この機に中国版を購入するのもいい。

△VCD、定価13元。主演俳優は金山。

心霊現象の予防と対策

面白半分で心霊現象を追いかけて、悲惨な最期を迎える……そんなホラー映画みたいな結末にならないよう、身を守る方法についても知っておきたい。日本では清めの塩が有名だが、中国ではどんな方法があるのだろう。

魔除けアイテムをゲット

中国語ではお守りを「護身符」と呼び、いろいろなタイプが寺院などで購入できる。また、魔除けにはお経もオススメ。場所によっては、仏画と一緒に無料配布している。
 なお、道教や密教に由来する「霊符」もあり、これはキョンシーの額に貼るお札と言えばわかりやすい。強力そうだが、占星術など複雑な知識体系と結びついているので、素人には扱いづらいアイテムのようだ。

△龍華寺のお守り。右から法輪25元、閃光護身符15元、福袋15元、般若心経5元。小さい経典と仏画は、静安寺にて無料入手

善人なら怖れる必要なし

 最後に、専門家(?)の意見を伺ってみよう。上海でもよく知られた寺院で、幽霊について聞いてみた。
「〝為人不做虧心事、半夜不怕鬼敲門〟。つまり、やましいことがなければ、お化けにおびえることもありません。それでも怖いなら、それは高所恐怖症と同じ。漠然とした不安があるだけでしょう」お坊さんの口調は、あっさりとしたものだ。

 
その後、いわゆる怪奇スポットについて、「交通事故がよく起こる場所は、単に事故が起きやすい環境なだけ」「家で人が亡くなるのは珍しくなく、前の住人が亡くなっていたから呪われる、などと騒ぐのはナンセンス」と淡々と話してくれた。古今東西、怪談のラストは結局こうなるのかも知れない。
「幽霊の 正体見たり 枯れ尾花」

~上海ジャピオン8月4日発行号より

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