オールド上海の味わい
赤みがかった艶っぽい紅木で作られた、重厚感のある家具――アンティーク家具店「典傳家具」には、そんな古き良き〝オールド上海〟の家具が、身を寄せ合うようにして陳列されている。
同店に並ぶのは、1910~40年代に上海で作られた家具や食器、生活用品など。中華人民共和国が成立する直前の、生活様式や流行が色濃く反映されたものが多い。では同店のオーナー劉さんの案内のもと、ユニークなアンティークを見ていこう。
角が丸く、コロンとしたフォルムがかわいい飾り棚(写真①)は、10~30年代にヨーロッパやアメリカを中心に流行したアール・デコ様式を反映。この様式は写真②のイスや③の茶卓にも取り入れられており、海外の文化をいち早く取り入れた上海らしいデザインだ。「上海の家具は紅木を使っているので、全体を見ると男らしく、どっしりとした感じ。だけど細部は曲線を使ったり、彫刻を施したり、女性らしい雰囲気なんだ」とは劉さん。剛・柔の絶妙なバランスが「海派(上海スタイル)」の魅力だという。
生活とともにあった家具
一方、オールド上海といえば、写真⑤のような、鮮やかな色使いの図柄が代表的。同店ではこういった小物が至る所に点在する。テーブルにさりげなく置かれていた錫製ポット(写真⑥)には「何徳」の文字が。これはおそらく「何能」と刻まれたポットとペアで「何徳何能(道徳心もなければ能力もない、謙遜の意)」として使われていたとのこと。もう片方は、今もどこかで使われているのだろうか…。
どの家具にも使い込んだ傷や名前のサインが付いており、持ち主の人となりが見えるよう。人情味たっぷりの家具たちを、家に迎えてみてはいかがだろうか。
国際博覧会出品の芸術品
延安中路を歩いていると目に入る、まるで城のような外観のアンティーク店「欧洲古董別墅傢俬」。ショーウインドウから見えるヨーロピアンな食器の数々に惹かれドアを抜けると、やさしい笑顔の林(リン)オーナー夫妻が出迎えてくれた。そして店の奥に眠っていたのは、意外にも、日本製のアンティークの数々だった。
アメリカやヨーロッパに買い付けに行くことが多い林オーナー。そこで写真①のような、日本・明治時代に海外輸出用に作られていた、飾り棚などに出会うことも多いという。どの棚にも細かい彫刻が施され、思わずため息が出てしまう美しさ。
そして同店2階に展示されていた茶卓「猿」(写真②)は、なんと1851年に英・ロンドンで開催された、世界初の国際博覧会に出展されていたというもの。黒々とした漆と、長崎県産のアオガイを彩色して作られた装飾。3匹の猿が天板を支えるユニークなデザインは、当時の技術の高さを思わせる。
海外に流通する日本工芸
さらに林オーナーの秘蔵コレクションとして見せてもらったのは、七宝焼の花瓶(写真③~⑤)。林オーナーが、最初に七宝焼に出会ったのはベルギー。「ある画家が持っていた七宝焼に惚れ込んで買ったんだ。画家は、20個のうち半分ほどしか売りたくないと言ったんだけど、絵も買ってあげるから、全部売れ! って言って持って帰ってきた」と話す。100個集めるのを目標としていたが、もう間もなく達成しそうとのこと。
思わぬ日本文化との出会い。まるで博物館のような品揃えに圧倒されてしまった。いつでも見学に来ていいよ、とのことなので、買うことはできなくても、当時の貴重な工芸品を拝みに行こう。
ヨーロピアンの豪華家具
では引き続き林オーナーに、ヨーロッパアンティークを案内してもらおう。同店1階には食器棚、テーブル、食器、グラスなどがびっしりと置かれた、豪華絢爛な広間を4室ほど設置。また、オーストリア国王の弟が思いを寄せる女性に贈った1895年製のピアノや、フランス貴族が作った、高さ約2㍍の馬の像など、こちらも博物館にあってもおかしくないレベルの所蔵品があり、一見の価値あり。
取材班の興味を引いたのは、赤いベルベッドが特徴的なビンテージのイス(写真①)。気球のように膨らんだ背もたれと、カブリオールレッグと呼ばれるネコの脚のような脚は、アニメで出てくるお姫様のイスそのもの。優雅でエレガントな雰囲気が魅力だ。そしてその傍らに置かれていた漆器のうちわ(写真②)もまた、金属の持ち手と、美しい静物画が貴族の雰囲気を醸し出すが…手に取るとずしりと重く、暑さをしのぐために使うものではないのだな、ということがよくわかる。
貴婦人が愛用したベル
質がよく、値段もよい品物が並ぶ同店だが…取材班でも手の届きそうな価格のものはあるだろうかと物色していると、広間の隅で、パイプ(写真④)、ステッキなどの小物アイテムが見つかった。かつて使用人を呼ぶのに使ったのであろうベル(写真⑤)は今でもチリリンといい音を響かせ、一瞬で貴婦人の気分になれること請け合い。パイプとセットで買って、家で貴族ごっこを楽しみたい。
ほかにもコーヒーカップやグラス、皿、人形など、かわいいデザインのものが探せば探すだけ出てくる。アンティーク好きは、同店で1日を過ごせること間違いなしだ。
~上海ジャピオン2019年9月13日発行号