チャイニーズ・ゆるキャラ

古代中国より伝わる「吉祥物」の変遷

日本ではすっかり定着した「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」文化。ここ中国では「ゆるキャラ」という概念はないものの、「マスコットキャラクター」は「吉祥物(ji2 xiang2 wu4)」と呼ばれ、イベントや企業のシンボルとして活躍している。では「吉祥物」とは一体何を意味するのだろうか。まず「吉祥物」の変遷を見てみよう。

「吉祥物」とは〝幸せを呼び、邪悪なものを退けるもの〟という意味である。日本でいう「縁起物」と意味は近いが、縁起物は食べ物や踊り、歌まで含めるのに対し、吉祥物はそのほとんどが動物や植物の実物、もしくはその偶像、絵画などを指す。

古代より、人々の祈りと幸せを願う気持ちを体現するため、吉祥物は様々なもので表現された。例えば「龍」や「鳳凰」など伝説上の生き物も伝統的な「吉祥物」であるし、「鶴」や「松」は健康や長寿を願うシンボルとして、日本でも馴染み深い。

「吉祥物」の種類や目的が多様化するにつれ、様々な「吉祥物」が描かれたイラストも登場した。子宝を願えば子どもの絵を、富や長寿を祈って魚や翁、松が描かれた絵を家に飾ったり、人にプレゼントとして贈った。今でも旧正月に「福」の字や魚の絵を家に貼り出す家庭も多い。

マスコットキャラクターとしての「吉祥物」

このような文化があるなかで、「マスコットキャラクター」も同じく「吉祥物」と呼ばれるようになった。確かにマスコットキャラたちは、知名度向上のためだけでなく、イベントや企業ブランドの成功と発展の願いを込めて生み出される。そういう点では、元々の「吉祥物」と意味が共通している。

中国のマスコットキャラといえば、「福娃」と「海宝」が世界的に有名だろう。2008年北京五輪の「福娃(フーワー)」は、史上最も多い、5人組のキャラクターで中国の歴史、伝統の素晴らしさを伝えた。また「魚」や「燕」など中国古来の吉祥物を各キャラクターに用いることで、中国国民からも大きな支持を得た。「海宝(ハイバオ)」は2010年の上海世界博マスコットキャラだ。名前を「Harbor(ハーバー)」に似せ上海の港をイメージし、漢字の〝人〟に似た形と青い色で、包容性と中国の潜在的な能力を表した。

このように吉祥物(マスコットキャラ)はそのイベントやブランドの意味と希望を、名前や色や形を用い最大限表現するため、思考と吟味を何度も重ねてデザインされるのものだ。街中で見かけるキャラクターも、様々な生い立ちを持っている。次のページからは、そんなキャラクターたちを一挙紹介しよう。

大白兔(ダーバイトゥー)

上海の老舗ブランドで、「大白兔奶糖(ミルクキャンディー)」は今でも国民的人気を誇る。このウサギのイラストが登場したのは1959年。デザインを手がけたのは上海出身の青年で、絵画が海外の展示会に出品されるなど芸術家として将来有望な人物であった。しかし時代の混乱に巻き込まれ、同メーカー工場の一工員として働いていた時にこのイラストを作成。以降メーカーのトップデザイナーとして活躍した。

白猫(バイマオ)

家庭用洗剤ブランド「白猫」のロゴマーク。効果線の中心に配置された、カッと目を見開いたネコはインパクト大だ。このロゴは48年より、半世紀に渡り使用されていた。ところが2006年の企業再編に伴い、ロゴのネコもつぶらな瞳にチェンジ。このような〝萌え〟路線へのキャラ変更は近年多くの企業で見られ、味のある中華風デザインが消えていくのはなんとも惜しい限りである。

伊仔(イーザイ)

菓子類を販売するメーカー「来伊份」。店頭に掲げられている黄色く真ん丸な顔は、誰もが一度は目にしたことがあるだろう。「伊仔」はこれに手足を生やしたキャラクター。クルミ国「沃」部落の妖精で、11歳の時に部落のある使命を背負って人間界に来た…という詳細なキャラ設定のもと、グッズ販売や販促活動を行っている。

旺仔(ワンザイ)

中国台湾発の菓子類メーカー「旺旺」のマスコットキャラ「旺仔(旺旺坊や)」。陽気でのほほんとした表情とは裏腹に、彼の髪の毛や両手両足1つひとつに、企業の希望と信念がギッシリと込められている。右手は「提携」、左手は「団結」、上向きの目線は「高収入・高成果」…といった具合だ。旺旺坊やの全身には、35年に渡る会社の経営理念が詰まっているのだ。

海爾兄弟(ハイアーションディ)

1985年、家電メーカー「海爾(ハイアール)」が設立して間もない頃に「ハイアール兄弟」はデザインされた。その10年後、海爾企業集団は巨額を投じ全212編の長編アニメ「海爾兄弟」を制作。全世界を駆け巡る兄弟の冒険劇は当時の子どもたちを魅了し、国内アニメの最高賞を受賞した。また昨年、ハイアール兄弟のイラストコンテストをネット上で開催したところ、7000点の作品と15万以上の投票があり、兄弟が今もなお愛されて続けていることがわかる。

OPENちゃん(オープンちゃん)

コンビニ「セブンイレブン」が中国台湾と上海市のみで展開しているマスコットキャラ。中国台湾ではキャラクターショップを構えるなど絶大な人気を誇る。キャラクター展開やグッズも豊富で、上海でも着実に人気を集めつつある。夢は故郷のOPEN星にセブンイレブンを開店し、そこの店長になることだそうだ。

億億醤(EEちゃん)

中国ローソンの公式キャラクター。青いリボンのツインテールがとってもキュートな高校2年生女子で、手を身体の前で合わせた接客ポーズがデフォ。昨年、バーチャル網紅(ワンホン)としてネットデビューし、笑ったり泣いたりと、ユーチューバー顔負けの熱血演技を見せている。「億億(イーイー)」という名前の由来は、彼女が考案された時に日本人が口を揃えて「いい、いい!」と言ったからなんだとか。

暢暢(チャンチャン)

赤と白の滑らかなフォルムに、車輪がついた足。軌道交通のキャラクター「暢暢」は、2009年に一般公募が行われ、全国各地から集まった829作品の中から選ばれた。名前は〝歓暢(楽しい)〟、〝暢通(スムーズ)〟、〝暢想(自由に考えを広げること)〟の3つの意味を持ち、上海軌道交通の利便性と都市の発展を表している。

氷墩墩(ビンドゥンドゥン)

2022年開催の北京冬季五輪公式キャラクター。〝墩墩〟はドゥンドゥン、と発音し、元気でチャーミングな様子を音で表現したという。

ずんぐりむっくりなボディは、よく見ると透明なスーツに覆われているが、これは氷でてきているそう。さらに見た目を宇宙服に似せることで、未来感を出している。また左手には全世界に向けた友愛を表すハートマーク付き。

空気宝宝(コンチーバオバオ)

空気汚染が気になるこの時期に大活躍の「空気宝宝」。表情と髪の色で空気汚染度を教えてくれる。元は環境局の職員が作った1枚のイラストだったのが、13年の名付け投票を経て「空気宝宝」として発表された。今季は彼女が毎日笑顔でいてくれることを願おう。

可可小愛(カーカーシャオアイ)

公共バスのテレビなどで放映されている、かわいい赤ちゃんのアニメ。これは道徳教育アニメ『可可小愛』で、〝食べ物は残しちゃダメ〟、〝ポイ捨ては止めよう〟、〝公共物は大切にしよう〟などを動物たちとやさしく教えてくれる。同シリーズはなんと500話以上あるんだとか。

 

~上海ジャピオン2020年8月28日発行号

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